ゴーレム強化政策
セバルトは考えていた。
先日でもかなりいいところまで行っていたスピカが、作戦があると断言した。
であるならば、きっとなんとかできるのだろう。
彼女は結構経験も知識もある。
セバルトはゴーレムをこっそりと外へ出した。
そして塔を二、三日の間封印する。
それはそう難しいことじゃない。元々、入り口はセバルトでなければ開けられなかったのを魔法でサポートして開けやすくしていたのだから、何もしなければ、自動的に入ってこれない。
そしてゴーレムに塗料を塗ったり、小枝や葉っぱを貼り付けて姿を偽装し、町の近くまで連れてきた。
「先生、これはいったいなんなんですか?」
「ゴーレムって奴じゃない? なんかゴミがついてるけど」
そこで待っているのは、ロムスとメリエだった。
セバルトは渋面を作って言う。
「ゴミじゃありません。迷彩ですよ、迷彩。森の中とかで戦う時にわかりにくくなるんです」
本当は、塔の中にいるゴーレムと何かあったときにバレないためだが、一応それらしい言い訳は用意している。
何もなく変な装飾をしてたら、それはそれで怪しい。
メリエが近づいて、木の枝をつまんだ。
「ふうーん。……それで、これが私達の相手をしてくれるのね」
「そうです。トレーニングの相手にはちょうどいいと思いますよ」
「先生の作ってくださったゴーレム、いい勝負ができるように頑張ります」
ロムスが言うと、メリエが肩をがしりと組み、絡むように言う。
「いい勝負じゃなくて~、ぶっ飛ばすって気持ちでいかなきゃ」
「そ、そこまではちょっと……」
「メリエさんの言うとおりです。それくらいで来なきゃ、怪我しますよ。さあ、特訓始めです」
ゴーレムの石の関節が軋みを上げた。
ロムスとメリエが、さっと真剣な眼差しになり、距離をとった。
メリエが剣を抜き、ロムスが杖を構える。
実戦訓練、開始。
ロムスが魔法で作った水球を勢いよく射出し、ゴーレムの体勢を崩し、そこをメリエが強烈な一撃をたたき込むという、二人の得意なコンビネーションを狙っていく。
だが、このガーディアンゴーレムはそう簡単にはいかなかった。
重量と強靭な力を持っているゴーレムは水球が当たっても、体勢を崩さない。
不意を突こうとしたメリエは、目論見が外れて反撃を受け、這々の体で、なんとか一時距離をとる。
それから何度かそんな攻防が繰り返される、その様子に、セバルトは、頷いた。
「パワーとガードは強いが、動きの機敏さや判断力はやはり人間に劣る。やはり苦手なのは搦め手か」
分析していると、ついに何度も繰り返した攻撃が功を奏して、ゴーレムの腕が吹き飛んだ。
「やったっ!」
「僕らの勝ちですね!」
「それはどうかな?」
だがガーディアンゴーレムは再生する。
ぱきぱきと乾いた音を立てながら、腕が新たに生えようとしてくるが、そこで、ロムスが素早く反応した。
「アクア・スフィア・カスタム!」
水球が複数あらわれ、横殴りに再生中の部位にぶつかっていく。
一撃の威力は軽いが、再生中の脆い部分には効果は十分あり、一発ごとに削れていき、再生が進まない。
さらにカスタムされた水球は、複数あり、追尾機能も持っている。絶え間なく正確に狙い続けられ、いつまでも再生ができなくなってしまう。
そこに、メリエが鍛えた膂力で、力勝負を挑む。
もう一本の腕を両手で押さえ込み、ギコギコとノコギリで木材を切るように、首を狙う。
「ストップ! ストーップ!」
たまらずセバルトは二人を止めた。
メリエとロムスがセバルトの方へと視線を向ける。
「負けました、僕のゴーレムの負けです。お二人の勝ちですよ。思った以上に、力も、戦い方も、コンビネーションも身についていますね」
メリエがゴーレムを放し、ロムスが魔法の発動を止めた。
「ふっふっふ、わかった? 結構強くなってるんだよねー、私達」
「少しは、自信ついてきました」
「本当ですよ。もう少しで完全に破壊されるところでした。ちょっとは手加減して欲しいです」
若干不満げにセバルトが言うと、ロムスとメリエは得意げに笑った。
(しかし、本当に二人は強くなってるな。これなら、英雄の役目も十分こなせるだろう)
この二人に、ブランカ、レカテイア。ネイも精霊を呼ぶ力をうまく使えば、英雄的な活躍をできるだろう。そして塔を攻略した者。これで6人。
なかなか調子がいいのではないだろうか。英雄を揃える目的も、そしてセバルトが完全に隠居してのんびり暮らすのも、現実味を帯びてきた。
(そのためにも、ガーディアンを強化しなければ)
見えてきた弱点は、やはり機敏さだ。
防御力と再生力でごり押しするスタイルだが、再生を封じられると少しずつ削られて負けてしまうということがわかった。
おそらく、あのトレジャーハンター、スピカもそこをついてくるはず。足止めをうまくする方法を見つけて。
それに対抗するためには、スピードを重視したものが必要だ。
遅いと、結局搦め手を好き放題喰らってしまうのだから。攪乱されないために、相手を攪乱する方法。
(とはいえ、このゴーレムを素早さアップするのはなかなか難しいだろうな。作り直さなきゃいけないし……)
そのとき、セバルトは膝を叩いた。
(そうだ。遺跡にはまだ奥があった。ひとまず伝説級の武器があったから、そこで止めたけど、試験ではなく……ゴーレムを強化したり、補うものが見つかるかもしれない。あるいは、ゴーレムを突破されたときのさらなるステージにしてもいい)
セバルトは遺跡のさらに奥へと向かうことを決めた。