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ブランカ

 空気が張り裂けるような音と共に、放電がブランカの体を貫いた。


「くっ……こしゃくな……!」


 ファブニルと戦っていたブランカの体に新たな傷が増える。

 魔力による雷は、魔力を吸収する技が使えるブランカにとっては致命とはならなかったが、無効化するほどまではできない。


 そして何より、金色の大蜥蜴の硬い巨体から繰り出される力は、防ぐのが精一杯で、先に進むなどとてもできない状態だった。


(一人では、これが限界か――今の我では)


 ブランカは悔しげに低く唸った。

 かつての自分であれば、多くの人々から崇められ、多くの知識を有していた自分であれば、その者達の力と自身の知恵をあわせて金の小竜も倒すことができただろう。


 しかし今の自分には、いずれもない。

 だから、こんなにも痛苦を噛みしめることになっている。


 その事実が、魔獣から与えられる肉体の痛みよりブランカを苛んでいた。


「だが、だからといって、諦めるわけにはいかぬ! 我は今の時代にも信じられるものがいる、その者のためにも記憶を――」


 叫び、ファブニルに跳びかかったその瞬間だった。


「ブランカー!」


 聞き覚えのある声にブランカが目を向ける。

 そこには、揺れる金髪のツインテールが見える。

 メリエが走ってきていた。


「メリエ、来たのか!」

「そりゃ来るよ! わっと!」


 新たに現われた存在に、ファブニルが尾で攻撃をしかけた。

 メリエは体内マナを腕に集中し、一撃をガードする。


「う、わっ! 凄いパワー、これ……キツいね」


 ガードしたものの吹き飛ばされたメリエは、痺れた腕を揉みながらブランカに言うと、説明もそこそこに、ブランカの側へ駆け寄り茶色い卵のようなものを差し出した。


「これが記憶だよ、ブランカ。セバルト先生が、スタンスを食い止めてる間に、一刻も早くブランカに渡せって」


 ブランカにはその一言で伝わった。

 差し出された球体に、ブランカも前足で触れる。


「――おお、おお」


 あらゆる情報が津波のようにブランカの中に押し寄せた。

 色彩、匂い、味、感情、そして無数の知識。


「ブランカ、どう?」

「……メリエ、頭の横を狙え」


 メリエは一瞬首を傾げたが、はっとすると、笑顔で頷いた。


「戻ったんだね、記憶」

「そして、大きな音と衝撃を出すのだ」

「りょ~かい!」


 メリエはにっこりと笑うと、ファブニルに跳びかかった。

 まずは相手を牽制するために一撃いれるが、金の鱗はその攻撃を弾く。


(なるほど、めちゃめちゃ硬い魔物なのね。つまり、狙えって言ったところは)


「弱点! そこだあっ!」


 叫びながら、頭の横を剣の横腹で殴りつけた。

 金属質の鱗とぶつかり、声と合わさり大きな音が鳴り響く――ファブニルの耳のすぐ側で。


 すると、ファブニルがふらふらと酔っ払ったような動きを始めた。近くにいるメリエも見えていないように、目を回しているように。


「ファブニル――小型の竜であり大型のトカゲである、金属の鱗に覆われた魔物。貴金属が大好物で、1000m離れたところで落ちた一かけの金の音すら聞き逃さないと言われる」

「おー。まるで魔物の生き字引だね」


 メリエの言葉に、ブランカはにやりと笑う。


「我はなかなか詳しいのだぞ。……今なら隙だらけだ。右腹の裏と左後ろ足の付け根に弱みがある。そこを狙うぞ」

「わかったっ」


 ブランカとメリエはそれぞれファブニルの弱点を狙って、攻撃を放つ。

 轟音と衝撃で一時的に聴覚から平衡感覚を失ったファブニルは、まったくの無防備で攻撃を受けることとなった。

 そして、魔法で強化した爪と剣が、鱗の隙間を縫って金色の竜の肉を切り裂いた。


 ――ガアアアア!


 ファブニルは断末魔の叫び声を上げ、金色の粒子となって空気に溶けていく。

 後に残ったのは、眩い金色の鱗一枚だけだった。


「ナーイス、ブランカ」

「汝もやるな」


 ブランカとメリエは、勢いよく手を合わせる。


「おお、ぷにぷに」

「肉球を必要以上につつくでない」

「えっへへ、ついつい気持ちよくて。……記憶、戻ったんだね」

「うむ。汝と、セバルトのおかげでな。感謝する」

「ま、このくらいちょろいちょろい」


 得意げに胸を叩くメリエを見て、ブランカはほうと息を吐いて笑った。

 そして、仕上げをしようと体の向きを変える。

 メリエも、にぃっと口角を持ち上げ、サディスティックな笑みを浮かべた。


「そうだった、忘れてたわ。小者×3のことを」

「優しくしていたら、これで三度目だからな。人間は我が友だが、こういう輩は少し厳しく躾けてやらねばならん」


 ファブニルを制御しようと、メリエを追ってきていたチンピラ三人組に、メリエとブランカは体を向ける。

 三人組は、魔獣がやられたことでまさかと驚き慌て、自分達が敵うわけがないと戦意喪失して、どうすればいいかわからない様子で、互いに自分以外を前へと押しだそうとしていた。


「ひっ、ゆ、許してください! お願いします!」


 口々に言う三人に、じりじりとメリエとブランカは近寄っていく。

 そしてにやりと笑うと。


「だ、め」

「ひい、いあぁぁあああ!」


 遺跡の地下に絶叫が響きわたった。


 ***


「さて、喋ってもらおうか。魔神の欠片を渡したという者のことを」


 セバルトは、オルトロスを倒したあと、洞窟内の大広間のような場所で、スタンスに尋問をしていた。

 知りたいのはもちろん、魔神の欠片のことだ。

 様々な問題の種となっているあれを、誰がばらまいているのか? そろそろ穏やかに暮らしたいので、原因を叩きたいと思っていた。


「そんなこと、私が喋るとお思いでしょうか? 商売とは相手との信用が第一。秘密を漏らすようなことは絶対にしません」

「なるほど、いい心構えです。ですが、悪事に関しては考えをあらためるべきです」


 セバルトの腕が一瞬ぶれた。

 そんな気がした程度しか認識できなかったスタンスは、一瞬遅れて眉間に鋭い痛みを感じた。


「つっ……血? 血が!」


 両目の間が正確に水平に薄く切れていた。

 押さえたスタンスの指には鮮血がべっとりとへばりついている。


 剣の切っ先から血をぽたり、ぽたり、と地面に落としながら、セバルトが言う。


「僕を甘く考えない方がいいですよ。自分が生き延びるための秘訣はこれまでの人生で心得ています。――敵を殺すこと、それが一番確実だ」


 セバルトはスタンスの目の奥を睨み付ける。

 スタンスの顔から笑みが完全に消え去った。


「次はもう一寸深く長く切り込みます。目と脳が無事かどうかは保証しかねますが、どうしますか?」

「………………」

「それが答えですか。では」


 セバルトの腕が一瞬ぶれた。

 瞬間、叫び声が響いた。


「わかった! 言う! 言うから待ってくれ!」

「それが賢明です」


 今度はセバルトは手を揺らしただけだった。

 必ず口を割ると確信しての脅しである。

 もちろん、スタンスの頭は切れてはいない。


「一番聞きたいことから聞きます。名前は?」


 スタンスは、一瞬躊躇したが、諦めたように言葉を吐き出した。


「……ミスバルト。黒いローブの魔法使いだ」


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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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