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マオハ草を採りに行こう

 三人目の生徒をとったセバルトは、そのまた翌日、冒険者ギルドへと向かった。

 一通り話をまとめて一息ついたら、寺院で聞いたマオハ草のことを思い出したのだ。もしかしたら依頼を出しているかもしれない。


 セバルトがギルドに入った五秒後。


「君は。ちょうどよかった」


 ドアが開き、一人の巫女が冒険者ギルドに入ってきた。

 横でまとめた群青色の髪を揺らしながら歩いてきたのは、ネイ。


「ちょうどマオハ草を取ってくる依頼をしようと思ってたところなんだ。タイミングがいい。やってくれる?」


 まっすぐにセバルトのところに来ると、上目遣いでじっと見つめる。一瞬たりともそらさないその視線は、なかなかに逆らい難いものがある。

 もっとも、セバルトは最初から受けると言ってるのだから断る気もないのだが。


「もちろんです。先日もそう言いましたから。場所は分かっているんですよね」

「うん、覚えてる」

「それではいきましょう」


 早速話がまとまったので、一応ギルドの中での話だからということで、イーニーにその旨を伝えると。


「ほほう、いきなりいい依頼が来たじゃねえか。俺の言った通りだな、奥ゆかしい分あとでいい依頼が来るはずだって」


 イーニーが得意げに親指をあげた。


「いや、関係ない気がしますけど、イーニーさんは今回」

「はっはっは、気にすんな。それじゃ、行ってこい!」


 バシッと背中を叩き、イーニーはセバルトを送り出す。セバルトは苦笑で答えて、冒険者ギルドをあとにする。


 そうして、セバルトとネイはマオハ草が自生しているという場所へと向かっていく。




 セバルトがネイに案内されて向かっているのは、先日魔物たちとの大きな戦いがあった(セバルトは参加していないほうの戦いである)、町の南東にある荒野だ。

 そこを東に進んでいくと、森がある。湖の周囲の森と繋がっているその針葉樹がたくさん生えているその薄暗い森に立ち入り、案内に従って、獣道のようなところを通っていく。


 案内するネイの足音は静かで、地面に凸凹などがあっても、優雅にも感じるほど一定のペースの歩みを維持していた。


「これは……このようになってるということは、何度も皆さんが通ったことがある道ということですね」

「うん。マオハ草は聖火を扱う儀式では必須になるんだ。草をすり潰して出てきた聖汁を火に入れて蒸発させ天に上らせる。その蒸気がボクらと精霊を繋ぐ」

「ああ、なるほど。そういえば僕が見たことのある祈りの際にも液体を入れていました。あれがマオハ草の汁だったんですね。あの液体の原料までは知りませんでした」


 とセバルト達が話していると、茂みから突然イノシシが姿を現した。


 イノシシはプルルルルと鼻を鳴らしながら、こちらに向かって威嚇している。軽く興奮しているようで、襲いかかってくるかもしれない。

 ネイは表情を変えずに、足をピタリと止めてセバルトの方に目を向けた。


「お仕事」

「承知しました」


 軽い調子で言って、セバルトは前に出る。


 魔物と戦うことになるかと思ったが、野生動物だった。

 とはいえ弱い魔物よりはむしろ野生動物の方が危険なこともあるので油断は大敵。セバルトは空気の塊を魔法で放ち、イノシシの鼻先で大きな音とともに破裂させた。大きな音と衝撃でイノシシはひどく驚いた様子で方向転換すると、慌てた様子で大急ぎで逃げていった。


「いい仕事だよ、セバルト君」

「まあ、ただのイノシシですからね」

「それにスマートだよ。激しい争いも起こさずすぐに遠ざける。無益な争いや殺生を避けるのは、本当に強い人だよ」

「いえいえ、ちょっと大げさですよ」

「小さいところに人間は出るもの」


 逃げていくイノシシのお尻を見ながらネイが言った。


「……ああいうのが出るから、ボクは一人ではここに来られない」

「そうですか?」セバルトは不思議に思い首をかしげた。「ネイさんの使った魔法を見た限りでは、大きな炎を一瞬で消したほどです。あれくらいの動物など簡単に追い払えそうですが。周囲に燃え移らないようにというのもたやすいでしょうし」


 それは当然の疑問だった。

 一瞬で火を消した、あの火に対する干渉能力は相当に高い。あれはかなり炎の魔法に精通していなければできない技のはずだ。


 だが、ネイはゆっくりと、しかし力強く首を振った。


「ボクは火をつける魔法は使えないんだ」

「え?」

「ボクが使えるのは炎を消す魔法。そして生命の炎の力で傷を癒すこと。それくらい。火をつけることはできないんだ。うまく操ることも。だから戦う力はないんだよ」


 不思議なこともあるものだとセバルトは首をひねった。

 得手不得手はあっても、同じ系統なら一つだけまったくできないなんてことは通常あり得ないのだが……しかも、火をつけるという特別珍しい魔法でもないのに。


「ボクは、変わってるから。……行こう」


 セバルトが妙に思っているのを察知して、ネイは話を打ち切るように、小さく首を振って再びけもの道を歩き出した。

 そうされてはセバルトもそれ以上追求は出来ない。

 依頼どおりに露払いをしつつその後についていくのだった。


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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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