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生徒、二人目

「よく、わかったな? オレがここにいるの?」

「喋った……こいつ、相当レベルの高い魔族ってこと?」

「レベルの高い、だぁ? 舐めてんのか、小娘。オレが上、オレがお前らを値踏みする方だ、雑魚人間ども」


 挑発するような言い方に、メリエは言い返さなかった。

 話している間に、じっとそのデーモンの様子をうかがっている。

 これまでとはレベルの違う魔物だということを即座に感じ取ったのだ。

 セバルトの袖をひき小声で言う。


「こいつ、強い」

「ええ。その通りです。これまでとは一段違う」

「じゃあ、もしかして――あんたがやったのね! ここから帰ってこない人っていうのは!」


 メリエが声を大きくしてオーガデーモンに問う。

 オーガデーモンは一瞬考えるように目をぎょろりとさせると、あざけるように笑った。


「ああ、そんなことがあったな。あんなゴミどもどうでもよかったんだが、仕事をしてるときにやってきたんで、邪魔だから処分しておいた。ククッ、驚いたなぁ。威勢良く剣を抜いたのに、驚くほど弱くてなぁ。人間ってこんなに脆弱だったのか? 念入りに準備する必要なんてないんじゃないかねぇ。まったく、心配性だぜあの方は」


 準備、あの方、やはり何かしらの組織で動いている?

 だとしたらこのオーガデーモンは誰かに指示を受けているということか。この洞穴、あそこが拠点となって密かに動いていたとしたら――。


「ゴミだの雑魚だの、黙って聞いていたら調子に乗って――」


 セバルトが考えている間に、メリエが前に出ていた。


「あたしの守るべき存在をそんな風に侮辱するのは許さない。あなたみたいな危険な魔物は、このメリエ・ゼクスレイが退治する! 覚悟しなさい!」

「ははっ、何を言うかと思えば。ムカつくなお前、オレに向かってそんな口。死ねよ」


 オーガデーモンの視線が冷たくなる。臨戦態勢に両者は入った。

 メリエは剣を掲げて突進する。


 オーガデーモンは笑いながら、巨大な氷を撃ち込む。

 メリエは間一髪回避する――が、それを読んでいたように、オーガデーモンは氷の散弾を広範囲にばらまく。


「あぐっ!」


 避けきれず、体の数カ所に氷の塊がぶつかる。


「メリエさん!」


 冷気と衝撃で服が破れて赤くなる。


「ひゃひゃ、弱いなぁ! 手加減してこれか? 脆すぎだろ」

「手加減ですってぇ……」

「そうだよ。すぐ殺しちゃつまんねぇだろ。たっぷりいたぶってやるために、最初のもわざと避けさせてやったのに気付かなかったか?」


 メリエが目を見開いた。その様子をデーモンはあざ笑う。

 セバルトはメリエへの追撃を防ぐため、魔法で作った刃を放つ。

 防ぐことすらしない魔物に命中したが、だが、その刃は皮膚を裂くことは出来なかった。


「なんだその撫でるような魔法は」


 哀れみすら含んだ声を出しながら、氷の刃を撃って反撃してくる。

 受けられないことは予想しているが、避けきるのもやっとといったところで、地面を転がるようになんとかセバルトは直撃を避けた。


「はははは! 醜い醜い醜い! 芋虫のようだぞ、人間。この前のよりはマシだが、所詮人間など脆弱な種族よ。そら、どうした? もう終わりか? 終わりなら殺してしまうぞ? くくくく」


(これはちょっと現状だと厳しいか。何かしらで足止めして逃げた方がよさそうだな。すんなり逃がしてくれるかはわからないが――)

 セバルトが考えを巡らせたその時だった。メリエがセバルトを隠すように前に出た。

 そして、セバルトの胸を押して小さな声で言う。


「逃げて」

「え?」

「セバルト、あなたは逃げて。そしてここで見たものをイーニーさんに伝えて。こいつはあたしが相手をする」


 メリエは再び剣を構える。

 だが、すでにわかっているとおりオーガデーモンはかなり強力な魔物だ。

 魔力も高く、力はそれ以上に高い。トロールやコボルトなどの獣鬼を使役する魔族にして、それら以上の力をもった悪魔だ。

 なぜここにいるかはわからないが、並の魔物よりはるかに強い。さすがに敵う相手じゃない。


「危険です、返り討ちに遭いますよ。あれはあなたの想像以上に手強いものです」


 セバルトの警告を聞いても、しかしメリエは迷わず即答した。


「わかってる、それくらい。あの化け物にあたしじゃ敵わないだろうって。さっきのやりとりで。でも……あなたが逃げる時間を稼ぐことくらいはできる」


 セバルトは、はっとする。

 メリエが何をしようとしているかわかった。


「二人で逃げればきっと追いつかれるけど、あたしが足止めすれば、あなたは山をおりられるかもしれない。……あたしは、皆を守るために鍛えてきた。たとえ自分が負けるとしても、生きて帰れないとしても、誰かを守るために戦う、それが英雄だと思うの。……あなたを守るためなら、後悔はないわ。ありがとう、私の夢を笑わずに聞いてくれて。本当に嬉しかった」


 メリエはセバルトににこりと笑いかけると、それを最後に厳しい表情で前を向いた。


「あたしは戦う、英雄の遺志を継ぐ者として! 行くぞ、オーガデーモン!」


 メリエは叫び、一気に地を駆ける。突進して近づくメリエにオーガデーモンは笑って太い腕で迎撃するが、メリエは剣で鋭い爪と打ち合い押し合う。


「くっ!」


 だがやはり太い腕の剛力には敵わず、剣を押され、足を引きずるように後ろに下げられる。


「くくく、軽いなあ。軽い軽い。ほらほら、力を入れないと、爪が目玉に食い込むぞぉ? くっくっく」

「ば、かにするなぁ……!」


 オーガデーモンはあえて魔法で迎撃しなかったのだとわかった。

 魔法で撃つより、直に自分の爪で切り浅き腕で叩きつぶす、そちらの愉悦のために。

 そして、ついに力負けしたメリエの顔面まで爪が届く――。


「くっ……もう……」


 やられる――メリエは覚悟した。

 でも、少しは時間が稼げたから、あいつはきっと逃げられる。だからこれでよかったんだ。


「英雄は、自分を犠牲にしてでも他の人を守るんだから――」

「それは違います」


 メリエの背後から声が聞こえた瞬間、背中からお腹に衝撃が走った。


「ぅぐっ!?」


 目を見開くメリエだが、剣を握る手は離さない。

 すると次の瞬間、メリエの剣はオーガデーモンの爪を押し返していた。


「え?」

「なんだと!?」


 メリエも魔物も、双方が驚愕に目を見開く。

 だがそれは錯覚ではなく、メリエは剣を押していき、逆に魔物が追い詰められる。


「ばかな、なにが!?」

 たまらず勢いよく後ろに跳んで逃げるオーガデーモン。

 メリエは自分に湧いて上がってきた力に戸惑うように己の手を見つめている。


「救うのは他人だけじゃない、自分もです――メリエさん、追撃を!」

「あっ……うん!」


 オーガデーモンが魔法図を描き魔法を発動しようとする。 

 だが魔法図を描いているほんの短い間に、地面を蹴ったメリエは音もなくあっという間にオーガデーモンの眼前にまで近接していた。

 そのスピードにオーガデーモンは驚いたように眼を赤く光らせ、そしてメリエ自身も自分の動きに驚いている。


「え? これ、私……?」

「メリエさん!」

「あっ! はぁー!」


 慌てて魔法を放つが、不完全な状態では今のメリエには当たらない。

 魔法が外れて迎撃のため、追い詰められたオーガデーモンは鋭い爪をたたき付けるように振り下ろした。だがメリエは対抗するように圧倒的なスピードで剣を鋭く薙ぐ。


 グガアアア――と吠え声をあげ、攻撃してきたオーガデーモンの腕は両断された。


「すごい、力が溢れてる。今なら、本当にこいつにも!」

「何をした、貴様ああ!」


 自分に驚くメリエに、オーガデーモンは残った腕で攻撃をしかけようとする。

 だが、メリエの剣が、肩から深々と悪魔を切り裂く方が速かった。

 鎧並の硬質な肌を切り裂き、英雄志望の一撃は悪魔を粉砕した。




「勝った……倒せちゃった……あたしがこんな魔物を! ね、見てたセバルト!」

「ええ。見てましたよ。言った通り、できたでしょう。怪我は――ありませんね、よかった」


 気の抜けた笑顔で向かってくるセバルトに、メリエははっと我に返る。


「セバルトが……あなたがあたしに力を? 何かやったよね? 戦いのさなか」

「ええ。メリエさんの内に眠っていたマナの力を目覚めさせました。一時ですが、これであの魔物とも渡り合えるはずです」

「マナの力……って? 効果は信じざるを得ないけど、それを私に与えた?」

「いえ。引き出したんです、メリエさんの中に眠っていたものを。少し荒っぽい方法でしたけれど、やっぱり強い力がありましたね」

「あたしの中に眠っていた力……」

「そうです。力を与えたのではなく、目覚めさせた。あなたの力は僕の見立てどおり、強いものが眠っていました。……そして、心も」


 セバルトは、表情を引き締めた。


「英雄になりたいという言葉、嘘偽りはないことがわかりました」

「ええ。もちろんよ」

「しかし、皆を守るというなら言葉や心だけでなく、力が必要です。今の力は一時的なものです。僕は人間の力を引き出す術を旅をしながら知りました。訓練をすれば、一時的ではなく、恒久的にあなたの力を引き出せる」


 メリエはこくりと頷く。

 少し間を置き、セバルトは言った。


「英雄には困難もつきものです。それでも、なお、目指すというなら――」


 自分に憧れているというなら……本気であのときの自分と同じ志を持っているのなら。


「――僕に指導をさせてくれませんか。あなたを英雄に鍛えあげさせてもらえませんか」


 それを手助けしたい。

 彼女の願いのためにも、自分の目的のためにも、その両方をかなえるために。

 メリエは一歩前に向かい、セバルトを青い瞳で、じっと見つめる。

 この瞬間、メリエは理解していた。

 今しかない。この人しかいない。


「あたしの――先生になってください」

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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