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お食事会

 それからは授業の最後まで、カスタマイズドスペルの開発を行った。一日ではもちろん終わらないが、正解を探していく勝手はある程度わかってきたようだ。


「じゃあ、そろそろ、今日の授業は終わりにしようか」


 魔力を多く使用し疲労を感じている表情のロムスにいい、家の中に戻ると、ちょうど廊下にいたザーラと鉢合わせる。


「精が出ていましたね」

「あ、ザーラさん。ええ、頑張っていますよ、ロムス君……ちょうど終わりにしたところです」

「でしたら、ちょうど夕食にしようと思ってたところですから、よかったらセバルトさんもいかがですか」

「夕食ですか?」


 先日、旅の途中ろくなものを食べていなかったセバルトを可哀想に思い食事を作るとザーラは言っていたけれど、本当に作ってくれたようだ。

 とはいえさすがにそこまでは申し訳ない気もすると思うセバルトだったが、何か視線を感じてふと横を見ると、ロムスが期待するような目でセバルトの方を見ていることに気づいた。


 ……これは断れない。

 ザーラもロムスにちらと視線を向けると、楽しそうに笑いながら。


「もう作ってしまいましたし、量もあるので食べていただければ嬉しいです」

「――それでは、ありがたくごちそうになります」

「あっ、それじゃあ、僕も用意手伝うよ、母さん」


 セバルトが提案を受けると、ロムスは早足で食堂へと向かっていく。セバルトとザーラはその様子に、顔を見合わせて笑う。




 食事の時間は楽しくすぎた。

 ザーラが作っていたのは、ネウシシトーの平均的な家庭料理だ。

 しかし皿や盛り付けはやや豪華な感じで、お客様が来ているということがあり少しばかりの頑張りがうかがえる。


「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」

「お口にあったらよかったです。やっぱりお肉ですよね」


 肉料理が中心で、メインはハンバーグ。結構な大きさのものだったが、これは男子は肉を食べていれば大丈夫ということだろうか? ロムスはともかくセバルトは子って年でもないが……まあ肉は好きなので問題はない。


 食べ終わった後は、食後の茶を飲みながら、三人で話をした。

 家庭教師の授業でやっていることを話したり、ロムスが学校であったことを話したり、賢者として活動していることを、特に首都の様子などをザーラが話したりしながら、楽しい時間を過ごした。


「音楽が盛んなんですか」


 ザーラにネウシシトーの首都『クルク』のことを積極的に聞きたがったのはセバルトだった。今の時代の世界のことは、このエイリアの町しか知らないので、他の場所には興味がある。

 それで色々聞いていると、クルクでは音楽が盛んだという話が出たのだった。


「ええ。音楽会もよく開かれていますし、楽器を扱う店も結構あるんですよ。普通に使うものもあれば、大昔に作られたアンティーク的な価値のあるものまで。私は弾けないんですけれど、聞くのは好きです。ああいうのを演奏できる人って、凄いですよね。憧れます」

「結構魔法関連で色々いかれるんですか」


 セバルトが尋ねると、ザーラは説明した。


 ザーラは色々フィールドワークなどを積極的に行い、特に若い頃は色々なところへと行っていたらしい。

 学術都市モケルティの大学で魔法の研究を行いながら、様々な地方へ行き、遺跡に行ったり、魔法の力を持つ品を集めたりしたりなどなど。研究室より外にいる方がずっと長かったそうだ。


「かなり活発に活動なされてたんですね。落ち着いた雰囲気なので驚きました」

「そうですか? そう言ってもらえるなら、イメージ戦略成功ですね」

「大人な賢者ですね」


 ザーラはふっと微笑む。その笑みはたしかに若い、というか子供っぽい雰囲気が含まれていた。

 セバルトがうんうんと頷く。


「たしかにこの前の戦いでも母さん、一番前で突撃していってたね。結構そういうところあるよね」

「やるときは一気に蹴散らした方が気持ちいいじゃない」


 セバルトとロムスは顔を見合わせ、頷きあった。


 と、ロムスが思い出したように口を開いた。


「そういえばマジックアイテムでも、音楽関係のものが……楽器のようなものがありました。学校に」

「へえ。楽器のマジックアイテムですか。珍しいですね」

「ええ。でも特に楽器の形にしたから魔法の性能が上がるということはなくて、武器を持っていないように見せかけるためという理由で作ったとか、音楽好きな魔法使いが、マジックアイテムと楽器二つ持つのは面倒だから一つに纏めればいいじゃないかと思ったとか、そういうことで作られたものだそうです」

「はは、面白いですね。今の平和な世の中では、武器を隠して丸腰に見せて戦いたいこともそうそうないでしょうけど」

「戦い……この前の戦い……セバルトさん」


 ふと、ザーラがセバルトに向かって声をかけた。

 セバルトが視線を向けると、ザーラはこれまでの朗らかな会話の雰囲気とは異質な、真面目な表情をしていた。そしてゆっくりと、声のトーンを低くして、言葉を続ける。


「この前の魔物が襲撃したことで、気になることがあるんです――」

「なんでしょうか?」

「セバルトさんは――」


 ザーラは短く息を吸い、セバルトの目を見る。

 そして気になっていたことを尋ねようとしたが……結局何も言わずに開きかけた口を閉じた。

 目を細め、軽く首を横に振る。


 ザーラが質問しようとしたのは、先日の魔物たちが襲撃してきたときのこと。

 表で相手をしていたのとは別の、強力な魔物たちが裏から攻めてこようとしていたこと。

 そしてそれについてセバルトが何か鍵を握っているのではないかということだった。


 だがザーラは結局聞かなかった。

 セバルト自身は何もなかったと言って隠しているし、もし聞いてしまうと、秘密を知ってしまうと、よくないことが起きるのではないかと――突然この町にあらわれたように、突然いなくなったりするかもしれないと怖くなったのだ。


 もちろん気になってはいる。でも、今のこの状態が崩れてしまうことの方がより恐ろしい。だから、ザーラは口をつぐんだ。

 自分達が知らなければならなくなった時には、セバルトは必ず話してくれるはずだと信じて。


「――いえ、なんでもありません」ザーラは朗らかな笑顔に戻る。「お茶のおかわり、いりますか?」

「いいんですか? 何か気になることが……」

「いえ、私の気のせいでした」

「……そうですか、じゃあお茶、お願いしてもいいでしょうか」


 話す気のないことを、無理に聞き出そうとするつもりはセバルトにはない。平和な時間にあえて波風の立つ可能性のあることをしなくても――。


「僕もお願い、お母さん。それで先生、その楽器なんですけど、なんと同じクラスの人が――」


 楽しそうな声のロムスの話はまだしばらく続く。


 こうして、夜の時間は何事もなく過ぎていく。

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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