木の葉を森に隠すなら森はどこに隠す?
パンチが効かないとなった炎の巨人は、今度は上空から無数の炎の雨を降らせてきた。
今度はロムスが、水の盾を大きく上向きに展開して防ぐ。水の盾は水蒸気を舞い上がらせながら、火球を受け止めていく。
「やるね、ロムス君! それじゃあ、今度はこっちからいくぞ!」
メリエが今度は自分から炎の化身を攻めていく。
素早い動きで水魔法を帯びた剣で炎の腕を切断していく。ロムスの援護を受けて反撃を華麗にかわしながら、一本、二本と切断していき、そしてついに六本あった炎の腕を全て切断した。
「よし! これで砲台みたいに炎を出してくる腕は全部潰したっと! これでだいしょう……え? うそ」
メリエが剣を高らかに掲げた姿勢でかたまった。
その視線の先で起きていた光景、それは炎の化身の腕が次々に再生していく姿。切断面から炎が吹き上がり、それが再度豪腕を形作っていく。
そして、あっという間に再び六本の炎の腕が揃い、火球を弄び始めた。
「ちょっとちょっと、話が違うじゃないの先生!」
「僕は何も話してませんけど」
わたわたと慌てた様子のメリエが、後ろで見ていたセバルトにすがるような目で振り返る。
剣で切っても元通り再生されるとあっては、剣士としては困ったところだろう。
「あれじゃいくら切ってもきりがないわ!」
メリエが再生した腕を指さすと同時に、火球が放たれた。
ロムスがそれをすかさず打ち消す。
「やっぱり、これまでと同じようにあの腕で攻撃できるみたいです」
「それじゃあやっぱりだめじゃない。どうしたらいいのこれ!」
防戦一方になりつつ、生徒二人は頭を悩ませる。
防ぎながらどうしたらいいのか考えているが、攻撃しても何も変化のない相手に、攻略の糸口が掴めないようだ。
――だが、炎の化身を注視していたセバルトは、本当は変化していることに気付いていた。
しばらく攻撃が続き、いったん波が収まり炎の化身が力を蓄えたタイミングで、すっとセバルトは前に出た。
「二人とも、よく相手を観察するんです。それが道を開くこつですよ」
「観察って言っても、再生したってことはわかってるわよ」
「もっとよく見るんですよ」
ロムスとメリエは、言われたとおり炎の化身に注目する。
ロムスは難しい顔で眉をしかめた。
「うーん、いったいなにが――」
「あ! 小さくなってる!」
遮るように、メリエが叫んだ。
炎の化身の腕を指さし、セバルトの肩を嬉しそうに叩きながら。
「体が少し小さくなってるのよ。きっと、腕をつくるために炎を使ったから、その分小さくなったんだ。でしょ、先生!?」
「たいへん良く気付きました」
セバルトは解答に満足したように頷いた。
感心したロムスの顔に、メリエもご満悦だ。
「ふふん」
「……でもまだ80点」
「む。他にまだあるってこと? ……あれ、小さくなってるけど、それだけじゃなくて、脇の下あたりに何か……黒い煤みたいなものが?」
メリエが目を凝らす。
ロムスも釣られるように目を凝らし、そして頷いた。
「あそこから一番強い魔力を感じます」
「ってことは――もしかして、あれってランプの芯みたいなものなんじゃない?」
「そうかもしれません! 最初は隠してたのが、炎が減って見えるようになったとしたら、それはつまり隠したいものということになりますから――」
「そこを狙えば再生されずにやっつけられるってわけね。そうでしょ先生!」
セバルトが「ご名答、あれが弱点でしょう」と言うと、メリエは力を込めた声で。
「よーしロムス君、終わりにしよ。あたしが腕をザクザク切ってガードできなくするから、炎の化身の芯に水をぶち込んでやって」
「はい!」
すぐさま二人は動き始めた。
水の剣でメリエが何度も腕を切って、炎の化身が攻撃や防御をできないようにしていき、その間ロムスは魔力を集中し、これまでで最大の魔法を放とうとする。
「いきます! これで、終わりにしましょう。『模海』!」
ロムスの最大まで魔力をつぎ込んだ魔法図が完成した。
四方から巨大な水球が出現する。それらはロムスの前に集い、煤のようなコアへと的が絞られる。
そして発射された水球はそこに向かいつつ合体して高速・高密度の弾丸となって炎の体を抉り、そして、あやまたず炎の化身の核を貫いた。
一瞬、だった。
核が破壊された瞬間、炎の化身はその全てのエネルギーを放出するように形を崩し炎そのものとなって、空高くへと立ち上り、雲とぶつかり打ち消し合うように空にとけていった。
「やったー! やりました!」
「ナイスロムス君! やる男だと思ってたよ!」
両手をぶんぶん振り回してはしゃぐ生徒二人。
セバルトはその様子に安堵していた。
(無事でよかった。それに、完全に炎の化身を力では圧倒していた。俺の思ってる以上に育ってたってことだな。もっとも、言われなくとも特徴や弱点に気付くようにという修行はもっと必要だけど)
なにもモンスターと戦うに限ったことではなく、魔法使いならマジックアイテムを作る際にも、核心に気付くことは役に立つ。そういうことも教えていかなければと思うセバルトだった。