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炎の試練

「さてさて、今日はいよいよ人間の生活について教えてくれるってことで、夜も眠れないって奴だったよ、センセイ」

「大げさですね。実はすやすやだったんじゃないですか」

「あ、バレた? この町の宿のベッドは柔らかいんだよね」


 町の中央にある広場で、セバルトとレカテイアは待ち合わせをしていた。

 第一回の授業として、エイリアを実際に色々まわりながら、その場所に関しての人間の作法を教えていき、補足説明などもするという段取りである。

 拠点とする町に馴染みつつ、人間の常識も身につけられる。

 一石二鳥の作戦だ。


「やれやれ。それでは……」


 広場で立ち話をしていたのだが、レカテイアの視線がどこか遠くを見ていることにセバルトは気づいた。

 視線を追うと、広場からでも見える大きな建物、ウォフタート寺院を見ている。


「寺院に興味が」

「ああ。話さなかったっけ。遺跡とかで精霊の遺物とかそういうの調べるのも魔領を出て人間の土地へ来た目的だって」


 そういえば言っていたなとセバルトは思い出す。

 遺跡でなくとも、寺院もたしかに精霊と関係した場所。むしろ魔物にとっては人里離れた遺跡よりも入りにくい場所かもしれない。


「それでは、まずはあそこから行きましょうか。この国の人は時折寺院に行きますし、お金がなくなったときも飢え死にせずに済みます」

「はは、それはありがたい。まあ、俺は人間と違ってその辺の動物狩って食えるけどね」

「へえ……奇遇ですね。僕も旅が長いので動物を狩るのは得意です。生で内臓まで食べると栄養もばっちり補給できますし、お互い飢え死にはしなさそうですね」

「え……?」


 レカテイアが不審そうに目を細めた。

 あれ、どうしたのだろうとセバルトが首を傾げる。


「生で食うのか……? センセイは動物を? 蟲とかいるし火は通すよ俺は。やっぱセンセイはすげえや」


 尊敬とは若干怪しい気がする凄いものを見る視線がセバルトに向けられる。


(狩りをするって言ってたじゃないか! ……なんてことだ。魔物なら長旅で野生化した俺の気持ちもわかってくれると思ったのに、魔物と言っても所詮は里を作り暮している魔族、俺のように毒も蟲も無効化し全て生でいける口ではないのか……というかなんで俺そんなんできるんだろ。サバイバルずっとしてたといっても結構やばい体なんじゃ……)


 セバルトは人混みの中での孤独を知った。


「でも落ち込んでいてもしかたないですね。しかし、いずれ僕の全てのサバイバルも生徒に伝えなければなりません。それでは、寺院に行きましょう。ちょうどいいことに、ここの寺院は火のウォフタート様の寺院です」




「ここです」

「おー、近くで見るとより見事に出来てるじゃーないの」


 寺院まで歩いてきたセバルトとレカテイア。

 二人は寺院の前で、その姿を眺める。


「ここでは精霊の一体、炎を司るウォフタート様を奉っています」

「炎の精霊ね、おれもいちど会いたいもんだね。まあ俺の吐くプレスは炎じゃなくて電撃なんだけど。なかなか雰囲気あるねえ」


 寺院の外観を見たレカテイアは感心した様子で首を左右に上下にゆっくりと動かし、建物の全景を見渡す。

 さらに、石壁を手で叩いて音を確かめるようにうなずいて納得している。


「いい仕事してますねぇ」

「誰に言ってるんですか」


 へへっと笑うレカテイアと共にセバルトは寺院の中に入った。


 入ってすぐの祈祷所へと行くと、そこにはリリネルがいた。

 セバルト達が入ってきたことに気づく様子すらなく熱心に祈っていたので、声をかけがたく黙って見ていた。

 祈りが終わった後、リリネルは振り返り、少し驚いたような顔をする。


「セバルト君」

「お久しぶりです、リリネルさん。知り合いが寺院を見たいということで、一緒にきました。この前は二人で祈っていましたけれど、今日はネイさんはお休みでしょうか」


 セバルトがそう尋ねたとき、リリネルはしばらく返事ができなかった。

 何かを耐えているような深刻な表情をしていたかと思うと、ゆっくりと言いづらそうに口を開いた。


「ネイネイは、街を離れちゃった。ウォフタート様の力が抑えきれないって」


 セバルトは驚き、リリネルに視線を素早く向ける。


「力が抑えきれない――?」

「誰でもいいから教えて欲しいよ。ネイネイが帰ってくるには、どうすればいいの?」


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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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