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ばれました

「ま、魔獣ですわ!」

「しかも後ろから――守護ってわけじゃなさそうですね」

「ああ。こんなものは配置されてないはずだ」


 話している間にも虎頭に亀の甲羅を持った魔獣は走り寄ってきて、吹雪を吐き出した。

 なかなか強力な氷の魔術。


 だがそれを目にした瞬間、スピカが前に出て、盾をかざした。

 盾に当たった冷気と氷の礫は雲散霧消していく。


「凄い、完全に防いでますわ」

「やっぱり、ちゃんと使いこなしていますね。普段からゴーレムなど作ったり操ったりしているだけのことはあります」


 セバルトは一歩前に出て、盾を支える。


「ですが、もっと流れを意識すると、さらに有効に使えると思います。前に押し出す意識をもってください」

「前に押し出す?」


 スピカは、腕に力を入れる――といっても、物理的にというではなく、魔力の話だが――。

 すると、雲散霧消していた冷気が、消えるのではなく反転を始めた。


 魔物は冷気に凍え、肌を礫やつららで引き裂かれる。

 だが、それで終わりではなかった。さらに後ろから、同じ種の魔物が何匹もやって来ている。


「これは、結構数が多そうですね……」

「ご心配なく。後ろは僕がやります」


 言うやセバルトは、華麗なステップで後ろにいった。

 残り数体の魔獣に対し、黒い水を投げつける――と、それは弾け飛び、超高速の水の弾丸となり、魔物達を討っていく。


「そこまで脅威の相手ではありませんでしたね」

「うむ。じゃあ、天翔る船を動かし行くぞ、今度こそ!」

「うおおぉぉ~ん!」

「またですわ!?」


 再び後方より雄叫びが聞こえた。

 突然こんな魔物が来るなど聞いていないという話だが、しかしそうも言っていられない。来るからには相手をしなければ。


「そうだ! ちょうどいいから授業を続けましょう」

「授業? しかも続けるって」

「盾の使いかたは覚えましたよね。ですから、別の道具についても使いこなすのです。これとか、これとか」


 セバルトが取り出したのは、自分がかつて使っていた英雄の装備。

 その中の一つ、神雷の杖をスピカに渡す。


「これ……凄い力を感じますわ」

「それは、杖自体が雷となって敵を討つ杖です。ゴーレムを使っていたあなたなら、その感覚で、もっと力を振り絞るようにすれば扱えると思います」

「わか……くぅっ……」


 手にした瞬間、まるで鋼の塊を渡されたみたいに、腰くだけになって、スピカは倒れ込みそうになった。

 だがなんとか足を開いて、その場に踏ん張る。


「はぁ……す、ごい。なんですの、これ。体中から力を吸われるみたいですわ」

「多くのエネルギーが吸われてしまうんです。ですが、魔力の流れを整えてやれば……自分の体の一部のようにしてやれば、それが軽減できます。大幅に。深呼吸をして~吸って~吐いて~」


 スピカが深呼吸をする。

 少しずつ腕が持ち上がっていく。

 が、その時、はっきりと見える位置まで魔獣が近づいてきた。


「おいお二人さんよお、もう化物が到着だぜ? ちょっとばかしのんきすぎないか?」

「セバルトさん!」

「慌てない慌てない。呼吸を整えて~」


 だがあくまで、道具の扱いに集中させる。

 スピカもそれの重要さがわかっているようで、ゆっくりと深呼吸をする。

 さらに魔獣が近づく。

 スピカの腕の中で、杖が光を放つ。


「軽く――」

「なった! いっくぞー、でぇぇぇーい!」


 スピカが叫ぶと同時に、手の中の杖が完全に稲光と姿を変えた。

 それを振りかぶって投げつけると、これまでよりも一際大きな虎の魔獣の肩に向かって飛んでいく。


 魔獣はギリギリ回避するが、雷に撃たれショックを受けたように痙攣する。

 雷は彼方へと飛んでいく――が、方向を変えてUターンした。

 そして再び魔獣に狙いを定め、尖端が刃のようになっている尾を切断した。


 魔獣は暴れ、杖を落とそうと攻撃をしかける。だが雷と化した杖は、魔獣の攻撃を回避し、逆に素早く魔獣にぶつかり、ダメージを蓄積させ、ついに動きの鈍った魔獣の心の臓を貫いた。


「よっしゃー!」


 魔獣は倒れ、スピカがぐっとガッツポーズをする。

 セバルトは、小さく拍手をした。


「お見事です、見事に使いこなしましたね。さすが、道具の急所を知っています」


 スピカは誇らしげに、戻ってきた杖を手に取った。

 これなら、任せることはできるだろう。

 だが、ワルヤアムルは怪訝な目でスピカを見つめていた。


「なあ、お前しゃべり方なんか変わってない?」

「え」


 スピカが固まった。


「そういえばたしかに。なんだかいつもより激しくというかなんというか、おりゃーとかよっしゃーとか言ってたような」

「あ、あのそれはその、違うのです、そうじゃなくて……」


 ワルヤアムルとセバルトが、じいっと言い訳するスピカを見つめる。

 スピカは小さくなって、頷いた。


「昔は、さっきみたいな話し方をしていまして……その、故郷では……色々な場所に行くに当たって、都会の人っぽく振る舞おうと……その」


 両手の指先をくるくると弄びながら、スピカが言う。

 ワルヤアムルはあっけなく追撃する。


「なんでだ? 別にいいじゃないか」

「だって! 田舎者だと舐められないように……ですわ。都会の上品な人だと思わせたかったんだよ……でございます」

「くくっ……ははは」


 セバルトは思わず吹き出す。

 ワルヤアムルも同様で、笑いを堪えられないという風にからからと笑った。


「ああっ、だから嫌でしたのに。もー!」


 スピカの叫びが地下通路に木霊した。



「急ぎましょう」


 地下通路をセバルト達は進んで行く。

 時間をかけて再び魔物に襲われるのは避けたいし、他のアクシデントが起きるのも御免被りたい。


 道中、セバルトは考えていた。

 襲ってきた魔獣の正体に。


(あの時――感じたのは、やはりスタンスが使役していた魔物と同じ気配)


 商人スタンス――魔人の欠片を利用して悪徳商売を行おうとしていた者だが、彼が扱っていた、魔人の欠片で強化した魔物と、先ほど襲ってきた魔物に似た魔力をセバルトは感じた。


(今回もあれが絡んでいる? たしか竜人の長老も動きがあると言っていた。本人に。そして俺たちがここに入ったことで、魔物が襲ってくる)


 セバルトはしばし考える。


(もしかして、スピカが話していた黒いローブの男――)


「ついたぞ! これが天翔る船だ!」


 セバルトが考えたのと、ワルヤアムルが船を指さしたのは同時だった。

 そちらに目を向けると、思考は一瞬にして切り替わる。


 崖と崖の隙間に船があった。

 帆船のような形をしていて、帆には布のマストの代わりに、静かに輝く青銀色の薄い金属板のようなものが取り付けられている。


「これが飛ぶんですの?」

「ああ。帆を見な」

「あれがまさか、オリハルコンですか」

「そういうこと。風を受けて海を走る船のように、魔力を受けて空を走るんだ」


 スピカは感動した様子で、船を眺めている。

 チラチラとワルヤアムルに目を向ける。


「あっはっは、何も私に許可を取る必要もないわ。もっと近づいて、乗っていいぞ」

「ありがとうございます、ワルヤアムル様!」


 スピカはたたっと駆け出し、船へと向かって行った。

 セバルトも船をもっと見たいという観光客気分が湧いてくる。


(黒いローブの男は気がかりだが……。でも今どこにいるかがわかるわけでもないし、わかっている船から片付けるべきか)


 と、半分自分がやりたいことの正当化のような理由をつけて、船に乗り込むことにした。


 三人が天翔る船の甲板に乗り込んだ。

 そこは、本当の船とそっくりで、船室なども用意されている。

 舵に似たものはあるが、それは雰囲気作りで、実際はオリハルコンに魔力の流れを与えることで、進む向きを決めるということだった。


「詳しいですね、ワルヤアムル様は相当乗ったことが?」

「私が作ったんだ。あの塔を作った人間達と一緒にな」

「え? ワルヤアムル様が!?」


 ワルヤアムルは頷いた。

 金属の精霊――となれば、金属加工はお手の物だろう。それは、どうやら金属のみならず……当然、金属だけで作られた道具もあれば、他の材料との複合で作られるものもあるのだから、それ以外のものの加工にも優れる。

 セバルトは今知ったが、ワルヤアムルは道具製作に優れた精霊でもあったというわけだった。


「道理で詳しいわけですね」

「そういうわけさ。それじゃあ、どうする? 行ってみるか?」

「はい! 行きましょう!」

「ここまで来たら、行くしかありませんね」


 スピカとセバルトは同時に頷く。

 空の旅ができるというのに、これ以上引っ張ることなどできようか、いや、できない。


「じゃあ、この箱を――」


 船の中央部、メインマストのすぐ側にある、木箱の蓋を外すと、黒い立方体が現れた。ワルヤアムルはそれを指さす。


「これをマジックアイテムを使う要領で扱えば、船を動かすことができる。スピカ、さっきの杖を飛ばして動かしたのと同じように、多分、できるぞ」

「じゃあ、やってみるぞー!」


 ふん、と拳を握り気合いを入れるスピカ。

 また興奮して素が出ている、と思いつつセバルトは見守る。


 スピカは黒い立方体に手をかざす。

 目を閉じ、集中する。


 そして――。


「あれ?」


 何も起こらなかった。


「私、失敗したのでしょうか? もう一度」


 チャレンジを重ねるが、しかし天翔る船はうんともすんとも言わない。


「僕がやってみます」


 セバルトが交替する。

 ――が、やはり何も起きない。


「やれやれ。制作者がやらなければダメか」


 ワルヤアムルが首を振りながら、所定の場所につく。

 そして手をかざす。

 ――何も起きない。


 ワルヤアムルが肩を揺らして笑った。


「………………へへっ、どうする?」

「いや本当にどうしましょう」




「ちっ、完全にいかれてやがる!」


 船の内部、船室から行ける動力室から、ワルヤアムルの声が響いた。

 セバルトとスピカは、ドアの前で顔を見合わせため息をつく。


 なぜか船が動かないため、原因を調べに船の内部に入ってきて、ワルヤアムルが色々調べていたのだが、どうも思わしくないらしい。


 頭に綿埃を乗せてワルヤアムルが部屋から出てきた。


「だめだったみたいですね」

「ああ。完璧に。オリハルコンに魔力を供給する動力が完全に死んでる。さすがに何百年も経つとダメだってことだ。あーらら」

「じゃあ、これは動かないんですか?」


 スピカが心配そうに尋ねた。

 ワルヤアムルは腕組みをしながら、


「今のままじゃ、動かないね。動力が死んでるってことは、そこを直せば動くってことだ」

「直せるんですか」

「……難しいな。結構ボロボロだったぜ、ありゃ」

「そんな……」


 しゅんとするスピカ。だがワルヤアムルは、その頭をぐりぐりと撫でた。


「直せないなら、作りゃいい。ボッロボロのを直すより、一から作る方が簡単だ。――ミスリルエンジンを作ってやろうじゃないか。久々に腕が鳴るぜ」


 ワルヤアムルは、にぃっと口角を持ち上げた。


「さ、お前らにも働いてもらうぞ。空に行くためにな」

新作を書きました!

《ダンジョン・ロイヤル》という作品で、

とある出来事からダンジョンを統べる力を得た男が、ダンジョンを広げて施設を充実させたり、人間からモンスターまで色々な住人が住み着いたり、ダンジョン同士の戦いが始まったり――という話です。

使い勝手など試してみたいことや、コンテストなどもあり、今回の新作は『カクヨム』という小説投稿サイトで連載しているので、よろしければカクヨムに見にいってやってくださいませ~。


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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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