魔法試験 2
「な、なんなんだお前!? さっきのは!」
「ロムス君、あんな魔法使えたの!?」
試験終了後、ほんの少し前までロムスを馬鹿にしていた二人の生徒は、驚きに充ち満ちた声を上げてロムスに迫っていた。
「前まではできなかったけど、勉強したんだ。成果が出せてよかった」
ようやくロムスに実感がわいてきた。自分の魔法が教師や同級生から認められたことでこの上なく晴れやかな笑顔がこぼれる。
現代の魔法は、意味のある部分が短いマナで構成されている。一方でロムスの魔力は大きく、その短さに収まりきっていなかった。また無意味で余分な部分もあり、そこが強い魔力に反応し本来の効果を阻害していた。正しいマナを知ったことで、その邪魔がなくなったこれが、本来のロムスの力だった。
そんな笑顔に、二人の生徒は驚き困惑する表情を浮かべるしかなかった。
「そうなのか……なんていうか、あー、その、ありがとうな、ロムス。まじで危ないところだった。それと、今まで、その、悪かったな」
男子生徒はためらいつつも、小さく頭を下げた。
女子生徒も「ごめんね」と謝る。
ロムスはもう今は全然気になっていない。もちろん、言われたときは悔しかったけど、今はとにかく家庭教師でやったことの成果が出た満足感だけしかなかった。だから謝られても「いいよ、そう言ってもらえただけで十分だから。もう気にしないで」とさらりと言えた。
すると、女子生徒が身を乗り出す。
「本当に凄いよね、ロムス君。先生も『すごいじゃないか、ロムス。この前とまるで別人みたいだ。一体どうしたんだ? いや、それよりもよくやった。よくクラスメートを助けたな。俺も生徒を傷つけずにすんだ』なんて言ってたしね。実際、先生が怪我させてたら大事だったよねー」
「ああ、本当本当。お前って凄かったんだなロムス、まじびびったわ」
男子生徒も同じように身を乗り出し、ロムスを讃える。
すると、他の生徒達もそこに集まってきた。
「お前らあんだけテストの前にロムスにワーワー言ってたのに、終わった途端調子良すぎないか?」
「そーよそーよ。もっと靴を舐めるくらいのことをするべきよ」
「う……」
「うぐ……」
クラスメイト達に詰め寄られ、二人の生徒はぴたーっと土下座をした。
「すいませんっしたー!」
大きな声の見事な謝りっぷりだった。
級友に囲まれ睨まれながら、地面に額をこすりつけるというのはかなりの針のむしろだろう。
たしかに怒っていたし悔しかったが、この状況は心中察してあまりあるし、いい謝りっぷりだった。ロムスはそこまでされたら何も言えない。というかむしろ困ってしまう。
「いやいや、そこまでしなくていいよ!」
二人を責めていた他のクラスメイト達もロムスに頭を下げる。
「俺たちも悪かった。これまでお前のこと見くびってたよ」
「でも、実は凄いってもうわかったよ。咄嗟に動いて助けるなんて、ロムスえらいぞ」
「なんでお前は上から目線なんだ」
などとクラスメイト達が言うのを、もう気にしなくていいと言いながら、なんともいえない熱いものを胸の中に感じていた。
それからもあれこれ話して、ワイワイと賑やかにロムスは囲まれるのだった。
これまで馬鹿にされ賢者の子のくせにと言われていたのが、自分の力を認められることがこんなにいいものだとは初めて知った。
でも、ロムスは思う。
本当にすごいのは、ここまで力をつけられるよう教えてくれたセバルトだ。
自分一人じゃ何もできなかった。それが、こんな風に魔法で褒められるなんて。
誰も知らないような凄い魔法の秘密を知ってて、それだけでも凄いのに、それを僕なんかに教えてくれて。普通なら自分だけの秘密にしたいと思うところなのに、僕ならそうしたと思うのに。
「どうやってそんなに凄い魔法使えるようになったんだ?」
尋ねられたのは、ちょうどロムスがそんなことを考えていた時だった。
だからロムスは、すぐさま答えた。
「家庭教師の先生に教わるようになったんだ。その人に、うまい力の使い方を教わった。それで強い魔法が使えるようになったんだよ」
「家庭教師……ってまじでか?」
ロムスは何度も頷く。
「すげえなあ。一気にこんなに使えるようになるなんて、うちのクラスの先生よりずっと上じゃないか?」
教師には聞こえないような声で生徒の一人が言う。
「そうなんだよ。すごいんだ本当に、先生は」
ロムスが身を乗り出して答えた。普段のロムスとは少し違うテンションの高さに、尋ねた生徒はうおうと身をひくが、しかしその先生が何者かが気になる様子で、他の生徒も尋ねる。
「すごいなー、私も教わりたい。というか天才すぎじゃない? その人。だって一ヶ月前のロムス君と別人だもん」
「本当に僕もそう思う。でも、先生はあんまりたくさんの人に教えるつもりは今はないみたい。色々都合があるって言ってた。何かまではわからないけど」
「えー! そうなの、残念。その先生、絶対凄いし格好いいよ。はぁ、いいなぁロムス君はそんなイケメンで頭いい人に毎週会えて。羨ましい。暇が出来たら私も教わりたいなー」
なぜかセバルトがイケメンということになっていた。想像だと際限なく美化できるのだ。
でもロムスはやりすぎだと思わない。
セバルトが一番賞賛を受けるにふさわしい人だとロムスは知っている。試験で満点と言われたのは、ロムスではあるけど、セバルトだ。
(ありがとうございます。セバルト先生)
心の中で礼を言いながら、ロムスはクラスメイトと楽しげに話を続けていく。