目の付け所が
「くっ、ああ、ああああ!」
ネイの体から炎が立ち上る。
足元から燃え上がる激しい炎は一瞬で衣服を灰にし、代わりに燃え盛る炎の衣がネイの体を包む。ただその炎の中にあっても、炎の精霊の力を最大限まで発揮している状態のネイは髪の毛一本に至るまで焦げたりせずなんらの変化はない。
「すごい魔力です。これが魔物ではなく人間からというのは驚きですね」
少し離れた場所で身構えるセバルトの元にも熱気は容赦なく襲いかかってくる。
「先生、ここからが本番なんですね」
「はい。気をつけてください。この前戦った魔物達よりも――」
「強いんでしょう。わかるわよ、ここから見るだけで。感じるもの」
メリエの言葉にロムスも頷く。
圧倒的な熱と魔力は言うまでもない。
そのまま様子を見ていると、炎はさらに高らかに燃え、やがて一つの形をとり始めた。
そう、それは単なる炎ではなくまさに精霊の顕現。
炎の精霊ウォフタートの暴走する力が、その姿を現世にあらわしたのだ。
ネイから巻き上がった炎は巨人の形をとっている。
六本の腕を持つ、燃える髪の炎の巨人。それがネイの力の正体、炎の精霊の化身だ。
炎のごとくにそれは揺らめきながら荒れ狂い、手のひらの中では炎の球が燃え上がっている。
「さあて、それじゃあこれまで授業を受けたことのテスト、ばっちりしっかり先生に見せ付けちゃおうか、ロムス君」
「はい。凄い力を感じますけど、メリエさんと協力すればきっといけます」
ロムスとメリエが気合いを入れる、その後ろでセバルトがじっと戦いを始める三者を見る。
「僕はここで戦いぶりを見ています。だから、心配せず全力で戦ってください」
(この二人なら、必ず勝てるはず)
圧倒的な炎の化身を見ても、セバルトの考えは揺るがない。
そして、戦いが始まった。
炎の化身の前へ、ロムスとメリエが向かっていく。
炎の化身は二人を認めると、火球を握った豪腕を二人の方へと向ける。
「させません! 『アクア・スフィア』!」
だが、もちろんそんなことさせまいとロムスは水球を魔法で産み出し、火球を放とうとしていたその腕に向かって投げつけた。
水が炎にぶつかり蒸発すると同時に、水が熱量を奪い火球は消滅する。
同時に炎の巨人は矮小な存在が、自分が摂理のままに燃え盛ることを邪魔しようとしていることをはっきりと認めた。
「よし。そうです、こちらに注目させてください。これで周囲への被害は抑えられます。あとは、気合いを入れて、二人とも死力を尽くして!」
そして、戦いの火ぶたが切って落とされた。
巨人は四つの手から燃え盛る火球を次々に放つ。
ロムスは同時に水球を作るカスタマイズドスペルを用いて、火球に合わせて水球を放つ。それは炎とぶつかり打ち消しあう。
巨人はさらにもう一度炎弾を投げつけてくる。ロムスは同じようにして防ぐ。
「いいね、ロムス君!」
「はい! ――今度はパンチです!」
火球が防がれると、今度は炎の化身は直接その炎の腕で殴りつけてきた。
精霊の化身であるならばこれは単なる炎ではなく、恐らくは実態もともなっているはずとメリエは判断する。
「ロムス君、あれを!」
「やるんですね! メリエさん!」
ロムスはメリエの持つ剣に水の力を与え、メリエ自身も水のヴェールで体を覆う。そうして魔法的な水の力を得たメリエは、剣で拳をしっかりと受け止めた。
「くぅー、重い。精霊ってパワーもあるのね」
オーガよりも強い力を持っていて、降ってくる溶岩の塊を受け止めたようだとメリエは思った。
かなり重たい一撃――でも、受け止めた今がチャンスだ。
メリエはコツをつかんできた体内マナを扱い、さらに力を込めた腕を振るう。
炎の化身の腕を弾くと、一瞬力が抜けた。その隙を見逃さず、メリエは所在なさげに宙を掴む腕を水の力を纏った剣でばっさりと切断した。
ごうと一瞬明るく輝くと、切断された腕は陽炎を残し消える。
メリエとロムスがぐっとガッツポーズをした。
「やったっ、一本切った!」
「格好いいです、メリエさん」
「ふふ、でしょう。ロムス君との特訓で身につけた魔法剣の力よ。さあ、この調子でバンバン行こっ」
「はい!」
ロムスとメリエの目に、いけるという自信が輝く。
自分達は、ここまで力をたしかにつけてきたのだ、と。