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子孫への講義は難しい

「ぐぅぅぅ、貴様らぁ、よくも、よくもぉ」


 地獄の底に響くようなうめき声が林に響いた。

 その声の主は、オーガデーモン。血をまき散らしながらのたうち回っている。

 肩から腹にかけて深々と切り裂かれた傷は致命傷、もう戦えないし助からないだろう。

 だが、死ぬ前に聞き出さなければならないことがある。せっかく言葉を喋れる魔物なのだから。


「オーガデーモン、あなたが言っていたあの方というのは誰です? そして何をたくらんでいる?」


 オーガデーモンは恨みがましい目つきで、メリエとセバルトを見上げていたが、不意にくくっと笑った。


「そんなこと知ってどうする? お前達はどうせ死ぬんだよ。オレを殺したって同じこと、オレなんかウィーハード様に比べたら虫けら、お前らだってドングリの背比べだ。人間に殺されたのはムカつくが、てめえらも死ぬなら気分はいいな」


(ウィーハード!? そんな、馬鹿な)

 セバルトはオーガデーモンにさらに近づく。


「その話もっと詳しく。素直に話すなら……」

「言わねえよ。喋ったらあの方からどんな罰を受けるか……おお怖ええ。死んだ方がましってもんだ。てめえらもいずれそう思うぜ。はっ、地獄で先に待ってるぜ!」


 オーガデーモンは素早く指を動かす。

 セバルト達は身構える。


「がはっ……」


 そして魔法が発動し――氷の杭が悪魔の胸を貫き、絶命した。


「自害したの?」

「ウィーハードとやらは、よほど恐ろしいようですね」

「こいつが全部やってたわけじゃないってことね」

「ええ……上に頭がいて、人間達を殺そうとしていることはわかりました。それだけでも収獲です。伝えて、対策を練りましょう」

「うん」


 メリエは神妙に頷く。

 そして二人は、冒険者ギルドへと報告に戻った。




 セバルトとメリエは、冒険者ギルドに報告をした。

 さらなる脅威が迫ってることを伝え、冒険者ギルドとしても対策を立てることになった。


 後日セバルトが聞いたことによると、これを重要な事態ととらえたギルドは、魔族がこのあたりにいないかの調査を今後していくことに決めたという話だ。ギルドは町の行政を担う評議院から委託され、エイリア市の治安維持も担っているためだ。防衛の強化や、他に魔物がいないか捜索などを行うらしい。


 そう言った組織的なことはギルドに任せることにして、セバルトとメリエは今回の依頼の報酬を受け取り、ギルドを出て、第一回の授業の約束をして、各々の寝床へと別れていった。

 そして今、セバルトは宿の中で一人大きく息を吐いた。


「ふう……まさかこんな展開になるとは。新しい生徒だけじゃなく、あいつまで」


 ウィーハード。

 セバルトが倒した七の魔王のうち第三の魔王。

 氷の塔をアジトにしていた氷雪の魔王だが、しかしたしかに聖剣によって滅ぼしたはず。


(どういうことなんだろう。たしかに倒したはずだが……偶然の同名か、後を継ぐ者かだろうか。まだ情報が足りなくてわからないな……まあ、なんとかなるだろう。そのために教師してるんだし)

 かつての戦いを久方ぶりに思い出すと、わずかな気分の昂ぶりを感じる。

 自分を殺しに来る魔物の攻撃を防ぎ、逆にこちらが魔物を狩る。その、力を振るう喜びを。


「悪いくせだな。もうそんな必要のない世界になったのに」


 セバルトは自分の手のひらをじっと見つめ、軽く握り込むと、首を振った。




 メリエの指導をすることが決まった翌日。

 町の東、湖のほとりにセバルトとメリエは立っていた。


「さあて、早速第一回目の授業ね。よろしく、セバルト先生」


 メリエの言うとおり、セバルトのメリエの教師としての第一回目の授業だ。

 セバルトはメリエを英雄の一員として育てたいと思い、メリエは英雄になる覚悟があった。だから利害は一致しているし、それに、自分に憧れ英雄になりたいと、自分の子孫がそう言ってくれているのだ。やはり応えたい。


「ええ、よろしくお願いします。メリエさんが僕の申し出を受けてくれて嬉しいです」

「それは……こっちこそよ。先生から言い出さなくても、あたしは頼んでたわ」

「本当ですか?」

「だって、先生は信頼できるから。あたしの力を引き出したからっていうのはもちろんだけど、一番凄いと思ったのは、力はそんなになかったのに戦ったこと」

「ないことが、ですか?」

「うん。戦いながら見てたけど、先生、レッサーデーモン相手も力で勝ってた感じじゃなかったでしょ。それでも全然躊躇せず戦ってたし、もっと強いオーガデーモンにも怯んでなかった。自分より弱い相手と戦うのは怖くも難しくもないじゃない。力で負けてる相手に立ち向かう方がずっと強い気持ちがいると思うの。それって簡単にできることじゃないと思う。でも先生はそれを当たり前みたいにさらっとやってた。あたしはオーガデーモンから逃げ出したいのをギリギリでこらえてたくらいなのに。全然平常心なんだもん、心鍛えすぎよ」

「いや、ただの慣れですよ、たいそうなものじゃないです」

「それむしろ凄いから! 先生は自分の凄さをもっと自覚すべき! はー信じられない。先生にとってはさらっとしたことだなんて、どれだけよ。ともかく、あたしの先生なんだし、どーんと行こ!」

「あはは……そうですね、わかりました。期待に応えられるよう僕も頑張ります」


 セバルトは深呼吸をして、口を開く。


「やりましょう」

 そして、授業が始まった。

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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