表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/124

宴のあと

 魔物たちの襲撃があってから二週間の時が経った。


 あれ以来近くで凶暴な魔物が見られるという話もなく、エイリアの住民の望む通りに平和が訪れた。

 セバルトもこれといった大変なこともなく、穏やかな日常を過ごすことができている。寝心地の良いベッド、台所で調理された食事。何かを手に入れるときには店で買い物すればよく、人間としゃべることもできる。


 これ以上何を望むだろうか、いや望む必要など全くない。このまま穏やかに平和に時を過ごしていければ最高だ。今度何かあったら、自分ではなく生徒達が全部対処できて楽できるように家庭教師の仕事は一層がんばろう。


 とはいえ、生徒たちは現状でも思った以上に強くなっていて、勇気をもって戦ってくれたことに満足している。それに、自分も久しぶりに本気の力を出して思い切り戦ったのはなかなか気分爽快でもある。人知れずという但し書きはつくが。

 そういうわけで、セバルトは満ち足りた日々を過ごしていた。今もまさに必要な品を買うためのんきに町中を歩いているところだ。


「あれは……」


 いくつものいろいろな種類の野菜をカゴに入れて売っている八百屋の前で、セバルトは足を止めた。

 といっても野菜を買う為では無い。セバルトの目はそれよりも少し遠く、石造りの寺院に向いていた。


 エイリアの街に入ってきたときに最初に目に付いた建物のうちの一つだ。

 石を組み上げてつくった無骨とも言える寺院で、壁には蔦がはっている。また煙突のようなものが天井から出ていて、そこは上下が逆になったような炎の姿の彫刻が彫られている。


 あの精霊を祀る寺院のシャーマンは医療行為も行っていて、先の戦いでは負傷者を癒すために働いていた。

 そんなことを考えつつ、セバルトは冒険者ギルドへと足を向ける。


 イーニーから、先日の戦いが片づいたとき、後日また来てくれと言われていたのだが、なんとなくおっくうで、ついでがあるときに行けばいいと思って、ついでがこれまでなかったが、いい加減行くことにしたのだ。


 木造の少し泥で汚れた建物に入ると、いつもの定位置にいつものイーニーがいた。


「こんにちは、イーニーさん」

「セバルトじゃねえか。……いつ来るかと思ったら、ようやく来たか。お前のんびりしすぎだろ。いつでもいいとはいったがよぉ」


 イーニーは立ち上がり、カウンターの向こう側からセバルトの方へ向かってきて、セバルトの前で足を止めた。


「すいません。のんびりするのが今の目標なので」

「若いのに枯れてんなあ。旅人とは思えないぜ」

「旅をしてたから、ですよ。していないときはゆっくりしたいんです」


 セバルトがあんまり心を込めた言い方だったので、イーニーは吹き出し、肩を叩いた。


「はは、どんだけハードな旅を送ってきたんだか。ま、のんびりもいいがたまにはうちの仕事にも協力してくれよ。ほらよ、これがこの前の報酬だ」


 イーニーが渡してきたのは、先日の魔物襲撃を防いだことへの報酬だ。もちろんセバルトは陰で別部隊と戦って全滅させたことは秘密にし、別働隊の奇襲を見張っていた(ただし何も来なかった)と嘘の報告をしているため、皆が知っている表の戦いには参加してないのだが、それでも働いたことには違いないと、他の者と同様に町から謝礼が出るというのだった。


「いえ、僕は結構ですよ。その場で戦っていませんし」

「そんなわけにいくか。聞いたぞ、奇襲を防ぐために周囲を警戒していたって。結果的には何もなかったって話だが、でもそれは結果であって、働いてたんだからもらうのが当然だ」

「ですが……」

「はぁー、セバルト、なんでお前はそこで遠慮するんだ? もらえるもんは野菜の皮でももらっとけって学校で習うだろ?」

「習いませんよ。……でも、そうですね」


 イーニーの表情を見れば、もらわないと言ったところで引き下がるようには見えない。

 まあ、あまり固辞する必要もないか。秘密にはしているけど、実際戦っているのだから、受け取る権利はあるのだし。


「それでは、半分いただきます。それでお互い納得しましょう」

「お前なぁ……まあ、それでいいならそうするか。結構頑固そうだしな、セバルト。その分うまい話を渡してやるよ……なるほどこれが狙いだな? したたかな奴め」


 イーニーは肩を組んで、にやりと笑った顔を近づける。


「いや違いますよ、誤解ですイーニーさん」

「またまた、隠さなくてもいいじゃねえか、俺たちの仲なんだから」

「そんな仲でしたっけ?」

「おっ? 杯を酌み交わしただろうが? まだ足りないってか?」

「また今度補給しないといけないかもしれません」

「ふっ、言うじゃねえか。いいぜ、だが今度はそっちも用意しておくことだな」

「ええ、もちろん。楽しみにしていてください、僕も楽しみにしてます」


 セバルトも不敵な笑みで答えて、何か古い年代物の酒でもあれば喜びそうだけど、昔の所持品にあったかな。いやさすがに300年は古すぎだろうか、などと思いながら、冒険者ギルドをあとにした。


 今日はこれからロムスの授業がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ