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将来魔神対元英雄

 空の旅は快適に続いた。

 ぴんと張られたオリハルコンの帆は陽光を受けても眩しく輝きすぎないのがいいところだとセバルトは知った。


 旅が始まってから六日、ついに目的地である【精霊の食卓】が見えた。

 山頂が平べったく、周囲は切り立った崖になっている巨大な岩の塊のような、テーブルマウンテンとも呼ばれる山だ。


 その形から、上へ登ることは容易ではなく、記録の上では少なくとも山頂へとたどり着いた人間はいない。


「先生、あれが目的地なんですね! 凄い変わった形の山ですね! きっと勉強になるものがありそうです」


 ロムスが目を輝かせている。

 空の旅だけでなく、秘境を見られるというのも、楽しみな体験だろう。


 それは長い間旅をして、色々な場所を見てきたセバルトでもいまだに変わらない感覚だ。

 だが、今のセバルトは、それだけを感じていたわけではなかった。


(黒いローブの男、接触してこなかったか)


 この空飛ぶ船を手に入れようとした時に、魔物を放って妨害しようとしてきた者。おそらく黒いローブの男だとセバルトは予想しているが、実際に船を動かすまでにいくらか間があったのに、襲撃してこなかった。


 当然、船を奪うか、セバルト達に攻撃するか、どっちかをしてくると思っていた。その時に返り討ちにして捕獲してやるチャンスだと。

 どこにいるかわからない敵を探すより、おびき寄せる方が効果的だと思ったのだが、予想外。


(魔獣がやられて諦めたのだろうか。仕掛けるなら空中に来る前だろうし。……もしかしたら、ちゃんと動くのを確認してから、帰還したあとで奪うつもりか?)


 そうなると、帰ってからも警戒を続けなければならない。

 終わった後に面倒な仕事が残っているのは憂鬱だなと思っていると、ワルヤアムルの声が響いた。


「よし、あと少しで着陸するぞ! 全員備えろ!」


 ともかく、終わってから考えることにして、今はこっちのことをやろうとセバルトが切り替えたその時だった。


「魔物が――空を飛んで来ますわ!」


 スピカの声が響く。

 セバルト達は背後に視線を投じる。


「なに、こいつら!」


 天翔る船を追うように飛んでくる、何十匹もの翼の生えた魔物達が空にいた。

 ワイバーン、グリフォン、飛龍、怪鳥。そんな魔物達が、船よりも高速で迫ってくる。


「なんでこんな時に来るんですの!」


(まさか、これもあの時と同じ――)


「とにかく迎撃だ!」


 セバルト達は甲板に散って、魔物を迎え撃つ体勢を作る。

 

 一番最初に近づいてきたのはグリフォンだった。

 船の後部に着地し、かぎ爪を振り回し暴れる。

 メリエがすかさず剣を抜き、かぎ爪を受け止めた。

 そのまま自分の体より大きなグリフォンを蹴っ飛ばし、飛ぶのではなく宙に浮いたグリフォンの胸を剣で突き刺す。


 次に襲ってきたのはワイバーン。

 炎を吐き出してくるが、ロムスは【アクア・スフィア】の魔法で炎を打ち消す。そこにスピカが、神雷杖を操り、雷を放ち遠距離からワイバーンを撃ち抜いた。


「いいですね、スピカさん! 使いこなしてます!」

「当然ですわ、道具の使用は得意ですの!」


 そうセバルトに答えて、さらにミニゴーレムも使って、やってくる魔物とスピカは戦っていく。


 とにかく周囲からわらわらと押し寄せてくる翼を持つ相手に、セバルト達は総出で船を傷つけられないよう撃退していく。

 そして、なんとか魔物の大半を倒したと同時に。


「よし、到着だ、着陸の衝撃に備えろ!」


 ワルヤアムルが声を上げた。

 セバルト達は、慌てて掴まれるものを探して、体を支える。


 ずうう……ん、と重たい音を立てて、天翔る船はテーブルマウンテンの台地の上に着陸した。



「やったな、セバルト。一時はどうなることかと思ったが、無事に着陸できた。さあ、何があるか確かめてやろうではないか」

「センセイ、まさかこんなところにまで来ることになるとは……竜湿原を出たときは思いも寄らなかったさ。人生ってのは不思議なもんだよなあ」


 ブランカとレカテイアが、テーブルマウンテンの先へとすすんでいく。

 セバルトも、先に視線を投じた。


 砂漠の中にぽつんとある巨大な岩山、精霊の食卓。

 その上は、起伏に富んだ滑らかな岩の表面のようになっていた。

 その起伏が巨大で、岩の丘や、岩の窪地が凸凹といくつも連なっている。遠目では平らに見えたところが、実はかなり歪な形をしていたのだ。


「歩くの大変そうねえ。ま、珍しい地形だし、苦にはならないけど」

「僕は結構苦しみそうです」


 メリエとロムスも進んで行く。

 あとはこの台地を隅々まで調べて、風の宝を見つければいい。


(それに、スピカの探すもの以外にも、この土地にはミスリルやオリハルコンのような魔法素材や、誰が作ったのかしらないが、マジックアイテムがあるらしいからな。ちょっとした宝探しだ)


 それらの情報は、スピカとワルヤアムルが持っていた。

 スピカは本命の宝以外にも、ここに宝があると調査して知っていたらしい。スピカの狙うものではないので、別にそっちはどうでもいいと言っていたが、スピカ以外には、そちらも魅力的だろう。


「まあ、俺はここに来られたことが一番だけど……こういう人里離れたところで一人静かにスローに生きるのも悪く……いやさすがに不便かな」


 雰囲気は好きなんだけどな~と岩の丘を眺めながら独りごちたセバルト――が眼光鋭く振り返った。


(この気配――。魔獣だけってことはないと思っていたけど)


「ワルヤアムル様」

「ん? どうしたセバルト」


 歩き出したワルヤアムルを呼び止め、セバルトは強気な笑みを見せた。


「少し遅れていきます。客が来たみたいなので。色々とこれまでやってくれた客が」

「……なるほど。わかった、お前なら任せた方がむしろ安心だな。先に行っておくぜ。うっかり崖から落ちるなよ」

「ご心配ありがとうございます」


 セバルトは後ろへと歩いて行く。

 窪地を一つ超えたところに、それはいた。


 灰色の飛龍の背から降り立った、黒いローブの男。


「魔神を気取るのは、そろそろ終わりにしてもらいましょうか」


 セバルトは、男に近づく。




 黒いローブの男は、フードの下の目を、少し大きくした。

 フードを外すと、赤色の瞳がセバルトを見つめる。


「よく……知ってますね。魔神の欠片のことを」

「少しばかり縁がありましてね。やはり、あなたが色々な人に魔神の欠片を渡していたのですね」

「……知っているなら、ちょうどいい。私の力は危険です。邪魔をしない方がいいですよ」

「悪いが、俺の力も相当に危険なんですよ」


 セバルトは魔力の一端を解放する。

 風が吹きすさび、ローブの男のフードが頭から外れた。


「なんで、俺たちを狙ったんですか? いや、天翔る船を」

「ここに来たかったから、それだけです」

「船がなくても来ているように思いますが」

「これは一か八かです。魔神の欠片の力で操り、乗ってきましたが、魔物を意のままに操るのは容易くありません。……単に力を与えて暴走させるだけなら簡単ですけど、抑えて操るのは。途中で我に返って振り落とされる危険もありました。だから、最後の手段なんです」

「結果的にはうまくいったと」


 男は頷く。


「どうしてそんなリスクをとってまで、ここに来たのですか」

「ここにある風の宝を手に入れるため」


 スピカが狙っているものと同じだ。

 いったい、何をするつもりなのか。


「風を起こして何を――」

「風を――マナの風を操り、世界に魔神の力をあまねく広げるのです」

「……何を考えているんですか。そんなことをすれば、魔物が増えるだけです」

「ええ。魔神の欠片で増幅された、魔の力を世界にどんどん貯めていく、高めていく。そして溜まったら回収して、再び世界にまく。そうしてどんどん魔を高めていく。それを繰り返していき、飽和すればその時――」

「魔神が復活する」

「そうです。かつて英雄に倒されたという魔神。全ての魔なる力の母」


 セバルトはため息をついた。

 魔族がやるならまだしも、人間が魔神を復活させてどうするんだ? 自分の危険が増すだけだ。


 理解不能という表情をセバルトの顔で察した黒いローブの男は、教師のような口調で解説を始めた。


「興味は湧きませんか?」

「興味?」

「そう。好奇心。面白いものをみたい。単純なその人間の心理。そこに危険があっても、穴があったら覗きたくなる。それが人間という者だと思うのです。私は――魔法学校で教師をしていました。研究も。そのフィールドワークの途中に魔神のことを偶然知り、その力に魅了されました」


 黒ローブは赤く塗られた唇を大きく歪め、杖を取り出した。

 杖の尖端には、魔神の欠片で作ったらしき、水晶玉がはめ込まれている。


「私は魔神の力を受け継いだ魔神候補、魔神の弟子なのですよ。師の復活を願うことは当然でしょう。欠片の力の実験のため、世界に広く巻くために、色々と広めていましたが、ここで秘宝を手に入れれば、そのような手間も必要なくなります。すぐに魔神を復活させる。その大いなる力をこの目で見るときが、楽しみです」


 黒ローブの目には狂気が宿っていた。

 周囲どころか、自分の破滅すら顧みない、好奇心と大いなる力への傾倒。

 一番厄介なタイプだとセバルトは舌打ちする。そろばん勘定で動く人間と違って、行動を制御したり、説得したりはそうそうできない。


「それじゃあ、やるしかありませんね」


 セバルトは力を解放する。

 武器は――なくても構わない。


 黒ローブは笑い、杖を振りかざした。


「その通りです! 魔神の力を見せて差し上げましょう!」


 杖の先が煌めき、魔力が結晶化した黒色の刃が次々とセバルトの方へ飛んで来た。

 セバルトは素早く滑らかな動きで、それを紙一重でかわしていく。


「やるじゃないですか、これまで色々妨害してくれたのは……なるほど、あなたですね! だから色々ご存じだったと!」

「そういうこと!」


 再び黒い魔力が結晶となり襲いかかってくる。しかも、今度は巨大な塊が高速で飛んでくる。

 セバルトはそれを、かわさない。


「はぁっ!」


 セバルトは、まっすぐにパンチを繰り出す。

 武器も何もない、だが本気のストレートを一発。

 それで魔力の塊を破壊するには十分だった。


 崩れて消える黒い塊の間を、セバルトは黒ローブの元へ歩いて行く。

 黒ローブが汗を一筋流した。


「ば、な、いったい何が!?」

「何も特別なことはありません。ただのパンチです。魔神の力といえども、僕のパンチには無傷ではいられませんよ」

「そんなバカな!? ただのパンチだなんて!?」


 うろたえながら、黒いローブは杖を振りかざす。

 今度は炎が雷をまとって襲いかかってくるが、セバルトは――【パープル・ストライク】――全力の雷が走り、黒ローブの魔法を打ち消し、さらに男をはじき飛ばした。


「が……あ!」


 電撃に撃たれ体を痙攣させる黒ローブの元へ行ったセバルトは、服を脱がせ、杖を取り上げ、魔神の欠片を全て奪い去り、ローブを切り裂き紐にして、男をぐるぐる巻きに拘束した。 

 そして魔神の欠片は破壊する。


「あ……あ、私の、欠片が……お前は……なんで、そんな力を……まるで、魔神を倒した英雄のような……」


 黒ローブがかすれた声で言う。

 セバルトはにやりと笑ってとぼけた。


「さあ、どうしてでしょう」

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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