表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/124

急転直下

 その日、メリエは冒険者ギルドを訪れていた。

 セバルトの指導を受ける前から定期的に通って、色々やっていたので、それと同じようにエイリアの人の助けになるために。

 むしろ受けている指導を活かして、もっと積極的に働かなければとメリエは思っている。

 メリエはいつも通りに何か依頼がないかと尋ね……いつもと違う異変に気付いた。


「イーニーさん、深刻な顔してるけど、どうしたの?」

「……気付いたか。ノーダとラクサス、覚えてるか?」


 ノーダ……ラクサス……。

 メリエは記憶の海を探り、十数秒して思い出した。


 冒険者ギルドでセバルトが他の冒険者にアドバイスしたという話を聞いた時に出てきた名前だ。メリエも面識のある顎髭と魔女帽子はアドバイスを聞いたが、ノーダとラクサスの二人はセバルトみたいな新人から聞くことはないと言ってでていったという話を聞いている。あれ以来特に関わりがないから印象は薄れてきているけれど、どうしたのだろうか。


「うん、思い出したよ」

「あいつらが死んだ」

「……死んだ?」


 イーニーが声を発した瞬間、冒険者ギルドの空気の温度が下がる。


「ああ。コボルトの討伐に行ったまま帰ってこなかったんだが、昨日他の依頼を受けてた冒険者が奴らの死体と遺品を見つけた」

「コボルトにやられたのかな」


 イーニーは首を振った。


「いや……死体は凄い力で叩きつけられたような感じだったらしい。コボルトなら牙や爪の切り傷が多いはずだからおかしい。別の魔物……それもかなり強力な奴に遭遇して、やられたんだ。コボルトの群れが見つかった場所から少し離れた場所だったしな」

「そう……」


 メリエは驚いた表情のままじっと考え込む。

 冒険者が命を落とすことというのは、もちろんあることだが、先日もあってまた、しかも強力な魔物らしいというのは、あまり穏やかではない。


「その魔物は見つかってないのね?」

「ああ、わかるか。その場所に行って調べようって奴がいなくてな。そんなやばい魔物をどうするかってところで、皆尻込みしちまってな。俺が動くしかないかと思っていたんだが――」

「あたしがやる」


 凛とした声が響いた。

 ギルドの中の目が一点に向く。


「あたしがそいつを見つけてぶった切ってやる。任せなさい」

「おい、メリエ本気か? 相当やばい魔物だぞ相手は。お前が返り討ちに遭う可能性もあるってわかってるのか」


 イーニーが心配そうに確認する。


「だから、あたしが行くの。他の人が行けないところに行って、皆を助けるんだから。危ないからってひいたら、なんのためにいるのかわからない。なんのために特訓したのかわからない」


 その言葉を聞いても、イーニーは渋い顔をしている。ギルド員がこれ以上被害に遭わないようにと思っているのだろう。

 だが、真剣な目のメリエから見つめられると、イーニーも頷くしかなかった。


「そこまで言うなら、お前を信じる。……死ぬなよ」

「もちろん!」


 そしてメリエは、未知の魔物が巣くう深森へと向かう。




 向かったのは、町の東部、湖のさらに東に広がっている森林。

 メリエはそこを慎重に歩いて、冒険者達の亡骸が見つかったという場所へと向かう。


(最近、危ない魔物が増えてるっていうけど、限界を超えたって感じね。この前の魔族といい、何か起きそう。それも調べないと。私がやるんだから)

 森を歩きながら、メリエは気合いを入れる。


「あたしが先生に教わってるのは、こういうことのためだから」


 今は世界はおおむね平和だとは言え、世の中に脅威がゼロというわけではない。街から離れたところにある街道沿いの森や草原や荒れ地などにはいまだに魔物が現れることもあるし、盗賊のようなものがあらわれることもある。


 そういう者から皆を守らなければいけないし、それに困ってる人を助けるためにも、人々を守り救う英雄がここにまだいるって示すんだ。

 力強い足取りで、メリエは歩む、そのときだった。

 轟音――何かが割れ砕ける大きな音があたりに響き渡る。


「なにが!?」


 メリエがそちらに目を向けると、そこには。


「ゴーレム……!」


 巨大なゴーレムが、木を折りこちらへ向かってきていた。

 それはアイアンゴーレム。鉄の身体を持つ巨兵。太い木の幹を細い木の枝のようにへし折りながら、メリエのもとへと向かってくる。


「こいつのことだったのね」


 ゴーレムは頭部についた赤いコアを光らせると、一気にスピードをあげた。メリエを排除すべき存在と認識したらしい。その移動速度は、巨体からは想像できないほど俊敏である。

 メリエは知らないことだが、ゴーレムはかつて魔軍がガーディアンとして使っていたこともある存在であった。


「見るからに強そうね。でも、ひくわけにはいかない。行くぞ、ゴーレム!」


 メリエは叫び、一気に地を駆ける。

 突進して近づくとアイアンゴーレムは腕を振り回して迎撃するが、メリエは持ち前の反射神経と鍛えた身体能力でそれをぎりぎりで回避し、剣を切り上げ反撃をする。


「……くっ!」


 キィン、という鋭い反響音がした。

 硬い体に剣が通らず弾かれた音だ。


 メリエは素早さを活かし、さらに何度か斬りかかるがダメージを与えることはできない。そして、ダメージを受けないということは、敵はカウンターに専念できるということで、メリエは最初は反撃をなんとかかわしていたが、ついに反撃を避けきれず、体勢をくずしてしまう。その瞬間、ゴーレムの頭部の赤いコアが輝き――高エネルギーの力線が放射された。


「しまっ――!」


 巨大なエネルギーの奔流に飲み込まれかけ、身をよじるがかわしきれない。衝撃波に吹っ飛ばされ、木の幹にしたたかに身体を打ち付ける。


「あ……ぐ……強い……」


 背中が痛みで熱くなり、肺から一気に空気が抜ける。だがその苦痛にも負けずに、メリエはさらに向かって行き、切りつける。だが、やはり鉄のボディには通用しない。


(効かないの――? 訓練したのに、前よりずっと強い身体を手に入れたのに。それなのに、魔物の中にはそれが一切通用しない奴がいるなんて――)

 ショックで動きが鈍り、アイアンゴーレムの拳がヒットする。


「が……あ……」


 体内マナで強化された肉体でも大きなダメージを負って、メリエは足下がふらつく。

(まずい、このままじゃ――)


「大丈夫かよ、メリエ!」

「助けに来たよ~」


 その時、冒険者ギルドの顎髭の男と魔女帽の女が走って現れた。

 同時にノータイムで何かの弾を周囲にいくつも放り投げると、大量の煙がもくもくと出てきた。


「今のうちに逃げるんだよー!」

「でも、私は――」

「こんな化物、相手にできねえぞ! いいから来い! 勝ち目があるわけじゃないんだろ!」


 実際にない以上、何も言えない。

 メリエは助けられて、その場を離れた。


「俺たちも近場にいたんだが、やり合う音が聞こえたから様子を見て良かった。相手が単純なゴーレムで助かったな、おかげで逃げ切れた」


 森を出たところで、男がメリエに言った。


「逃げるための道具は持ってないのか?」

「あたしが逃げるわけにはいかない。立ち向かわないと」

「やってやるっていう意気込みはいいけどよぉ、保険うっとくのだって立派な戦略だぜ?」


 メリエは何か言おうとしたが、何も言えずに俯いた。


(手も足も出なかった。私が剣を鍛えるだけじゃ、駄目なのかな――)

 メリエは刃の欠けた剣に目を落とす。




 メリエは森に潜む脅威の正体と、それを排除できなかったことを冒険者ギルドに報告をした。

 度重なる、そしてさらなる脅威が迫っていることに、冒険者ギルドとしてはすぐにでも動くことになった。防衛の強化や、他に魔物がいないか捜索などを行うということだ。


 慌ただしくなったギルドだが、メリエはふさぎ込んで外へ出た。

 町外れの草原に行き、今にも落ちてきそうな分厚い雲をじっと見つめる。


「結局、あたしって意気込みだけなのかな――英雄になりたいっていう口だけで」


 ぽそりと呟いた。

 一生懸命訓練して、先生からも教えてもらって、それでもだめなのかな。


「あれ、メリエさん?」


 突然、聞き覚えがある声。

 目を向けると、そこにいたのは兄弟弟子のロムスだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ