ゴーレムを作るために集めよう
「ふん。別に菓子に釣られたわけではないが、話は聞いてやろう。お前にも多少は世話になったからな。我は礼は忘れない獣だ」
高性能なゴーレムを作るため、ブランカの知恵を借りようと会いに来たセバルトは、甘味を渡すことでブランカを釣ることに成功した。
もちろん、あくまでも菓子に釣られたわけではなく話を聞くのだとブランカは言い張っているわけだが。
素直じゃない神獣だとセバルトは苦笑する。
「さあ、さっさとよこすのだ」
ようかんを要求するブランカに渡すと、焦っているかのようにガツガツと食べていく。
一口ごとに目尻が下がり、耳がピコピコと揺れる様子をセバルトは本当に好きだなあと眺めていた。
食べ終わると――。
「ふうーむ。やはりうまい、何度食ってもうまいぞ。よくやったセバルト」
「お褒めにあずかり光栄です。というわけで、僕の方の頼みの番ですよ」
「しかたあるまい。ゴーレムだったな。古代の強力なゴーレムについて教えてやろう」
ブランカは満足げに、記憶に残る、ブランカを祀っていた者達が宝を守るために使っていたというゴーレムの製法をセバルトに語った。
理論的には強力だが、その当時は作りきれなかった『ミックスゴーレム』についてもセバルトに伝授する。
(ミックスゴーレム――なかなか強そうだぞ)
話を聞いたセバルトは、ミックスゴーレムを作ることにした。
もっとも色々なことで活躍できそうなゴーレムだったのだ。
通常ゴーレムは土や岩から作るのだが、動物の毛皮や角、植物の花や琥珀など色々なものを入れることで、その特徴を持ったゴーレムとする製法があるということだった。
それならば、色々な特殊なゴーレムを作ることが出来るし、一つにまとめればマルチに活躍するゴーレムになる。
(早速、材料を採りに行こう。俺だけのゴーレムを作るために)
セバルトは塔に近い北の山に来た。
狙うはこのあたりに棲んでいる蛇だ。
ここに棲む蛇は、物陰に隠れているような獲物の動物も不思議な力で察知して捕らえることができる。
その索敵能力をゴーレムに組み込んで、侵入者撃退機能を強化しようという算段だった。
様々な大蛇の伝説がネウシシトー国には残っていて、その中のいくつかは実在した史実である。
今でもいくつかは残っているようだが、セバルトが生まれた三百年前には、リアルタイムで大蛇退治の話を耳にした。
そのような蛇退治の話では、決まって出てくるアイテムがある。
それが。
「キツい酒、もらってきたんだよね」
セバルトが取り出したるは、小型の樽に入った酒。
樽を振るとチャプチャプと音が中からする。
「大蛇といったら、酒を飲ませて眠ったところを斬るのが常套手段。ちょっと応用させてもらうとするか」
かつて魔領で入手したとんでもなくキツい酒、その名も竜殺しを布にしみこませて、その布を餌に罠を仕掛ける。
蛇がこの酒に釣られてきて飲み、布を引っ張ったりすると、それと繋がっている輪っか状にした紐がキュッと締って捕獲できるという寸法だ。ついでに蛇も酔っ払うからトラップから抜け出ることもないだろう。
山肌の岩陰にいくつもそういうトラップを仕掛けていき、しばらく時間をおく。
「明日が楽しみだ」
セバルトはにやりと笑いながら、岩場から町へと戻っていった。
そして翌日――。
「おお、かかってるかかってる。釣れまくりだ」
狙いはあたり、サンダーボアという、毒はないがその代わり雷を放って痺れさせる蛇の魔物が数十匹もたっぷりと捕まえられた。
これだけ蛇があればゴーレムも作れるし、一部マニアに人気の蛇酒も作れるだろう。
「ふっふ、大猟大猟」
と喜んで塔へ向かおうとしている時だった。
しゅるしゅると、何かがこすれるような音が聞えてくる。
セバルトが振り返った瞬間、大蛇が大口を開けて跳びかかってきた。
「おっと!」
岩場で身をくねらせる蛇の牙を、セバルトはひらりとかわし、大きな岩の上に立った。
身の丈は自分の十倍くらいの体長があるだろうか。
その蛇が、パチパチと体の周りに紫電を迸らせながら舌を出し入れしている。
(こんな大蛇がエイリアの割と近くにいたとは……ひょっとして、前に偽の魔王達が大軍でやって来た時に、その戦力として一緒に来た魔物かもしれないな。途中ではぐれて定住したとか)
考えている間に大蛇は雷を放ってくる。
セバルトは隣の岩に飛び移りかわすと同時に、一振りの妖刀を取り出した。渇きの呪いがかかった紫色の妖刀。とんでもなく切れ味のいい剣だ。
喉が渇ききってミイラになる前に、セバルトは素早く勝負を決める。
「これなら、食べでがありそうだ」
真っ直ぐに大蛇に突っ込んでいく。
大蛇もセバルトに牙を剥き突っ込んでくる。
空中に白く尖ったものが舞い上がった。
刃と牙が交錯し、牙が折れたのだ。
舞い上がった牙が地面に着くよりも早く、セバルトは蛇の胴体に一太刀入れていた。
頭の根元に深々と振り下ろされた刃は、大蛇の石のような鱗を易々と貫き、綺麗に切断した。
「なかなかいい牙してたな。いっちょあがり」
大蛇は退治された。よくある伝説と似たように、酒でおびき寄せられて。
それからセバルトは、蛇以外にも良質の土や岩、植物などなど必要なものを集めて、塔へと向かった。
そこでゴーレム作りを始める。
良質の土や岩、そしてコアになる宝玉等の必須の材料を集めて、そこにブランカに教わった古代のゴーレム生成の魔法をかける。
そうしたら、土をこねて大きな人形の形に整えていく。
形ができたら、中に先ほど得た蛇の鱗や牙、薬草など追加で能力を持たせるための材料を加えて、仕上げの魔法をかける。
あとは三十分おきに魔力を追加していく。
これを二十四時間続ける。
「かなり眠たいんだけど……しかしやらねば」
うとうとしつつ、なんとか夜通し眠らずゴーレムの番をして、翌日の正午頃。
ずん、と地響きが起きて、閉じかけていた目をセバルトは開いた。
そこには、立ち上がり、ゆっくりと確かめるように歩くゴーレムの姿が。
「おお! 動いてる! はー、よかったうまく行って。簡単なゴーレムと違って、作るのが大変だよ本当に」
以前作った小型のシンプルなゴーレムを思い出す。
あれは比較的短時間で作ることができた。今回とは比べものにならない。
(まあ、でも、性能も比べものにならないな)
大きさも大きく、力強い上に索敵や自動修復などの機能も持たせている。
これなら、侵入者に対して十二分に戦えるだろう。
「さあて、準備完了だ。この遺跡が未来の英雄選考会場となる準備が。明日から、試験開始だ」
ガシュガシュと動き回るゴーレムと並んで歩きながら、セバルトは嬉しそうに言った。