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英雄の資質 武力

 セバルトには年の二つ離れた姉がいた。

 仲の良い姉弟だとよく言われていて、セバルトが魔王討伐の旅に出る時、一番心配してくれて、また、一番応援してくれたのは彼女だった。


 もう二度と会えない覚悟で旅に出て、実際に未来に来てしまったために、もう二度と会えないはずの姉。


 その姉の顔が突然目の前にあらわれたのだ。驚きで言葉を失ってしまうのも当然のことだった。

 だがもちろん、姉がいるはずがないことは頭ではわかっている。

 他人の空似だとセバルトは自分に言い聞かせ、ようやく気を落ち着かせてメリエに向き合った。

 だが、例の姉そっくりの少女は、どうもご立腹のようだった。


「セバルト。確かにあたしの方が年下で、あなたの方が年上に見えるけど、この冒険者ギルドじゃ私の方が先輩なの。それにイーニーから、あなたにギルドの仕組みとか、この辺の地理とか、必要なことを教えてあげてって言われてるの。だからちゃんと話を聞く!」

「あ、そうなんですか。僕に教えて……。山の調査も一緒にやるということですね」


 セバルトはイーニーとメリエの会話も聞こえてはいたが、耳から耳へ抜けていたので、今初めてはっきり把握した。


「そーゆーこと。やりながら色々教えてあげる。しっかりついて来なさい」

「それはありがとございます、助かります。遅れましたが僕はセバルト・リーツと言います。どうぞよろしくお願いしますね」

 セバルトは少し動揺を残しつつ、メリエと握手を交わした。




 メリエ・ゼクスレイ。

 金髪のツインテールを揺らしながら、セバルトを先導している少女の名前だ。

 短いネクタイをつけたブラウスにズボンという格好で、腰には直剣を帯びている。背筋を真っ直ぐとのばし重心をぶれさせず堂々と歩いている姿は、なかなか剣士として様になっている。


 セバルトはその横顔をまた見つめていた。

 勝ち気な印象を与える目と結ばれた口。

 しかし表情を崩した時には優しげな雰囲気が漂うその感じは、まさに姉の年若い頃の生き写しにしかみえない。


 一度目の魔王討伐の旅に出かけると言い出した時の姉そのもののようだ。

 二度目の旅に発つ時に見た姉はもう少し大人っぽくなっていたな。

 一度目の時が17歳で、二度目は22歳か。

 この子も17歳くらいなのだろうか、などと思いつつ、セバルトはエイリアの街の北にある山へとメリエとともに向かった。


「来た、構えて」


 山に入ると、早速魔物が現れた。


 現れたのはコボルト三体。中型の獣鬼だ。

 メリエは剣を抜くと、素早くコボルトに駆け寄って行きその体を切り裂く。セバルトも短剣を抜いて、コボルトの一体を標的に、静かに正確に心臓を貫いた。その間に、メリエはもう一体のコボルトも倒していた。


 悪くない太刀筋だ。反射神経もいい。ただ、少し力強さやスピードにはかけるところがあるようだ。とはいえ、この程度の魔物ではそれは問題にならないだろう。


「ふーん、一応討伐依頼をやろうというだけあってそれなりに戦えるみたいね。なかなかいい動きじゃない」


 メリエは剣をおさめながら、セバルトを褒める。セバルトと同様、メリエもセバルトの動きを見定めていたらしい。 


「ありがとうございます。メリエさんも、いい動きでしたよ。動きに淀みがなく、迷いがない。何度も繰り返し鍛練を積んでいることが分かりました。今の型、特に一人目を倒してからの、流れるように二人目の攻撃をかわして切りつける一連の動作、相当鋭かったです」


 セバルトの言葉を聞くと、メリエは目を瞬かせ丸くした。


「あ、りがとう。……って、どうして新人のあなたがあたしのことを評価してるの。逆でしょ、逆」


 ちょっと声を大きくするメリエだが、その表情は緩んでいた。

 メリエは実際、驚いていた。確かに最近特に力を抜いて練習しているのは、複数の魔物相手にした時のために、一太刀入れた後の次の動きへの繋ぎだった。その時に体をどう動かすか、剣をどう動かすか、握りはどうするか、そういった事を集中的に練習していたのだ。


 それはもちろん、最近魔物の数が増えてきた中でエイリアを守るために必要な技術は何かということを考えてのことだ。

 だがそのことをメリエは誰にも言っていない。だから、そんなことに気づいた人もいなかったのだが――この飄々とした新人は一瞬で見抜いた。


 この新人、ひょっとしてかなりの目利きなのかもしれない。そう一目置いたメリエは、誰も気付かなかった自分の努力を認められて胸が満たされていくような気分に浸ったが――首を振る。


「違う違う! 先輩なんだから。褒めるほうはあたし。セバルト、そんな風にご機嫌とろうとしてる場合じゃないわよ。まだ調査は始まったばかりなんだから、気を引き締めていくからね!」

「ええ、お願いします」


 きりっとした表情を作ったメリエにセバルトは同意し、二人は再び山歩きを続けていく。


(それにしても、さっきの戦い――)

 セバルトは前を歩くメリエの背をじっと見つめる。


(かなり強力な体の内に眠っているマナをメリエから感じた。その割にはたいしたことのない動きだったから、今は全然有効に使えていないようだけど、あれを解放できれば――このメリエは最高クラスの武力を持った戦士になれるかもしれない)

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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