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オーガデーモン

「……ああ、なんで話しちゃったんだろう。もしかして、あなたが同じ名前だから話そうと思ったのかな。きっと、セバルト、あなたの親もあたしみたいに英雄に憧れてたんじゃないかな。だから英雄と同じ名前をつけたのよ、きっと。それに、なんだか油断しちゃうんだよね。一緒にいると家族といるみたいな感じがするっていうかさ。出会ったばかりなのに妙な話だけど」

「そう、だったんですか。それで、メリエさんは……」


 セバルトはなんとか返事を絞り出す。

 だがメリエは話し終わってから一気に襲ってきた気恥ずかしさから、セバルトの異変には気づかず、照れくさそうに、挙動不審に体を揺らしながら、怒ったような声を出した。


「あー、もう! 笑うんでしょ、どうせ! いいわよ、笑いなさいよ! そんな無茶なこと言うなとか、そんなことして今の時代に意味があるかとか言ってさ。もう何度も言われたから慣れてますし! だからもう秘密にしておこうと思ってたのに言っちゃうし、あなたのせいだからね――え? セバ……ルト?」


 気恥ずかしさを隠すように早口でまくし立てていたメリエが、口を開いたまま固まった。

 驚きで凍った彼女の瞳は、深々と頭を下げたセバルトをとらえていた。


「ありがとう」

「え? ありがとう? え?」


 セバルトは、ゆっくりと頭を上げると、戸惑うメリエをまっすぐに見すえる。感極まったような表情で。


「凄く、嬉しいです。英雄のしたことを覚えていてくれて。英雄を目指したいと言ってくれて」

「え? なんで? なんで? どうしてあなたが……なんで、そんな顔を。みんな、笑ったのに。だから言わないでおこうと思ってたのに」

「笑いません。笑うわけがありません。世界中の人が笑ったとしても、僕だけはあなたの夢を笑ったりは、しない」


 知る人の誰もいない未来。

 気持ちを切り替え、新たな環境に適応して生きていこうとしていたし、それはセバルトにとっては難しいことではなかった。


 だが、だからといって、真に心の底から完全に割り切れたわけではない。心の底では、空しさや寂しさもあった。英雄の、自分のこともすでに過去のことになっていた。


 ――メリエは覚えていてくれた。


 自分と血を分けた家族の子孫と出会った。しかもその子は自分のことを――名前を覚えてくれていた。そして憧れてまでいる。

 そのことに、心の安らぎを感じたのだ。

 ありがとうというわき上がるその気持ちから、自然に頭が下がっていたのだ。

 メリエは驚いたような、嬉しそうな表情で、セバルトに再度問いかける。もう一度その言葉を聞きたいかのように。


「ほ、本当に?」

「ええ。絶対に」


 セバルトはメリエの手を取り、力強く握りしめる。自分の言葉が真実だと証明するように。

 メリエも頬をゆるめ、手を握り返す――その瞬間だった。


 洞窟の外から激しく茂みを揺らす音がした。

 セバルト達が急いで様子を見に行くと、そこには――。


「デーモン!」


 洞窟に戻ってきたような雰囲気の二匹のレッサーデーモンがいた。

 レッサーデーモンは赤銅色の肌に小さな翼と鋭い爪を持った悪魔の魔物である。


「レッサーデーモン? デーモンなんてこの辺では全然見ないのに」

「こいつが――件の魔物の可能性が高そうですね。気を引き締めて行きましょう」


 メリエは無言で頷く。

 そして二人で一体ずつ、相手をすることにした。


 セバルトがうけもった方のレッサーデーモンが氷の魔法を唱え、氷柱の矢を撃ってくる。セバルトは水の魔法を用いて弾力性のある水の盾を一瞬にして作り出し、それらの攻撃を難なく受け止め――られなかった。水の盾は一発で砕け散ったうえに氷柱も完全に停止せず、身を翻してなんとか回避する。


 この場にはメリエがいる。

 ということは、自分でかけた呪いが発動条件を満たし、セバルトの力は大幅に抑制されている。

 やはり危険な魔物が出てくると、思わず倒そうとしてしまう習性が抜けていなかったが、力を制限しておいたおかげで力を見せずに済んで助かったと、セバルトは用心しておいたことに満足する。


(でも、力を封印したのは自分とはいえ魔力がレッサーデーモンとトントンとは、調子が狂うなあ。ちょっと張り切って封じ過ぎちゃったかなあ。どのくらいのものか、きっちり体で把握してないっていうのは不便なものだ)


 さらにレッサーデーモンが今度は魔力の弾を破壊力として放ってくるが、それについては、予備動作で狙いを見切っていたので、なんなく盾で防ぐのではなく逸らして対処する。

 同時に、その盾を破裂させて飛び散った水球を弾丸としレッサーデーモンを打ち据える。狙いは、鎖骨のあたり。そこが急所になっている。


 一発目でセバルトを侮っていたレッサーデーモンはカウンターに対処できず、急所にうたれて気を失った。これでも即死しないのかと思いつつ、すでに駆け始めていたセバルトは、起き上がる前に急所に剣を深々と突き刺す。だめ押しをすると、レッサーデーモンは倒れた。


「よしっ、勝った!」


 同時にメリエが歓喜の叫び声をあげる。メリエの方も、鋭い剣技でレッサーデーモンを倒したようだ。


「これで終わ――」

「いえ、まだです。……姿をあらわしなさい、オーガデーモン」


 セバルトは茂みの奥に呼びかける。歓喜の声をあげたメリエが虚を突かれたように、セバルトの視線を追う。

 茂みの裏から、灰色のデーモンが笑いながら出てきた。

 太い腕と鋭い爪を持つ、巨体の悪魔。それでいて、デーモンらしい魔力の高さも併せ持つ強力な魔物――オーガデーモンだ。

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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