集結
「私達も行きたい! 一緒に乗せて、先生!」
ドアの外にいたのは、メリエだった。
そしてもう一人。
「先生、僕も空飛ぶ船に、一度乗ってみたいです。お願い、できませんか」
ロムスもいて、セバルトに天翔る船に乗せてくれるよう頼んできたのだった。
ザーラが口に手を当てて驚いた顔をする。
セバルトは二人に交互に目を向けた。
「知っていたのですね」
「そりゃ~ロムス君の家でやってることだもの。噂を聞きつけ、即やって来たというわけよ。空を飛ぶなんてこと、見過ごすわけにはいかないわ。英雄を目指す者として」
「それもう英雄関係なくただ行きたいだけですよね」
へっへっへ、とメリエは誤魔化す笑みを浮かべる。
ロムスを見ると、お願いしますっ、というような目をしている。
セバルトはワルヤアムルの方を見た。
乗りたいというなら乗せてやりたいが、定員は大丈夫なのだろうかと。
「十人くらいまでなら問題ない。出力的にはな」
「そうですか。じゃあ、お二人も乗せても飛べますね」
二人の顔がぱっと明るくなる。
ワルヤアムルは頷いた。
「そういうこった。今更ちょっとくらい増えようが減ろうがたいした違いはねえ。乗りたきゃ乗れよ、お二人さん」
「やたっ、ありがとうございます、精霊様!」
「ありがとうございます! 楽しみです!」
諸手を挙げて喜ぶメリエとロムス。
こうして、二人も天翔る船に乗り込むこととなった。
ミスリルエンジンができた翌々日。
船の甲板には、セバルト、スピカ、ワルヤアムル、レカテイア、メリエ、ロムス、ブランカの七人が出発の時を待っていた。
「わー、ブランカ、元気?」
「我はいつでも快調だ。お主も変わらぬな」
メリエがブランカの首をもしゃもしゃと抱きつこうとすると、さっとブランカが避ける。さらに狙うとさらにさっさっと回避する。
「楽しそうですね」
「結構大所帯になりましたわね」
セバルトと話すスピカが目をぱちくりさせた。
3人だったのが、7人に増えたのだから、驚くのも無理はない。
ブランカもセバルトが準備をしている時に出会い、というか元々、ブランカが何か知ってないかとちょっとだけ聞いたことがあったのだが、それで、自分も行きたいと言い出したのだ。
人数には余裕があったので、ブランカも行くこととなり、空の旅のメンバーが決定したわけである。
「ま、多くて困ることはないさ。エンジンの性能も思った以上になったし。最近の技術ってのはなかなか見所あるぜ」
ミスリルエンジンを過去のものより性能を上げることができたため、めざす山である精霊の食卓までかかる時間は半減した。
なので、食料的には人数が増えてもなんとかなるわけだ。
少しだけ追加で念のために作りはしたが、十分なんとかなるだろう。
「それじゃあ、ワルヤアムル様」
「ああ。皆、出発するぞ!」
ワルヤアムルの言葉に、乗員が色めき立った。
甲板の端っこに行って、浮き上がる瞬間を見逃すまいとする。
この前と同じようにワルヤアムルは黒い立方体に手をかざし、力を込める。
――――かすかな浮遊感がセバルトの体を襲った。
(これは!)
ワルヤアムルの目を見ると、にやりと笑顔で返答した。
船の周囲の景色に目をやる。
船を囲む崖が、ゆっくりと下に移動していく。
船の端から、下を見る。
「浮かんでる!」
誰の言葉かはわからないが、皆が同じようなことを口にしていた。
静かに羽が舞うように、天翔る船は地上を旅だった。
眼下を大きく薄く広がる雲がゆっくりとすれ違う。
その薄い雲の隙間から、豆粒のような建物が、建物の集まった町が、ゆっくりと流れすぎていく。
目を上に向けると、痛いほど青い空が広がっている。
空が近く感じられる。実際、山より高く飛んでいるのだ。
「凄い眺め~。こんなものが見られるなんて、生きててよかった~」
「あはは、大げさ……でもありませんね。本当にこんな景色を見られるとは貴重な体験です」
船の後ろの方で、セバルトがメリエに言った。
出発してから二日が経過した。
空の旅は順調で、これまでのところトラブルもなにも起きず、目的地に向かっている。
速度はあまり速くはないが、揺れもほとんどなく、快適な空の旅というところだ。
乗組員は皆、思い思いに過ごしている。
多くは今のセバルトのように、景色を眺めているわけだが。
セバルトは角度を変えて、ぐるっと船の外周を周りながら景色を眺める。
王都の城も空から見えるだろうか、などと思っていると、同じくぐるりとまわっているスピカとぶつかりそうになった。
「熱心に見ていますね」
「はい、こんな光景ですもの。それに、早く宝も欲しいですし」
「風の宝、それがあれば故郷を救えると。……そういえば、まだ聞いていませんでしたが、故郷にいったい何が?」
スピカは自分の故郷の方角を探すように周囲を見渡し、空の下へと視線を投じた。
物憂げな瞳で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「シューレインという村ですの。ネウシシトーの西の端にある小さな村」
セバルトも知らない場所だった。
「裕福ではありませんが、のどかでいいところでしたわ。でも、ある時から、村が竜巻に襲われるようになったのです」
「竜巻に? なぜ突然?」
「最初はわかりませんでしたわ。でも、そういう現象があるそうなのです。地の奥深くに、風の悪魔がいて、数百年に一度、荒れ狂うと」
風の悪魔――それが本当の魔物か、それとも自然現象の比喩かは微妙なところだとセバルトは思った。
前者ならばまだしも後者では対応が難しい。
「村は荒れ果て、人も減りましたわ。なんとかしなければと、情報と宝を求めて、私は宝探しを始めたのです。そして見つけました、風の宝というものを」
「それを使えば、竜巻を収められるんですね」
「そういうことですわ。だから、なんとしても手に入れなければ……! この宝だけは……!」
スピカは、力強く空の先を見つめる。