遺跡のさらに奥
塔はまたも閉店だった。
「せっかく準備ができたのに、どういうことですの? あの守護者が開けたり閉めたりしてるのかしら」
とスピカが不満をこぼしていたが、しかたない。もう少し待ってもらう。他の挑戦者もガッカリしていたことだし、若干罪悪感を感じるセバルトは、なるべく速く遺跡の奥を見てみることに決めた。
遺跡の中央部一階、盾があった場所のさらに奥、一見すると何もないが、セバルトの真眼(魔力の源、マナを見る目)によって見ると、マナが湧き出ている怪しい場所があった。
そこを調べて見ると、さらに下へと降りる急峻な坂道がある。
滑り降りるように下へと向かうと、塔の上部分と同様の迷路のような構造になっている。
そして、小さなゴーレムがたくさんいる――が、どれもすでに動いてはいない。昔は守っていたのだろうが、もう役目を終えたのだろう。
迷路を進むと、再びスロープがあり、そこから下の階へと向かう。
その先は、迷路でも塔でもなかった。
薄暗い地下通路がずっと続いている。
石の床に足音を響かせながら、セバルトは歩いて行く。
「どこに繋がっているのだろうか」
明らかに、遺跡はどこか別の場所と繋がっている。
予想外のことに戸惑いつつも、いつの間にかゴーレムの弱点を補うことから、この塔がどこに向かうかという好奇心にセバルトの心は移っていた。
「あの盾が目玉だと思っていたけど――何か他にも目的が?」
そして再びスロープを下がっていく。
今度はこれまでで一番長い。
セバルトの足は下り坂という理由だけでなく、速まる
セバルトはスロープを降りきった。
そこは、岩山に空いた渓谷のような、崖に囲まれた岩だらけの空間に繋がっていた。
「渓谷? ただのってことはないよな。こんな大層なことをしておいて、そんなわけは」
セバルトはぐるりと周囲を歩きながら、何か無いか確認していく。
「どうせなら、古代の食物とか食器とかそういうのでもあればいいのになあ。英雄候補のためには武器や防具の方がいいけど、俺にとっては日用品の方がありがたい……んっ?」
そんなものないだろうけど、と思いつつ呟いたセバルトの前には、低木があった。小さな茂みを形成しているそれらには、芋のような実がなっている。
「地上の芋? これはまさか!」
今の時代は、芋は掘るものだ。
地下の部分を食べる、そういう芋しかない。
だがセバルトが産まれた時代、300年前には、地上の芋と呼ばれる野菜があった。芋のようにホクホクしていて、芋より甘味が強い。
この時代になってから食べられなくなっていたのだが――。
「地上の芋じゃないか! 国じゃなくなっても、ここでひっそり生き残ってたんだ」
誰にも顧みられることなく、こんな遺跡の片隅で子々孫々と世代を重ねていた芋に、セバルトの心は揺り動かされた。
上京した先で、旧友を見つけたような、懐かしいような心強いような、そんな気分だ。
(というわけで、旧友を焼いて食べることにしたのだ)
芋をとって、木の枝を串代わりにして、炎の魔法でじっくりと焼く。
串に刺したものをかじって串からとって食べると、
「はふ、ほふ……これだよ、これ」
ほくほくした食感に、広がる薄い甘味。
子供の頃を思い出してノスタルジィな気分に浸ってしまう。
料理とも言えない、ただ焼いただけなのに、どうしてこんなに好きな味なのだろう。
それはきっと、セバルトの原風景の中にあるからだろう。
セバルトは食べながら歩いて行く。
歩いてきた疲労もあっという間に回復だ。
「んん? これは……よく見るとただの石じゃないな」
膝くらいまでの高さの石があると遠目に思っていたものがあったのだが、それは近くで見てみると、人為的な古代文字のような記号が彫ってある。
何かのメッセージだろうかと、セバルトは顔を近づける。
セバルトには読めない。
だが、こういうものに出くわした時の対処はわかっている。
セバルトは、指先に魔力を込めて、複雑なその紋様をとレースし始めた。
十数秒後、石からぐらぐらと音が立ち――紫の光が突如として谷中を満たした。
「あはは……何かの起動のための術式であることが多いんだけど、まさかこんなことが起きるとは、ね」
鈍色に輝く人形。
谷底に差し込む一筋の光を受けて輝く。
セバルトよりも大柄で、手足の先が槍のように鋭く研ぎ済まされている。
「へえ、私を呼び出すとはね。どこのどいつだ? 面を拝んでやろうじゃないか」
振り返ったセバルトの瞳が捉えた。
女性の金属人形は、見覚えがある姿で――。
「ワルヤアムル、様」
「ん? あっはっは、お前か! 何年ぶりだ?」
現れたのは、紫の金属の精霊、ワルヤアムル。