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魔神再臨の兆し


 いよいよ魔神のかけらを人々に渡していた奴が来ることになったらしい。

 これは、さらに英雄候補の生徒達に頑張ってもらわなければ、そして戦力を増強しなければならないとセバルトも思う。

 そのためには、試練の塔をクリアする必要がある。すでに入り口は開放しているので、参加者には頑張って欲しい。

 ついでに、ゴーレムを作ってしまってそれにまかせるという選択もある。


 そのためにセバルトは、ミスリルを堀りに、ワルヤアムルが召還された崖に再びやってきていた。


「ここに、ミスリル鉱石があるんですね」

「ああ。だからこそ、私の聖地の一つがここだったんだ。最高の金属がなきゃ、それにはふさわしくはないからな」


 なるほど、たしかに一理ある。

 ということで、セバルトは掘りに来た。


 ミスリル鉱石でライバルに差をつけろ! ということである。


「ところで、どの辺にあるのでしょうか」

「まあ焦るな。少し待ちな」


 ワルヤアムルは悠然と崖に挟まれ囲まれた地をぐるりと歩いていく。

 時折、立ち止まり、つま先で地面を叩くような仕草を見せると、再び歩いていく。そうして、外周から徐々に描く円を狭めていって、半分くらいまで、歩く円の直径が狭まったときだった。


 ワルヤアムルは足を止めた。

 しゃがみ込み、今度は手で地面を叩き、反響音を聞くようなそぶりを見せる。


 そのままの体勢で。


「この地下だな。ミスリル特有の苦い魔力を感じる」

「味があるんですか、魔力に」

「精霊は魔力を、マナをエネルギーにする。つまり食べ物。食べ物に味があるのは当然だろう?」

「なるほど、たしかにそう言われてみれば」

「さあ、どうやって掘っていく?」


 示された場所にセバルトが近づくと、ワルヤアムルが足を引く。

 セバルトは魔力を解放した。


「こうやってです。アース・レイヴ!」


 大地を操作する魔法。

 セバルトが全力でそれを発動したら、威力がどうなるかは推して知るべし。


 数十メートルにわたってクレーターのように地面がへこみ、同時にえぐれるのと同じサイズの岩山が隆起する。

 大地が爆ぜる爆音が崖の間で反響し、轟音が鳴り響いた。


「あっはは! こりゃ派手でいい! さすが英雄だな!」

「元ですよ、今は引退中。でも、英雄の力は役に立ちますね」


 そして、数十秒前までは地下深くにあった、今は隆起した岩山から、ミスリルを探していく。

 岩から岩へと跳びながら、ミスリル特有の薄緑色のマナの光を探していく。


「ありました!」


 ほどなくしてこぶし大のミスリルを発見した。

 思った以上に簡単でセバルトは驚くほどだが、金属の精霊が味方についているとなれば、それも当然なのかもしれない。


「見つかったか。これで目的は達成したな」

「ええ。ありがとうございます、ワルヤアムル様が力を貸してくださったからです」

「当然だな。この私が探したのだから」


 ワルヤアムルは得意げに指先を上げる。

 日の光がきらりと反射し、まさにワルヤアムルをたたえているように見えて、セバルトはしばし見とれた。


「さあ、それでは、小腹も空いたことだし休憩がてら何か食うか」

「ええ、そうしましょう。ハイキングみたいですね」

「人間の世界に顕現したのならば、人間らしいことをしなきゃなあ」


 ワルヤアムルはからからと笑う、その隣でセバルトはフライパンを取り出した。不可視の玉壷から食材も取り出していく。


「ま、簡単な物ですけど」


 炎の魔法で薪に火をつけ、フライパンを火にかける。

 取り出したる食材は、卵とベーコン。ベーコンはよく塩をきかせた奴だ。このベーコンは、細かく刻んで調味料のようにも使える。


 卵とベーコンを焼き、ベーコンエッグを作る。

 簡単なものだが、外で調理するなら上々だろう。

 できあがったら、円いパンをナイフで真ん中から半分に切って、平らな切断面にベーコンエッグを乗せてできあがり。


「おお! これはうまそうじゃあないか! やるな、セバルト。さすが英雄といったところか」

「いや、これくらいは多分英雄関係なくできます」

「おお、うまい! うまいぞ!」


 話を聞くより早くワルヤアムルは食べ始めた。

 夢中でベーコンエッグパンを食べていくその食べっぷりはなかなか爽快で、セバルトのお腹も早く食えとせかすように鳴る。

 元英雄でも精霊でも胃袋には逆らえない、ベーコンエッグにかぶりつくと、半熟の少しとろみのある卵の黄身のうまみと、カリカリのベーコンの塩気と油が抜群にうまい。

 ワルヤアムルに続いて、セバルトも一気呵成に食べ尽くしてしまった。


「ふう~、我ながらうまいですね」

「ああ、いいもの食ったぜ。腹一杯だ」

「ええ、それじゃあちょっとお腹を休めてエイリアへ戻りましょうか」


 お腹をさすりながら言ったそのときだった。

 

 セバルトの服のポケットから、蝉が鳴くようなやかましい音が鳴り響いた。


「なんだ? 虫でも飼ってるのかお前?」

「いえ、違いますワルヤアムル様。これは、通知音です!」

「通知? なんの?」

「塔が、クリア目前になっています!」


 塔の五階に設置した水晶玉。

 終盤戦に入る五階の扉が開くと、それに供なって魔力を発して手持ちのベルに共鳴して音を発するようなを魔道具を作り設置していたのだ。


(おそらくたどり着いたのは、スピカ。このミスリルを持って行けば、彼女が一階のゴーレムに遭う前に間に合うか……否か……)


 とにかく行くしかない。

 セバルトは、地下通路を通り、塔へと急ぐ。

 ワルヤアムルも一緒に走る。




「おいきなさい!」


 スピカのミニゴーレム隊が、塔を守るガーディアンゴーレムに襲いかかる。

 数とスピードを生かした連携で攪乱し、ガーディアンゴーレムを追い詰めていき、一本の腕を奪っていた。


 ガーディアンゴーレムは再生を始める。

 ここまでは前回の攻略と同じだが、ここからが違っていた。


 ミニゴーレム達の体から、黒い湯気が立ち上っていく。

 それとともに、動きがさらに機敏に、力強くなっていく。


「ここが勝負所ですわ! スペシャルドリンクの力、存分に使い尽くしなさい!」


 それは、魔力を含んだ鉱物などを数種類ブレンドし攪拌し作った液体。ゴーレムに摂取させることで、一時的に出力を大幅にアップすることができる。

 そのブースト効果により、パワーを増したミニゴーレム達はガーディアンに対して一斉に最後の攻撃をしかけていき、再生するより早く損傷を与える。

 そして百秒の後には、ガーディアンゴーレムは機能を完全に停止した。


 ――と同時に、ミニゴーレム達も動きを止める。


「やっぱり、性能以上をやると、ダウンしちゃいますわね。しばらくは休んでもらわないと」


 ミニゴーレム達も、燃料が切れたように動かなくなった。

 スピカはそれを回収すると、広間の奥を睨む。


「これで、大きな脅威は排除しました。あとは、この先にもう何もありませんように……」


 祈りながら、スピカは奥へ進んでいく。

 試練の塔の一階中央部を、広間を先へと進み――。


 スピカは目を丸くした。


「ありましたわ!」


 そこにあった、光り輝く盾を手にする。

 それは間違いなく、魔法の力が込められていることがスピカにもわかる。

 しかも相当強力なものに違いない。おそらく本当に英雄が使ったものであってもおかしくないほどの。


「……これに込められた力があれば……でも、私が欲しいのは本当に……?」


 盾を手にして、喜ぶような、迷うような、そんな表情をスピカは見せていた。




「はっ、はっ……」


 同刻、セバルトは走っていた。

 ワルヤアムルの整地と、塔を結ぶ通路を一人で。

 ワルヤアムルよりセバルトの方が速いため、私に構わず先に行けと何かのフラグの様な事を言われ、ダッシュしていたのだ。


 そして、なんとか塔にたどり着いたセバルトが目にしたのは――。


「残念、少し遅かったか」


 盾を手にしたスピカだった。


 せっかく手に入れたミスリルが無駄になってしまったが、しかしセバルトはある意味そこまで残念に思ってはいなかった。


 魔人の欠片の男が動き出しているということを考えると、あまりのんびりゴーレム合戦をしている場合でもない。

 ずっとやり合うわけでもないし、そもそも実力を測るのが目的だったのだから、測れたらそれでいいのだ。

 ちょっと悔しいけど。


 さて、これからどうするかとセバルトは考え、率直な方法を選ぶことにした。


 盾を手にしたスピカの元へと歩いて行ったのだ。


「誰!?」


 前方からの足音に、スピカが声を上げる。

 スピカは足音の方へと目を向ける。

 そして、目をまん丸に見開いた。


「あなたは、セバルトさん! どうしてこんなところに、どうして前から」

「お話しします。そして協力して欲しいのです――」




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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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