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300年後の世界 3

 さて、それじゃあ出ようかと思った時――のしりと、セバルトに誰かが近づいてきた。


「見ない顔だが、新人か?」


 それは、ギルドに入ってきた冒険者二人組だった。豊かな顎髭の男冒険者にイーニーが言う。


「ああ。こいつはセバルト。旅人なんだが、方々を旅してるだけあって結構色々知ってたり持ってたりするみたいだぞ。お前さん達はこれからホーンモールの討伐だろう。アドバイスでももらったらどうだ?」


 男冒険者は笑いながら首を振った。


「ははは、俺たちの腕も十分だぜ。ホーンモールくらいなら余裕だ」

「レガティの花をここに来る途中見ました。群生しているところをお教えしましょうか。もう調べてあるかもしれませんが……」


 レガティの花をモール種の魔物は好むので、巣穴が近くにあることが多く、仕事が速く済むようにということと、不意に襲われないため場所をアドバイスしたつもりだ。

 だが、豊かな顎髭の男冒険者も、コンビらしい魔女帽子の女冒険者も一様にぽかんとしていた。


「レガティの花?」

「なんで花なんて気にするんだ? あっはっは、お前さんロマンチストだな」


 顎髭が大きく口を開けて笑う横では、魔女帽子が不思議そうな目をしている。


「ロマンじゃないんですが……」


 セバルトは事情を説明するが、顎髭は疑うような目を向ける。


「なにぃ? 本当か? 俺は結構このギルドでやってきてるが知らねえぞ。だいたい旅してるだけで、魔物に関しちゃ俺の方がキャリアは長いはずだ」

「でも、聞いて損はないじゃない。注意しておけばいいって」


 魔女帽子が言う。


「ええ。準備は大事です。腕前よりも注意と知識の方が大事なくらい」

「そうかあ? 俺は結構な腕前なんだぜ?」


 ぐははと得意げに髭を撫でる男冒険者。セバルトは小さくため息をついて、男の装備を指さした。


「ふう。……盾が傷んでいますよ。それで行くのは危険です」

「ん? ああ、これか。別にたいしたこたねえよ。ちょっと傷がいってるだけだ。お前さん、神経質すぎねえか?」

「でしたら、軽く叩いてみてもいいですか? 問題ないというなら」

「ふん、何を言うかと思えば。ああ、やってみな。できたら、心配性の旅人さんが言ってた花のことも信じてやろう」


 セバルトは盾の中央からやや右上にある小さな傷をコンコンと確かめるように軽く指で叩くと、テーブルの上にあったスプーンを手に取り、そこに向かって角度をつけて一つ叩いた。

 瞬間、ひびが盾全体に広がり、バラバラと表面が崩れ穴が開く。

 ギルド内の者達が一斉に息を呑むなか、セバルトがこともなげに言った。


「これが魔物の爪でなくてよかったですね」

「な……な、何をした? そんなもんで軽くたたいただけで白銅製のこの盾が壊れるなんて、ありえねえ!」

「ここを叩けば簡単に石が割れるポイント、石目というものがあります。これは石に限らず、何ものにも弱い場所というものがあって、そこを的確につけば硬いものでも容易に壊せるし、壊される。そのような弱点はカバーされていることが多いですが、使い込むうち弱点が露わになることがあるのです、その盾のようにね。ちゃんと手入れをしていなかったでしょう。旅も討伐も、事前の調査や準備が何より大切です。それがいざというときに薄皮一枚で生死をわける」

「う……」

「……わあ。すごいっ! もの凄く詳しいじゃないですか」


 ばつの悪そうな顎髭を押しのけ、魔女帽子がセバルトの前に飛び出してくる。セバルトが話している間、体をうずうずさせて聞き入っていたのだ。


「言う通りだと思いました、天才的な洞察力ですね! 私の弱点も見抜かれちゃいそうです!」

「さすがに天才的はちょっと言い過ぎだと思いますけど」

「そんなことないですよー。全然気付かなかったことだもん。大事なことそうなのに」

「ええ、大事です。自分に都合のいい状況で勝てることは強いとはいいません。自分に有利な状況へ持っていくことが強さです。何十何百回も繰り返すなら、戦いの前に勝率を100%に限りなく近づけるくらいでなければ、数をこなすうち必ずどこかで負けて取り返しのつかないことになります」

「たしかに、九割勝てる勝負でも100回やれば10回も負けちまうもんな。そりゃできる限り事前になんとかするってのは当然だ。なるほどな、説得力ある」


 イーニーがカウンターから出てきて、髭の冒険者に半目で見た。


「次があるかどうかわからんしな、魔物に負けたら。俺たちは平和ボケしすぎてるのかもしれん。最近の情勢に対応しきれてない。ということだ、わかったろう」

「あ、ああ。……そうだな。こんなの見せられたら、わかるしかねえ」


 顎髭は、割れた盾に目をやり冷や汗を流している。自慢の盾だったのかなとセバルトは思った。


「修理のお金はお支払いします。僕が勝手にやったことですから」

「ダメダメ! 命の危ないところを助けてくれたんだから。ね!」

「まさかスプーンで盾をぶっ壊すなんて芸当見せてもらった代金だ。それに俺がやってみろって言ったからな。はは、いい授業料だ……あんた、本当に半端じゃねえな」


 悟ったように顎髭が苦笑いすると、魔女帽子がセバルトに思い切り近づいてきた。


「それにしてもすごいねえ! レガティの花のこととか、石目のこととか、全然知らなかったよー。色々見てきた旅人さんって話は伊達じゃないみたい。ねえねえ他にもなにかアドバイスとかある?」


 それからしばらくその冒険者パーティから、あれこれ相談をされたのだった。




「それじゃ、盾をなおしたら、あんたに言われたことに注意しながらやってみるよ。盾砕かれたのが魔物じゃなくあんたでよかった。助かったぜ、じゃあな」

「ばいばーい。また教えてね! 新入り先生!」


 アドバイスを聞いた冒険者達はセバルトに感謝の握手をしてギルドを出て行った。

 残されたセバルトはほっと一息をつきつつ、ちょっと喋りすぎたかなと思っていた。

(でも、何も言わずにあの人達が魔物にやられたらそれはそれで気分が悪いしなあ)

 そんなことをセバルトが考えていると、イーニーが。


「新入り先生か。たしかに見事な指導だったぜ。先生とか向いてるんじゃないか?」


(教師? ……あれ、意外と悪くない? 壷の中のものを売るだけじゃ限界があるし)

 ちょっといいなと思っていると、メモットが眼鏡の位置を直しながら言った。


「それか私と仕事交替します? なんだか私より冒険者に関係する情報に詳しい気がします。今度教えてほしいです。いろんなこと」

「あはは、まあ、機会があれば」


 こういう機会はない機会であるのは周知のことだが、ともかく金銭を受け取りセバルトは冒険者ギルドをあとにし、宿屋へと戻っていった。


「ふう、ちょっと換金するつもりがなかなか大変だった。未来の世界も楽じゃない」

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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