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死神再臨 

「イーニーさん大変だ!」


 セバルト達が探査を行った翌日、冒険者ギルドの中に鎖かたびらを身につけた男の冒険者が息せき切って飛び込んできた。


「魔物が……魔物が大量に! 南に集まってる!」

「来たか……!」


 イーニーが声をあげると同時に、冒険者ギルドの中の注目が報告をしている男に集まる。

 皆が固唾を呑んで見守る中、男は続ける。


「イーニーさんの言った通り、交替で見張ってたんだ、町のまわりを。そしたらついさっき、魔物の群れを見つけたよ。最初は一匹か二匹だけかと思ったんだがどうやそいつらは、群れから離れたやつらしい。遠眼鏡を使ってもっと詳しく見たら、南の街道を外れた荒れ地の遠くのほうにわんさかと大量にいやがった。まだ準備段階っぽかったけど、あれは間違いない、この町に向かってくる様子だ」

「その魔物はどんな構成だった?」

「いろいろいた。トロールにコボルトにレッサーデーモン。ゴーレムやヘルハウンドまで。ありゃやばいぞ。百は間違いなく超えてる、正確にはわからねえけど。どうする、どうするよ」


 来ることが予想されていたとはいえギルドの中に動揺が広がる中、イーニーが、早口で男に尋ねる。


「確かなのか、それは」

「ああ、間違いない。幻なんかじゃねえよ、あれは」

「……来て欲しくなかったが、やっぱり来ちまったか。しゃーねーな、やるぞ皆、気合い入れてけ!」

「おう!」


 あらかじめ計画していたことを確認し、冒険者達も各々動き始める。

 俄に忙しくなった冒険者ギルドの中で、不安と興奮が広がっていく。




 連絡は、当然セバルトのもとにも来た。

 場所を伝えていた自宅へとイーニーの使いの冒険者が来て知らせたのだ。


(いよいよか)

 セバルトは準備をして、冒険者ギルドへと向かう。

 夕暮れが近づいてきた町中では、全速力で走り回っている人の姿がちらほら見える。襲撃への準備をしているのだろうかと思いながら、すでに見慣れた建物や屋根の上に止まっている小鳥、道を歩く人々、そして英雄のモニュメントなどを代わる代わるに視界にとらえながら急ぐ。


 冒険者ギルドへセバルトが到着すると、そこは臨時の作戦基地と化していて、多くの冒険者達が武器の手入れや打ち合わせをしていた。

 その中には、メリエやザーラ、そしてロムスの姿もあった。

 入り口近くにいたメリエが、セバルトに気付き歩み寄ってくる。


「メリエさん、行くのですか」

「ええ。もちろん。こういうときこそ、やらなきゃね。そうじゃないと、先生に鍛えてもらった甲斐がなしってね」


 メリエの表情には迷いがない。もうやると決めている人間の目だ。だからセバルトができることは、あとはただ激励するのみ。


「魔物たちの構成はわかっている範囲で聞きました。今のメリエさんならば、練習でやった通りに力を発揮し皆と協力すれば、決してやりあえない相手ではないはずです。あなたの力を見せて、英雄になりたいという言葉を叶えてください」

「もちろん! エイリアはあたし達が守るわ」

「心強いです。しかし、無理はしないでくださいね。危なくなったら退いて、他の人達の力を借りることに躊躇しないように。あなたも、あなたが守るべきだといったこのエイリアの町の一員なのですから。何より、僕も生徒に万一のことがあれば辛いです」


 セバルトは釘を刺す。メリエの覚悟は本物だと知っているからこそ、無理をしすぎることが心配だ。

 メリエは嬉しそうに少し表情をゆるめ、深く頷いた。


「うん、約束する。もう気付いたからね。でも全力は尽くす、無理せず全力よ」

「ええ、もちろんです。あなたの力、信じています」

「ええ! まかせなさい!」


 ぱんぱんと、手で自分の顔を叩いて気合いを入れると、メリエは再び凜々しい顔つきに戻り、ギルドを出る。

 向かうのは町の南方の街道沿いの平地。魔物達とぶつかる予定の場所として戦える者が集まっているところだ。


 メリエを見送ったセバルトは、今度は冒険者ギルドの中で、杖や魔法の符などの手入れをしていたロムスとザーラに声をかけた。


「お二人も戦うのですね」


 ロムスが符の束を揃えて、顔を上げる。


「先生。はい、先生に教えていただいたおかげで、かなり魔法の腕が上達しました。それに――」


 ロムスはセバルトと、ザーラの顔を見て、短く息を吐いた。


「今日は、やれます。怖い魔物とでも、向き合えます」


 吹っ切れたみたいだな――セバルトは、ロムスの肩を叩く。


「今のロムス君なら、大丈夫。これまでの特訓でそれだけの実力が身に付いたはずです。ザーラさんを、母さんを守ってあげてくださいね」

「はい!」

「あらあら、頼もしい。嬉しくなってしまいますね」


 ザーラが明るい声を出した。

 こんな非常事態でも動じない、むしろ皆の雰囲気を明るくしようとしている様子で表情も明るい。

 その明るい顔を、セバルトの方へと向けて言う。


「ありがとうございます。ロムスがこれだけ自信を持てるようになったのは、セバルトさんのおかげです」

「いえ、ロムス君の努力があったからですよ。僕は少しアドバイスをしただけです」

「相変わらず謙虚なんですね。たまには、その通りだ、俺の力はすごいだろうって、言ってみてもバチは当たりませんよ」


 笑って冗談を言うザーラに、ロムスとセバルトも一緒になって笑う。


 うん、いい感じだ。

 ロムスも丁度よく緊張がほぐれただろう。


 意気込むのはいいけれど、魔物を前にすれば、やはり実戦経験の少ない者はどうあっても堅くなるだろうし、リラックスしすぎるくらいでちょうど釣り合う。

 特にロムスはこの前のこともある――が、この表情は大丈夫そうだ。


「難しいですねー、それは。なかなかそういう性格ではないので。……ザーラさんも戦場に行くなら安心できます」

「セバルトさんとマジックアイテム作った時に実力を見せられて、少し火がついてしまいました。今日は思いきり大魔法をぶちかましてしまいますよ」


 先日洞窟に行くときも持っていた真紅のロッド『アンダーハートブレイカー』をクルクルとバトンのように回すザーラ。

 やる気満々の様子だが、ロムスははしゃぐ母親の姿を見て苦笑いをしている。


 一端しか知らないが、実力ならばザーラは少なくとも並の魔物にはやられないだろうし、ロムスやメリエもいるから強敵ともやり合えるはずだ。

 彼女がいるときに襲撃があったのはタイミング的にはラッキーだなとセバルトは思った。そして、これなら大丈夫だろうと安心もした。


「それでは、二人ともくれぐれも怪我には気をつけてくださいね」

「はい、先生!」

「ええ、ありがとうございます。……セバルトさんは何処へ?」

「僕は魔物達の対処をするため、一足先にスタンバイさせてもらいます。それでは、健闘を祈ります」


 セバルトは冒険者ギルドを出て行く。

 集まっている魔物の情報と、戦うロムス達の実力を比較し、人間達の勝利を冷静に確信しながら。

 セバルトは、エイリアの北へ歩いていく。

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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