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今度はマイホーム 2

「ようこそ。僕の新居へ」

「失礼します」

「お邪魔しま~す……っと、おお」


 セバルトが新居を見つけた一週間後。

 エイリアの町の東部にある、庶民的な住宅がおおくあつまる一角に、木造の小さな平家があるが、そのドアを今まさに開けて中に入ろうとしている者が三人いる。


 ロムス、メリエ、そしてこの家の新たな主となったセバルト。

 ロムスとメリエは珍しいものを見るように、その家の中を観察する。もちろん珍しいものではない。どこにでもある家の中の一軒で空き家となっていたものを、借家としてセバルトが借りたのだ。


 そのような事情なので、家の中も特になんの変哲もない独り暮らしには十分な広さの家であった。

 食事をとるダイニングと寝室兼書斎(本はたいしてないが)、それと料理を作る厨房といったところだ。


 さほど広くも豪華でもない家だが、セバルトは気に入っている。普通に静かに暮らすのに必要十分な環境。今のセバルトにはそれこそ一番心安らぐ。


「ふむふむ。なかなか普通ね。先生みたいに変わった人なら、もっと変なものいろいろあるかと思ったんだけど」

「変なものって、いったい何を期待していたんですが、メリエさん」

「旅をしてるっていうから、かぶると外れなくなる呪いの仮面とか、旅先で見つけた珍しい鳥の羽とか、邪悪な精霊をかたどった木彫りの悪魔像とか」


 メリエが言うと、即座にロムスがツッコミを入れる。


「メリエさん、さすがにそんなものばかりあったら怪しすぎますよ。先生だってそんな変なものばっかり持ってるわけないですって」


 メリエとロムスは、一緒に家を探してもらった時に、落ち着いたら一度お招きしますとセバルトから言いだし、同時にメリエから一緒に探してあげたんだから招いて欲しいとも言われた。

 そんなわけで家の中など片づいた今日、二人を呼んだというわけだ。


「いえ、結構ありますよ。ほら、こんなに」


 セバルトは部屋の奥にある棚の中から、あやしげな仮面や綺麗な羽根や謎の像を取り取り出して二人に見せる。


「あ、あるんですか……」

「ほらね、やっぱり。私にはわかるの、先生は結構な変わり者だって。だって私たちに聞いたことない不思議なことを教えるくらいだしね」

「それだと今では自分たちが変わり者だって言ってるような感じもしますよ」

「否定はしないわ。私も、ロムス君もね」


 ロムスがえっ、という顔をする。

 どうして僕まで変な人ということにされているんだろう。

 性格的に口には出さないロムスだが、その表情はそう雄弁に語っていた。だがメリエはロムスの顔を見ていなかったので、残念ながらロムスも変わり者の仲間だということにメリエの中では決定してしまったようだ。


「まあ、あたしの方が年上だからね。ロムス君の方が兄弟子ではあるけど、人生的にはあたしの方が先輩だから、まだまだ経験からくる洞察力はあたしの方が上かな」

「は、はあ」

「そういうわけだから、何か困ったことがあったら何でも頼りにしてもいいわよ。あたしに相談したらちょちょいのちょいと解決してあげる。私は冒険者だし実家は修理屋だし、色々できるよ。なんだかきみって気が弱そうでちょっといじめられっ子体質っぽいから心配だし」


 メリエがロムスの顔をのぞき込むようにして神妙な顔で言うと、ロムスは勢いにおされたように頷いた。


「あ、はい。わかりました、相談させてもらいます」

「うむ。お姉さんに任せなさい」


 ふんむと鼻息荒くふんぞり返るメリエ。

 無理矢理言わされてるように見えたセバルトだったが、意外にもロムスはメリエをちょっと憧れるような尊敬するような目で見ている。


 ロムスにとっては、これだけはっきりと言いたいこと言えるということがすでに頼れる人だという感じに映るったのか?

 それにしても……メリエは確かセバルトには自分の方が年下だけど、冒険者としては先輩だから敬うようにと言っていたような気がするが……なかなか調子のいいタイプである。


「ま、頼るか頼らないかはともかく、どっちが先輩かもともかく、お互いから学ぶこともあるだろうし、何かあったら相談したりするのもいいでしょう。仲良くしてくださいね」

「はい」

「うむ。面倒見るのは任せなさい」


 腰に手を当てて、深く頷くメリエは、ゆっくりと周囲に視線を走らせ、そして眉根を寄せた。


「それにしても……先生の部屋、散らかってるわね。掃除したくなるわ。ね、ロムス君」

「はい……ちょっと、ものが多いですね」


 二人が言ったとおり、セバルトの居間は様々なものが、散乱していた。今にも片付け始めそうにうずうずしている。

 が、セバルトはすかさずメリエの前に立ちはだかった。


「やれやれ、なにもわかっていないようですね」

「わかってないってなにが」

「これは散らかっているのではなく、最適化しているのですよ」

「最適化?」


 メリエがぐるりと部屋を見渡す。


「どこが?」


 セバルトは額に手を当て、おおげさにため息をついた。


「普段僕がここに座ります。その場所を中心に手の長さの半径内に、よく使う本や文房具、ドライフルーツのようなちょっとしたおやつ、布巾、その他諸々が全て配置されているのですよ。他のものも使う頻度にあわせてとりやすいようにしてあるんです。最も効率的な配置はこれ以外あり得ない!」

「きゅ、急に雄弁になったわね」


 メリエがセバルトの勢いにのけぞる。

 その横で、ロムスがぽんと手を打った。


「そうだったんですか。たしかに言われてみると、ちゃんとそういう配置になってますね。すごいです先生、見破れませんでした」

「え。納得するのロムス君?」

「納得もなにも,事実ですから」

「たしかに先生の説明の通りだけど――くっ、負けたわ」

「ふっ、僕の勝ちですね」


 悔しげなメリエに対して勝ち誇った笑みを見せるセバルト。

 その二人をみて、ロムスが怪訝に首をかしげた。


「……いつから勝負してたんですか?」


 そんなこんなで、マイホームへの招待は続く。



「それでは、せっかく来ていただいたことですし、新しいキッチンで作った料理でも食べてください。結構使いやすくて良い感じなんですよ」

「待ってました! おいしーもの、食べさせてくれるのよね」


 メリエが楽しみそうに笑顔を見せる。

 セバルトは自信ありげに頷き、料理をとってくる。すでに料理の準備は済んでいる。あとは盛り付けて出すだけだ。


「さあ、どうぞ」


 まず出したのは、大量の芋と野菜を煮たスープ。


「うおお、凄いボリューム」

「好きなだけ食べてください。芋はたくさんあります」

「おいも、好きなんですか?」


 ロムスが尋ねると、セバルトは頷いた。


「好きですし、一番の栄養源です。旅の途中の。パンなんて旅先で焼くことできませんしね。芋が結構多種多様にあったので、それをよく食べていたら、今でも口に馴染んでいます。それと……これです」


 どすん、と音を立てて大皿がテーブルの上に置かれた。

 のっているのは、大きないい色に焼きあがった肉の塊。


「ワイルド~」

「大きいですね」

「やっぱり肉が一番です。簡単に手に入りますし。美味しいですし、栄養もありますし」

「野菜の方が手に入りやすいイメージがありますけど、違うんですか?」


 ロムスが肉の塊に注目しながら尋ねる。


「それは町中の発想です。旅をしている時は、肉の方が簡単ですよ。食べられる野菜をお腹を満たせる量探すのは意外に大変ですが、肉なら襲ってきた大型の獣を返り討ちにすれば数日間それだけで生きていけますからね」

「へえ、なるほど」

「その時は生肉が栄養があっていいんですよね――」

「え、生?」

「ええ。生の内臓、特に心臓や肝臓が最高ですね。これが一番栄養があります。でも肝臓は種によっては体調を崩すので、注意した方がいいですよ……あれ、どうしましたか二人とも」


 メリエとロムスは半笑いで固まっていた。

 何か珍しい生き物でもみたような目をセバルトに向けている。


「な、なかなかハードな生活してたのね先生」

「旅って、大変なんですね」


 もちろん、生肉を食べなければ生きていけない環境に衝撃を受けているのだが、セバルトには特に珍しいことでもないので思い至らない。魔領の生物は栄養価に乏しく、少しでも栄養の効率を高めなければならなかったのだ。


「慣れればなんとかなりますよ。僕もほとんどの動植物を消化吸収して毒などにもあたらないようになりました」

「人間って慣れてそういう風になる生き物でしたっけ……?」


 ロムスが首をかしげる。

 実際なってしまったのだからしかたがない。魔物の肉や魔の植物は特別製なのかもしれない。


「なるものなんですねー。でもお二人は初級者だと思うので、生肉ではなく肉は焼いておきました」

「発言がもはや半分野生動物ね。というか初級者って、なんの初級なの」

「肉食検定?」

「なにそれ」

「まあ、それより食べましょう。せっかくの肉なんですから」

「そうね。あたしもお肉は大好きだもん。それじゃ、いっただきまーす」


 さっそくフォークで肉をつきさし、口に放り込むメリエ。

 しばらく真顔で口をもぐもぐと動かし、そして飲み込むと。


「いい! いいよ! 今までで一番先生のこと尊敬しちゃった」


 満面の笑顔で料理を褒めるメリエ。

 セバルトは喜んで――喜んでいいのだろうか? 今までで一番って。

 少し考えたが、まあ美味しそうに食べてるからいいやという結論に至った。何かを食べるときは細かいことは気にしないに限る。


「おいっしい、このお肉。なんだか変わった風味があって、思わず手が伸びちゃう」


 肉を数切れもぐもぐ食べたメリエが何かに気づいたように言う。

 ロムスも、同意して頷いている。


「ほのかに甘い香りとぴりっとした辛みがあって、臭みも全然なくて食欲がわいてきます」

「わかりますか、これ、クロブルームっていうんです。肉料理を美味しくしようと思ったらこのスパイスに限ります。これさえあればただの肉もごちそうです。貴重なものなのですが、もうじきたくさん使えるようになるはずです」


 この前栽培に成功したから、時間の問題のはずだ。


「本当に、ただの焼き肉なのにすっごく美味しい」


 二人とも雑談を一旦止めて夢中に料理にむさぼりつく。

 セバルトは一安心しながら、自分も同じものを食べる。うむ、やっぱり美味しい。二人の口にもあってよかった。


 しばらく食べることに集中し、結構な量があった食事をセバルト達は平らげた。もちろん、肉以外の料理もありました。


「うーん、食べた食べた。なんだか、本当に『食べた』って感じね」


 食べ終わると、メリエがおなかにぽんぽんと満足げに手を当てながら言う。まるで実家にいるようなリラックスぐあいだ。


「はい。先生が結構野生的だって今日は知りました。……僕も見習おうかな」

「いや、ロムス君はロムス君でいいと思うなー。ワイルド系でおらおら言ってるロムス君想像するとなんか怖いもん」

「いえ、おらおらは言わないですけど」


 ロムスはまじめに突っ込みを入れたのだった。

 そんなこんなで、しばらくは教えることを忘れ、とりとめもないことを話してセバルト達は過ごした。ロムスとメリエもなかなか親しくなったようで、何かあれば助けられたり高め合ったりできるだろう。魔法使いと剣士ならば、相手の知らないことや足りないことを知っているだろうし。

 セバルトはそんなことを思いながら、生徒達と新居での楽しいひとときを過ごしたのだった。




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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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