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農作ドラゴン


「……でも、大丈夫なんですか? 人食い花とかマンドラゴラとかできませんよね?」


 植えてみることにはしたが、しかし一応確認して置こうとセバルトは尋ねる。


「あっはは、センセイも心配性だな。肉食の野菜だってせいぜいモグラくらいしか食べないから安心しなって」


(食うのかよ!)


 飼い犬や猫を食べられても困るので、食肉植物はやめさせて、それ以外の安全なものを寺院に植えてみることになった。


「楽しみ。どんな花が咲いて実がなるか」

「ふっふふ、楽しみにしてくれてて好いぞ。きっと見たことのないもんになるからさ」

「それはそうでしょうね。うん。……レカテイアさん、来て良かったでしょう


 笑っているレカテイアに尋ねると、頷いた。

 セバルトは小さな声で続ける。


「こういうのも、人間の社会でやっていくコツなんですよ」

「なるほど……ショセイジュツってやつだな。覚えとくよ、センセイ」


 口の端を持ち上げ、レカテイアは答えたのだった。




「よいしょっと」


 畑の中の使っていない区画を利用し、魔領の作物を育てることが決まった。

 レカテイアはいくつかもっているようだが、まずは子豚のような実をつけるという果物からだ。


 豚の耳のような地下茎を植えると、そこからにょきにょきと生えていくということで、畑を耕しそれを植えていく。

 酸素と光がない方が育ちやすいというなんだか不思議な性質をもっているということで、深めに穴を掘っていく。

 土をガツガツとセバルト達はほっていくが、単調な力作業なのに段々と楽しくなっていく。そこまで広いスペースではなかったので、夕方になるこには必要な作業は全て終えることが出来た。


「ふう、……こういう風に汗をかくのもいいですね」

「精霊の愛を実りとして受け取って、それを食べて精霊に奉仕する。シャーマンの鑑だと思うよ。ボクは」

「自分で言うんですか」

「自分で言えば、大体の人はそれは違うと言いづらいから。先制攻撃」

「ふっ、なかなかやりますね」


 汗を拭いながら、日陰で休んでいるセバルトとネイ。作業を終えた後の畑を見ていると、満足感が湧いてくる。


 敵を倒して倒して倒していくのではなく、誰とも争わずに何かを生み出すというのもいいものだ、とセバルトは思っていた。


「いやぁー……どうもどうも俺のためにアリガトウおふたりさん」


 と軽い調子で歩いてきたのはレカテイア。

 

「最後に畑のチェックをしていたんだ」

「そっちこそありがとう。ボクらはあんまり詳しくないから、レカテイア君がこの野菜の育てるコツとか教えてくれて助かるよ」

「ワッハッハーまぁそれがギブアンドテイクさ。おれも地元じゃなきゃ食べられないこーゆーのが旅先でもたっぷり食えるなら願ったり叶ったりだからね」


 よいしょこらしょとジジ臭い掛け声をあげて、レカテイアも日陰に座って並んだ。竜人なので見た目はセバルトよりも若いぐらいだが、実年齢はもっとずっと上なのかもしれない。


「労働ってのもいいものだね」

「うん。心配事もなくなって、さわやかな気分。一つ祈っていく?」

「おっ、いいねぇ。俺は見たことないんだよね。じゃちょっとやっていきますか」


 乗り気なレカテイアは勢いよく立ち上がった。やっぱり好奇心は旺盛のようだと思うセバルトはネイの視線に気づく。


「どうかしましたか?」

「セバルト君にも、見て欲しいかなって。小さい火だけど、今はつけられるようになったんだ。僕が聖火をつけるよ」

「……それは、是非見なければいけませんね」


 ネイは、トラウマから火をつける魔法はその力にもかかわらず使えなかった。使わなかった。だがそれができるようになったというなら、あそこで精霊を鎮めた価値はあったんだろうとセバルトは思う。


 手を動かして燃え盛るようなジェスチャーをするネイにセバルトは頷いた。


 そして寺院の中に入り祈祷所へと三人は行く。

 ネイは小さく深呼吸をして、炎の魔法を発動した。それによって点けられた聖火は力強く、精霊まで間違いなく届くとセバルトは確信した。




 そうして、レカテイアの授業も何度か行い、ある程度町のことを把握できてきたであろう、歩き回っても何も困らなくなってきた頃の授業中。

 セバルトは言った。


「レカテイアさん、今度は僕に教えて欲しいんです」

「……へぇー、先生が俺に教えてもらいたいだなんてちょっと面白いじゃん」

「面白いかはわかりません。教える方が、教わるよりも大変ですよ」


 セバルトとレカテイアはともにニヤリと笑った。

 そして二人はセバルトの家へと向かう。レカテイアに日常生活のことを教えた後に逆に教えてもらうために。


 テーブルを挟んで向き合う二人。テーブルの上にはセバルトが用意したお茶請けが置いてある。レカテイアはそれをひと切れ口にいれた。


「ふんふん……なかなかいい味じゃないか。甘くて。不思議だよねえ、センセイ。人間の食べ物でも魔物にも結構口に合うんだから」

「魔物の中でも竜人だからじゃないでしょうか。アビスワームなんかは、人間とは好みが結構違いそうです」

「あはは、それもそうだな、センセイ。俺たちは人間の姿も取れるから、多分舌も似てるんだろうな、人間と」


 膝を叩いて笑うレカテイアはちょっと口をつぐんで身を乗り出した。


「それで、何を教えてほしいだって」

「この前話してたことの続きです。マナの量が多すぎるという」

「ああ、あのことか。知ってることなら何でも話すさ、センセイに聞かれれば」

「ありがとうございます」

「といっても、この前話した以上の事は大してないけどな」

「旅の目的は精霊のことが知りたいなどといっていましたけれど、それについてもっと知りたいんです。マナが多すぎておかしな現象が起きているともいいましたよね。精霊も、もちろんなのですが.後半のマナについての調査について僕が気になっているんです」


 セバルトには心当たりがある。

 湖が凍るというようなことが増えているというのなら、思った以上にいろいろなところに影響が出ているのだろう。

 マナの過剰は看過しかねる問題といえる。


 そして……人間よりも大きくマナに依存した存在である魔物達にとっては、それは人間以上に深刻な問題だ。


 そう、ちょっとした旅で来るというよりも、よほどらしい理由である。

 マナの過剰によってなんらかの問題が起きていて、その解決のためにレカテイアが来たというのは。


 そして、その解決に腕の立つ人物を必要としているのではないかということも。 わざわざ魔物の領域から来た理由は――。


「はじめから、マナの過剰を調査するために人間の領域に来て、それを解決できる人材を探していたのではないですか」


 それがセバルトの推測。


 レカテイアは嘘をついているとまでは言わないが、考古学や観光が目的というのは本当にそれが最大の目的かを考えると怪しい気がしたのだ。


 魔領からここに来るのは結構大変だ。わざわざ来るにはそれなりの理由が必要。それにセバルトに声をかけたのも、もちろん古代の遺跡には危険もあるが、それなら実際に行くときに見つければいい話だ。


 ある程度は隠していることがあるかもしれないと思いつつ、もしそうならむしろ自分のそばにいた方が安全だと思い追求しなかった。

 しかし、異変が起きていることを鑑みると、一度問いただした方がいいと考え直したのだ。

 

 セバルトはレカテイアの、竜の特徴を微かに残した目をじっと見つめた。

 レカテイアは見返していたが、やがて諦めたように首を振り。


「うーん……さすがセンセイかな」


 と言って、軽い口調で、しかし真剣な目で語りはじめた。


「その通りさ。俺はもっと重要……かどうかはまだわからないけど、多くの人に影響を与えるような目的を持ってやってきた。マナのバランス。それを調べて、可能なら調節するために、そもそもやってきたんだ。竜湿原の代表としてね」



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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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