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竜人の日常


 暴走する精霊の力を生徒とともに抑えたセバルトは、またいつもの生活に戻った。

 そして、いつもやっていることの中の一つを今はやっている。


 新たな生徒、竜人レカテイアにセバルトは言った。


「――と、あそこでの戦いの後はそんなことがあったわけなんですが、どうして全部終わった後に寺院に一緒に来なかったのですか」


 まずはこの前の精霊との戦いのことについて話していたのだが、そこでセバルトが気になったのは、一緒に様子を見ていたレカテイアが、戦いが終わるとともにいつの間にか姿を消していたこと。


 レカテイアは、帽子をかぶった頭をかきながら。


「いやあ、だってさ。俺はただ見てただけなのに、必死にやってたあの、生徒達とかセンセイに交じったら悪いじゃん? だから退散したんだよ」

「そんなこと。気にしなくていいのに。むしろ異常の原因を考察してくださったレカテイアさんは、一番重要な仕事をしたと言っていいくらいです」

「センセイ、あんたいい人だなあ。しかもセンセイの弟子ってのが信じられないくらい強いし。生徒もギルドで一番強い、いや暴走する精霊の化身を止めるなんて、それ以上じゃないか?」

「さすがに過大評価しすぎですよ。まだまだ彼らは勉強中です。それに、僕は彼らよりも力は劣りますよ。色々耳にしているので、教えることはできていますけど」


 レカテイアは疑いの視線でセバルトを見る。

 だがセバルトは動じたら負けだと続ける。


「それにそれを言うなら、レカテイアさん、あなたの知識とアドバイスがあったからです。ありがとうございます」

「いやいや、俺なんて一原因だけわかったけど、どうやって解決するか完全にノープランだったからね。まあでも、センセイにそう言ってもらえるなら、ありがたく受け取っておくか」


 町の周辺を歩いていきながら、セバルトとレカテイアは話していた。

 周囲にある森や湖や荒れ地、そういったものなどの地形を説明しているところなのだが、そのときちょうど魔族との大規模な争いのあった荒れ地を通った。


「この荒れ地で、魔物たちとの大規模な戦いがありました。なんとか退けたのですが、いまだに危ないことを考えてるものはいますね」

「一応言っておくけど、俺は違うよ?」

「ええ。そうであると信じています」

「若干疑われてるような……まあ、人間って結構強いんだなあ、退けられてよかった。しかし、魔物との大規模な争いねぇ……」


 レカテイアは珍しく、渋い顔をした。

 話で聞いた戦闘を思い浮かべるかのように、今は何もない荒野を体ごとぐるりと回りながら見渡す。


「心配ですか」

「まあ、心配さ。俺は一応、人間とはそれなりに友好的にやっていくつもりだし、お互い争って気まずい間柄になったら、面白くはない」


 それはその通りだろうとセバルトは思う。

 セバルトが落ち着いていられるのは、ある意味どんな魔物であろうとすでにそれ以上の脅威を見てきたからだ。

 そんな経験のない人達が、魔物が人間に悪意を持ち、なおかつ力を持っているという認識をもったら、レカテイアのような魔物に対しても友好的に接するというのはなかなか難しいところだろう。どうしたって怖いという気持ちが先に来る。


「これ以上争いが起きなければねいいですね」

「ああ、本当そう思うよ。一応そのために俺としても考えてることもあるんだ。……まあそれはとりあえずそれとして、今度は町の中を見てまわろうぜ、センセイ」


 何かを考えるような顔をしたかと思うと、レカテイアは振り返り町に戻るように歩を進める。



 新たな生徒を引き受けることになったセバルトは、竜人の生徒に人間の常識を教えるため、町を案内する。


 正直なところ、過去から来たセバルトが特別詳しく教えられる分野では全くないが、とはいえ魔物でも恐れず教授できるという意味ではセバルトがいちばん適任ともいえる。


 まず、町にある各施設の使い方を教えることにして、最初に向かった場所は、井戸。生活する上で最重要な水の調達だ。


「井戸は共用のものだから、汚したりしないように気をつけてください。ここで水をこうやって汲んで、容器に入れて自分の住んでるとこに持って帰ってつかうんです。この水くみ用の桶に直接口をつけて飲んだりするのは駄目です」

「へい了解~」


 レカテイアはひらひらと手を振ると、やってみたいと言い出した。実際に水を汲んでやり方を覚えて、セバルトの持っている容器に入れてみる。


「なるほどっねぇ。覚えた覚えた。次はなんだいセンセイ」

「他には――」


 セバルトは最初に考えていたプランどおり、次は公衆浴場へと向かむ。


「これは、水浴びみたいなものものだな?」

「大体そんな感じですね。いろいろルールがあるのですが、基本中の基本は洗い場で体の汚れをおとしてから浴槽に入るということです。これを守っていればとりあえずは最低限大丈夫です。あと男湯と女湯があるので、そこも注意してください。これは好奇心なのですが、竜人はこういうことはどうしてるんですか?」

「普段は適当に水浴びするくらいだけど、少し遠いところに熱い水が湧き出してるところがあったかなぁ。温泉ってやつさ。あれはなかなか気持ちよかったぞ。痺れるねえ、あれは」


 目を閉じて唸るレカテイア。見た目に似合わず年寄り臭いところがある竜人だ。


 温泉がすぐ近くにあるとは羨ましいなと思いつつ、セバルトは次の人間の町での作法を教えていく。

 お次は、買い物の仕方だ。


「これぐらいなら俺もわかってるさ。金を払って変わりに商品をもらうんだろう」

「ご存じでしたか。ある程度は、調べてきたんですね」

「もっちもっち。魔領でも調べたし、最低限度はわきまえてるんだよ、俺って」


 つまり、セバルトに求めるのは足りない分を補いたいということか。冒険者ギルドに行き、実力者とみてセバルトの元へ来たくらいだし、必須のことは知っているのだろう。お風呂の入り方までは調べていないようだったが。


 ともあれ雑貨屋の前に来たレカテイアは、あごに手をあて、じいっと商品を眺めている。

 セバルトは財布を取り出しつつ尋ねる。


「そちらにはお金はあったんでしょうか」

「魔領じゃ物々交換だったかな。なんといっても種族ごとに違う文化って感じだからさ、俺たちは。そういう統一ってのはなかなか難しいんよね」

「人間も同じようなものですよ。地域によって国によって、違うものを使っていますし。それぞれの間で変換はできますけれど」

「そういうところが人間ってマメだよなあ。俺たちは面倒がってやらないからね、そういうこと。それで結局もっと不便で面倒なことになるんだから世話なしよ。人間のところのこの店の品揃えとか見てると、面倒でもちゃんとやった方が良さそうだけどなー」

「はは、そうですね」


 街を歩いているだけでも、レカテイアは大きく頷いたり小さく頷いたり、見かけたものにぺたりと触って叱られたり、なかなか楽しんでいるようだ。

 セバルトのほうも、歩きながら聞く魔領の話、特に竜たちの住まうドラゴン・ムーアのことは興味深かった。


 竜人達には長老がいてまとめているなど、人間とある程度似た社会を作っているらしいが、話を聞く限りでは人間の町よりも不便で、そして人間の町よりも自由なようである。


(さて、どちらがいいものか、それはなかなか難しいところだな)


 セバルトの方はそんなことを考えつつ、町をゆっくりと歩いていた。


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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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