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スローなライフを邪魔されないために 2

 周囲の木の葉をうすぼんやりと赤く照らす灯が、強くなる方向を探りつつ、セバルト達は歩を進める。いずれ、ソーマのある正確な場所を探してみるのも悪くないなどと話しながら、探知を続けてしばらく歩いたときだった。

 赤い髪の男と、茶色の髪を短めに二つにくくった女が、山の麓の洞窟の入り口の前にあらわれ、吸い込まれるように中に入っていったのだ。


「イーニーさんと、ザーラさん?」


 セバルトとメリエは顔を見合わせる。

 二人の目は洞窟の入り口に釘付けになった。

 そして、羅針盤の光も強くなっている。


「行くよね、先生」

「ええ。あそこが一番くさいですね」


 洞窟に入ると、前方から足音が聞こえてくる。

 その足音をおって前に進むと、すぐにイーニーとザーラの二人に追いついた。


「イーニーさん、ザーラさん」

「うおっ……ってその声、セバルトとメリエじゃないかよ。びっくりさせんな」


 魔法の灯火で照らされた顔を驚かせ、イーニーはセバルト達の顔に視線を向ける。その隣では、ザーラが面白くなってきたという顔で、視線を羅針盤に向ける。


「お二人も、ここが怪しいと見つけたんですね」

「ええ。一緒に調査しましょう。人手は多い方がいいです」


 ザーラが言い、そして四人は洞窟の調査を始めた。

 洞窟の中を調べてすぐ、日常生活に使うような道具が見つかった。小さな棚、道具袋、ナイフのような刃物。


「誰かここで暮らしてたってことですか? ザーラさん」

「おそらくそうだと思います。メリエさん、でしたよね」


 メリエに話しかけられたザーラは、手を差し出す。メリエはぎゅっと手を握って答える。


「ええ、メリエ・ゼクスレイよ。賢者と呼ばれる方と会えて嬉しいです」

「実物と会うと、思ったよりたいしたことないと残念がらせてしまうかも。あなたも、セバルトさんに教えていただいているんですよね、ロムスから聞いています」

「はい。魔法ではなくて、武術を」

「ロムスが、もう一人生徒がいて、年上で面倒見のよさそうな方だって言っていました。お姉さんみたいだって」

「お姉さん? お姉さん! ……ふふふ。おまかせあれ、安心してくださいザーラさん。姉弟子として、あたしがしっかりロムス君の面倒見ますから!」

「あら、頼もしい。お願いいたしますね」


 どん、と胸を叩くメリエにザーラが笑顔で小さく頭を下げた。


(いや、ロムスの方が兄弟子だろう)

 と思うセバルトであったが、まあ気分よさそうだし水さすこともないかと口をつぐむ。


 ちなみに姉のようだというのも、メリエが自分でロムスに姉だと思って頼りなさいというようなことを言ってたので、それでロムスもそう言ったのではないかと思うのだが、本人はそれを忘れていい気分になっているようである。忘れっぽい方が人生楽しみが多いんだなと、セバルトは人生について一つの考察を得た。


「セバルト、どう思う? この前魔物の住む洞窟を見たお前さんの目から見て、ここは」


 人生について考えていると、イーニーに声をかけられた。セバルトは探索モードに切り替え、洞窟の中を観察する。


「たぶん、同じような魔物の拠点でしょう。かなり怪しいですね」


 言いながら、洞窟の中をさらに歩き、セバルトはさらに何か無いかと探す。

 洞窟内に魔物の手がかりをセバルトはしばらく探し、荷物袋を見つけた。その中から遠眼鏡を取り出し、さらに石版も中にあった。


「おそらくは、監視をしていたのではないでしょうか。こんなものもありますし。石板には今は何も書かれていませんが、連絡に使っていた、あるいはこれから使うつもりなのかもしれません」

「ここを拠点に人間たちの町の様子を見ていたっていうのか? いったい何のために魔物が?」

「組織的に町を攻めようという可能性が高いでしょうね。それも最近の動きの激しさから見るに、かなり差し迫っている」

「そりゃ想像するだけでやばそうだな……ったく!」


 イーニーは頭をばりばりとかいて、これからのことに頭を悩ませている様子を全開にしている。

 二人のやりとりを聞いていたザーラとメリエも深刻な表情になっていた。


 エイリアの町に住む者達にすれば、魔物が組織だって動く、そして人間たちの街にたいして何か企んでいるという事など、これまでになかったことだし、想定すらしていなかったことだろう。不安に感じて当然だ。

 だがセバルトは知っている。知能を持った魔物たちが集まると、時に恐ろしい企みをすることを。

 今のこの世界には魔王や魔神はいないとしても、力を持った魔物が他の魔物達を統率するということはありえることだ。


(……ん? これは?)


 そのとき、セバルトの視界の端に、奇妙な図形が舞い込んだ。

 洞窟の床と壁の境目あたりに、墨のような血のような色で、かすれた直線や曲線、円や多角形が描かれていたのだ。


(まさか……)


「どうかしましたか、セバルトさん」


 セバルトが洞窟内の風変わりな紋様をじっと見つめていると、不思議そうにザーラが声をかけてきた。セバルトは振り返り、小さく頷いた。


「ここにはどうやって攻めるか、それが書いてあります」

「攻める……っておいおい、それってまさか!」


 イーニーが慌てた声をあげる。

 一方セバルトは落ち着き払って続ける。


「ええ。早く見つかってよかった。魔物……それも百以上の数の魔物が、南東から攻めてくると書いてあります」

「ひゃく!?」

「ええ。その作戦決行日も書いてありますね」

「それは、いつなんだ?」


 セバルトは息を一つ吐いた。


「早く羅針盤の量産体制を整えてよかったです、本当に。――明日、ですよ」

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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