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今度はマイホーム

こうしてセバルトとメリエの授業は幕を開けた。

 釣りで覚醒した翌週の授業中、眉間にしわを寄せながら、マナを感じることに集中するメリエの傍らで、セバルトはその出来具合を観察しつつ、今後の授業をどうするか考える。


 まずは地道に体内マナを操る術を訓練していくつもりだが、それが終わったらその次は体だ。


 体内マナで身体能力を強化できるからといって、肉体を鍛えなくてもいいというわけではない。体内マナは体に宿るものであるので、もともとの体力もあった方が乗算的に効果的だ。体を体内マナに馴染むようにしつつ、体内マナを生かすための体作りもする。そういう風にして訓練をしていくのが最も効果的だろう。


 それに加えて、体術や剣術についても少しずつ指導していく。

 独学で身につけたというメリエの剣はなかなかの腕ではあるが、それでもまだセバルトから見れば足りない部分もあるので、そこを教える。


 セバルトが家庭教師をはじめてからしばらくの時がたった。二人の生徒に指導するセバルトは街にもだんだん馴染み、家庭教師にも慣れてきて、順調に新たな環境での生活を構築しはじめている。

 切っ掛けをつかんだ生徒の飲み込みはよくセバルトもやりがいを感じている。これまで人に教えるという事はほとんどしてこなかったためなおさらだ。

 それに彼らなら、英雄の片翼を担える実力を得ることだろうとも思っている。


(そしたら楽させてもらうぞ。あー、楽しみ楽しみ)

 そんなことを考えつつ、授業を終えると、二人は町へと戻っていく。


「ところでメリエさん、実は教えていただきたいことがあるのですが」

「先生が? あたしに教えて欲しい?」


 帰り道でセバルトが言うと、メリエはきょとんとした表情を見せた。と思うとにこっと笑い、


「へー、先生が。ふふ、いいわよ。気分がよくなったから何でも教えてあげる」

「このあたりにいい物件はないでしょうか」


 張り切っていたメリエの表情は、急にぽかんとしたものになった。

 どうやらこの願いは完全に予想外だったらしい。


「物件?」

「ええ。僕は旅の途中の身で、今はとりあえず宿屋にいます。ですがしばらくはここエイリアの町に居着こうと思っているので、宿ではない住む場所が欲しいと思ってまして。もともとこの街に住んでいるメリエさんなら、僕よりもそういうことには詳しそうだなと」

「ほほう、なるほど。仕方ないなあ、いいよ」


 再びメリエの目がきらりと獲物を見つけた猫科のハンターのように輝いた。自分が教える立場になって、結構嬉しそうである。


「ありがとうございます、メリエさん」

「それじゃ、早速一緒に家を見に行きましょう。教えるだけじゃなく、サービスで一緒に探してあげる。さあ、先生、善は急げよ」


 メリエは街の方向を指さすとずんずんと歩きはじめる。

 そうして町に着くと、セバルトはメリエに教えてもらいながら、家探しをしていく。一軒目はいまいちで、もっといいところを探そうと二件目の家へと向かっている途中……。


「ロムス君、こんにちは」

「あ、先生。こんにちは」


 町を歩いているロムスを見かけた。当然、メリエはロムスがセバルトを先生と呼んだことに興味を抱く。


「先生? この子の先生もしてるの?」


 セバルトは頷きつつ、驚いていた。こんなところで生徒同士が出会うなんて、結構な偶然だ。


「はい、そうです。せっかくだし、お互い名前を交換してもいいんじゃないでしょうか。どちらも向上心のある生徒同士ですしね」


 セバルトに促され、ロムスとメリエは向き合った。


「ロムス・アハティです。よろしくお願いします」

「メリエ・ゼクスレイよ。よろしくね、ロムス君」


 まじめな顔で挨拶するロムスと、余裕な笑顔を見せ、大人ぶった調子で挨拶するメリエ。

 ロムスは13歳でメリエが17歳(実際17歳だった)なこともあって、二人がいるとメリエがお姉さんっぽく見える。

 姉――イメージ通りだなと思いながらセバルトは二人の様子をほのぼのした気分で眺めていた。


「あなたも最近パワーを鍛えてるの?」

「え? いえ、僕は」

「でも筋肉もつけた方がいいらしいわよ。むきむきに――」

「いえ、僕は魔法使いで――」


 なんか息の合ってるような合わないような会話をしているが、面白いのでセバルトはそのまま見ていることにした。

 とにもかくにも、生徒同士が仲良きことは美しきかな。


(この二人、相性悪くなさそうかな)

 英雄は一人ではなれない。だから、多くの生徒達の力が合わさることが必要だ。まだ成長途上なら特に。だったら、顔を合わせたのがいい機会。これからお互い協力しながら学んでくれれば、きっといい成果が出るだろう。セバルトとしてもそれを推奨したい。いい刺激になりそうだ。


 しばらくその場で話したあと、今家を探しているところだというと、日頃のお礼に僕も一緒に探しますとロムスが言い出した。

 ありがたくセバルトは協力を受け、ロムスも加えて家捜しを再開する。今度二人には何かお礼をしないとなと思いつつ。


 そしてメリエとロムスという二人のエイリア住人の助力もあり家捜しははかどり、しばらく探すとあっさりと、ちょうどいい家が見つかったのである。




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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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