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スローなライフを邪魔されないために

 二人がマジックアイテムを開発してからしばらくたった後、ザーラは無事にそれを多数作ることに成功した。家の施設だけでは手狭なので、エイリア魔法学校を利用し、セバルトもついでだからとちょっとばかり手伝った。


 そんなことをしていると、職員の話が聞こえて来たりもする。


「この前のゴーレム事件起こした教師、不注意とミスで生徒を危険に晒したってことで減給と戒告を受けたらしいよ」


 などという話が。


 あの先生やはり怒られていたのかとセバルトは先日のことを思い出す。まあ、どう見ても責任者だしなあ。何かしらの魔物の影響があったとは言え、見破れず自分で作ったゴーレムで生徒が怪我して怒られないはずがない。仕方ないな。

 などとセバルトが思っていたその時だった。


「たいへんです、大量の魔物がやってきたという報告が!」


 魔法学校の職員が、施設に飛び込んできて、別の職員に深刻な表情で話し始めたのは。

 魔法学校に不穏な空気が広がっていく。




 セバルトも知ることとなった事情は、こうだった。


 北の山の麓のあたりに、数多くのトロールやコボルトがあらわれ、暴れているらしい。

 歩みが遅いので町に来るには時間がかかるために、対処する時間はあるが、冒険者ギルドだけでは戦力が足りず、協力要請が来たということだ。


 来たか、とセバルトは思った。ゴーレムにオーガデーモン、色々な魔物があらわれ活発化していたが、ついに本腰を入れたらしい。

 だが少なくとも今回のトロールクラスなら、あの教師以上の本格的な魔法使いが対処すればなんとかなるだろうと、セバルトは静観を決めこむ。


 ――それから数時間後。


 魔物達をなんとか撃退した旨が魔法学校に再度様子を聞きに来たセバルトに告げられ、そして、そこに来ていたイーニーの口から、完成した羅針盤を使って、このあたりに住む魔物を探し、今回の事件を引き起こしている魔物達を一掃する作戦を決行すると聞かされた。


「もうこれ以上様子を見るのは終わりだ。こっちから行って、終わらせる。そのために必要なものもちょうど完成したのだから。作戦日時は、明日、日の出とともにだ」


 そして、異変の解決に向けて、各方面が忙しく動き出した。

(ロムスとメリエも何かする可能性が高いか。魔法学校も冒険者ギルドも関わっているのなら)

 大きな侵攻があったなら、おそらくそろそろ本丸が――あの魔族の言っていたボス、魔王ウィーハードと名乗る何者か――が直々に来そうだとセバルトは考える。


(そうなると、俺はどうするか、考えなければならないな)




 翌日。早速、探知の羅針盤を使った魔物調査がはじまった。

 その調査には、冒険者ギルドの関係者を中心として、魔法学校の研究者やただの力自慢などの有志が集まり、街の周囲の森や山などを調べていくこととなる。

 そこにはもちろんセバルトもいて……。


「はあ。結局これにまで参加してしまった」


 セバルトは複雑な気分になっていた。

 もう自分で動いて世界や国や人を救うことはしないつもりだったのに、結果的に動いてしまった。なかなか救わないのも難しい。


 結局、お人好しにも協力してしまったのだ。


「でもしかたないというか、無視してこの町が襲われてまともに住めなくなったらと考えると、放置しておくのもリスキーだし。何かあれば英雄育成にも支障がでかねない」


 あとあと楽するためなら、面倒でも我慢我慢とセバルトはてくてく歩く。冷静に考えてどっちが得かは迷路に迷い込みそうなのでやめておく。

 セバルトは北の山の方を受け持ちになったので、道具を持ってうろついている。

 と、同じように羅針盤を持ったメリエと偶然出会った。


「あ、先生っ! どう? 何かあった?」

「いいえ、今のところは。そちらはどうですか?」


 メリエは首を横に振った。まだヒットはしていないらしい。

 ひょいと木の根を飛び越え、メリエが近づく。


「ホントにいるのかなあ?」

「それはおそらく間違いありません。何がいるかはわかりませんけど」

「ふーん。先生が言うならまあ間違いない……かどうかはよくわからないけど」

「そこはわかって欲しいところですね」

「ま、いたらあたしが鍛えた英雄パワーでぶっ飛ばしてあげるわ。先生はのんびり成果を見てなさい」

「おおー、いいですねえ、全力でのんびりします」

「いや、成果を見る方をどちらかといえば全力でやって欲しいんだけど?」

「ふっ、もちろんそっちも全力でやるに決まってるじゃないですか」


 メリエが疑うようにじろりとセバルトの目を見てくる。とりあえず笑顔で応えておく。


「一応信じてあげる。……そういえばさ、先生、あたしとロムス君とを引き合わせたのも計算だったのね」

「なんのことでしょうか?」

「あたし達、ちょっとうまくいかないことがあって悩んでたけど、この前一緒に訓練してたら脱出の切っ掛け掴んだかもしれない。一人じゃないってことで。それ、先生のことだから狙ってたんでしょう。まさかご飯食べにいったときからここを見越してたなんて、さすがのあたしも先生の先読みに脱帽」


 メリエが憧れるように目をキラキラさせている。

 だが、セバルトは、


(なんかめちゃめちゃ勘違いされてる!? ご飯誘った時点ではそこまで考えてなかったのに。さすがに無理でしょ。最終的に英雄として力十分になるために二人が協力したらいいとは思ってたけど)


 まったくの過大評価だった。しかし。


「ふっ……ご想像にお任せしますよ」


 メリエがおおー、と感動したように声を上げる。

 いやー、教えた相手に尊敬されるっていい気分だなあ。嘘はついていないし。

 と英雄らしからぬことを考え、セバルトは森の奥へと進んでいく。

 そんな話をしながら、目の前の邪魔な蔦を払いのけて、山の麓をぐるっとまわって進んでいく。


「これにも参加するとは、冒険者ギルドの依頼にも積極的なんですね、メリエさん」


 セバルトの言葉を聞いたメリエは、少し考えるような間を置き、絞り出すように言った。


「……あたしが強くなりたいと思ったのは、こういうことのためだから」

「こういうことの?」


 メリエは頷き、理由について語った。


「たとえば――ソーマと呼ばれる万病に効く霊薬がドラゴンの巣の近くにあるという言い伝えがあるの。もちろん、そんなところには誰も近づけない。でもそれがあれば、怪我をした人や病気の人は今よりも多く助かるはず。だから、魔王が今はいなくても、そういういろんなやり方で人を助ける人も英雄だって言えるんじゃないかと思うんだよね、あたしは」

「だから、そのためにも力がいると」

「そう。困ってる人を助けるためにも、人々を守り救う英雄がここにまだいるって示すためにも、力はあって困らない」


 話しているメリエの目には真剣な光が宿っている。森の下草を踏む足取りも力強く、セバルトは自分が魔王を倒すための旅に出た時の地面を踏みしめていた姿を、メリエに重ねあわせていた。


「ええ、その通りだと思います。魔王を退治するなんていうのは英雄の条件ではなくて、誰かを助けようという気持ちが一番大事なことだと思います。メリエさんは間違いなく英雄を目指して進んでいます、いえ、もうすでに英雄と同じですよ」

「なっ、何!? なんかそんなに肯定されるとちょっと恥ずかしいんだけど」

「恥ずかしがらなくていいですよ。少なくとも僕は、メリエさんに出会って、メリエさんの声を聞けて、救われました」


 メリエの顔がみるみるうちに紅潮していく。


「そっ、それは、その。先生?」


 体の向きを忙しなく変えながら、手を落ち着かないように開いたり閉じたりしている。


「そんな大胆な告白をされると、その、さあ。ね? 一応生徒と教師だし……修行中の身でそういうのは、いやもちろん先生も割と格好いい……方かなーなんて思ってはいるけど、ああつまり急に言われても困るのよー。私も、その、同じような気持ちではあるけど! タイミングが!」

「そうですか? そんな大胆な告白でもないとは思いますけど……」


 セバルトとメリエの間に、告白の意味の受け取り方に相違があるのは間違いない。だが両者とも自分の解釈しか見えていないのであった。


「まあ、困るなら取り下げます」

「ええっ!? そんなあっさり取り消せちゃうの!? それってどうなの!?」


 むっと眉を上げセバルトに詰め寄るメリエ。セバルトは謎の反応に首をひねる。

 その時、二人の手元で赤い光が閃いた。

 手にした羅針盤が反応したのだ。


「わっ」

「これは、来ましたね」

「うん。行こう、先生」


 耳まで紅くなっていたメリエが、足取りを速める。


「そうですね。この依頼もまさに人々の穏やかな暮らしを守るためのものです。頑張りましょう」

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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