隠れた狙い
「先日捕獲したゴールデングースは青のマナを選択的に放ち、またそれを感知する術を持っていました。突然ロムス君が魔法をうまく使えたたのは、一つのマナにずっと触れることで、マナを分類する感覚が養われ、体が効率的に運用する方法を覚えたのです」
「そうか、今日教えてもらう以前に体で無意識に覚えてたんですね」
「ええ。しかし意識的にやれば、もっと多くのことができるようになります。先ほど僕がやったように。そのためには、マナを区別して扱えるようになる訓練です」
最も基本的な点では、青色のマナは水の魔法を使う際に多く配列に含まれ、緑色のマナは癒やしの魔法を使うために多く必要などという法則がある。そういった関係を明らかにしていきながら、マナを一粒ずつ扱う方法を身につけていく。
ロムスがやっているのを、セバルトは基本的には見守りつつ、適宜アドバイスをしていく。感覚的な魔力の扱い方や、どのマナの組み合わせで何ができるかなど。
ロムスは授業の間ずっと、驚いたり感心したり、生き生きとした表情を見せていた。
そして、授業時間の間みっちりとやり、その日の講義は無事に終わったのだった。
「ごめんなさい、先生。初回ですし、本当は母が会うべきなんでしょうけど……」
授業が終わった後、今日のまとめなどをしているとき、ロムスがそう言った。
「いや、大丈夫ですよ。もう聞いていますし」
母親が賢者と呼ばれる魔法使いであるから、魔法関連のものには事欠かない。それなら魔法の訓練はロムスの家が一番やりやすいだろうということで、ロムスの家で授業を行った。
そうなると当然、家の人の許可をとらなければならないのだが、それについてはロムスが母親と話して説得したらしい。父親は過去に亡くなっていて、母一人子一人の暮らしということらしく、母親の了承がとれればそれで話は済んだ。
しかし……ロムスの母は自分と一度も会わずに決めてしまっていいのだろうか、ともう終わった後ながらセバルトの方が心配してしまう。家に赤の他人を入れるというのに、ずいぶんお人好しというか、おおらかというか。それともロムスがそれほど一生懸命説得したのかな。
「たしか首都へ行っているんですよね」
「はい。前々から決まっていて、動かせないということなので。会う暇もなく発ってしまって、ごめんなさい」
「お忙しいのでしたら仕方ありませんよ。むしろ会う暇もなかったのにこうして家に入れてもらえて感謝しなければ。お互いに。あまり人に教えた経験はないのでどれだけできるかはわかりませんが、一緒に頑張って行きましょう」
「はい! 僕絶対に頑張りますから! よろしくお願いします! 今度学校で試験がある時には、きっと教えてもらった成果も出してみせますね」
ロムスは目を輝かせ、声を弾ませた。
こうして英雄の七分の一を育てる授業をセバルトは始めた。
授業は順調に進んでいき、ロムスは数回目でもう目に見えて魔法が上達していた。
そんなある日、食料の買い出しに出ている時にセバルトはロムスの話をふと思い出した。
(そういえば今日はロムスが学校の試験があると言っていた日だ。うまくできているか気になるな)
ちゃんと練習通りにできれば問題はないと思うが――一度気になると、どうしても気になって仕方がなくなる。
「こうなったら行くしかない」
すでに魔法学校の場所は知っている。
先生として生徒のできをチェックせねばと、先日と同じような格好をして、すわ魔法学校へと急いで向かい再びの忍び込みを敢行した。
と、いきなり意外な展開があった。
セバルトが学校につくと、ロムスたち魔法学校の生徒と教師は学校を出て、いずこかへと向かい始めたのだ。
学校内で試験をやるのかとセバルトは思ったがどうやら違うらしい。
どこに行くのかと後ろからセバルトはついていく。