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激突

 遺跡地下を進むセバルトとメリエは、物音の聞こえた方へと向かって行った。

 そしてしばらく歩いた時だった。


「ねえ先生、あれって!」


 メリエが指さした先にあったのは、石で出来た台座だった。

 入り組んだ迷路のような洞窟の一番奥には、大講堂のような広い空間があり、その奥には石造りの台座があった。


「前に遺跡で見たものと同じ形です。あそこにきっと記憶の宝珠が!」


 これでブランカの記憶が戻ると安心したセバルトは、さっき聞こえた物音のことを一瞬忘れていた。

 そして二人は台座に近づいて行ったその時、


「いけ! オルトロス!」

「――っ!」


 黒い風が跳びかかってきた。

 すんでの所で気付いたセバルトとメリエは風から身をかわす。

 同時に声と風へと振り向き、目を見開いた。


「あそこの人達、もしかして――」

「やはり彼らだったんですね」


 見つけたのは、グエノ商会の四人組だった。

 そして、そこから少し離れたところには、四人を守るような、セバルト達を襲いかかる隙をうかがうような、魔獣の姿があった。


 それは黒い毛で覆われた大きな狼。しかも頭が二つもあり、目は爛々と残忍そうな光をたたえ、口からはマグマのように赤い舌を出している。

 

 セバルトは、その黒い双頭の狼を目にしたとき、胸にヘドロが張り付くような、嫌な感触を覚えた。

 これは、覚えがある。


「あなた達も、たどり着いていたのですね」

「こちらの台詞ですよ。どこまでも邪魔をする気のようですね」


 スタンスが、眉間にしわを寄せて言う。

 メリエが、足音を鳴らして一歩前へと出た。


「よっくも、メブノーレさんとこの蔵を荒らしてくれたわね! あんなことして、ただじゃ済ませないよ!」

「はっ! なに言ってやがる、それはこっちの台詞だ。こちとらお前にやられたことは忘れてないぜ」


 スタンスの部下三人組が吠え、メリエと火花を散らす。

 セバルトはしかし、それよりも優先するべきことを考えていた。

 今最重要なのは、やはり記憶の宝珠だ。


「あの秘宝はあなた達が求めているようなものではありません。不死とはいえ、代償に自由を失うのです」

「ふん! そんなこと言って諦めさせようって浅い考えかい!? 騙されるわけないだろう!」


 今は無用な激突を回避しようと放ったセバルトの言葉を、スタンスの部下の女が馬鹿にするなという調子で切り捨てた。

 どうやら、セバルト達が持っている情報の中に、彼らが持っていない情報があったらしい。ブランカもいないからなおさらだろう。


(やはり、敵対してる者のこんな言葉を信じるはずはないか。さて、そうすると)


 スタンス達への対処よりも、何よりも台座の上の宝を手に入れることが先決だとセバルトは考える。

 そして宝珠をブランカに速やかに渡す。そのために取るべき行動は――。


 その時、先ほど聞こえたような何かが砕ける音がした。

 今度はさっきより近く、方角もわかりやすい。


「今のブランカだよね、先生」

「ええ。……それなら、そうだな。――メリエさん! 台座の上の宝珠を取りに行きますよ」


 言いながらセバルトは台座に走って行く。

 メリエも突然で驚きつつもついていく。


「させるか、オルトロス!」


 狼の口から、火球が放たれた。

 セバルト達は一発目を回避すると、台座へと近づいて声を上げる。


「そこから打つと、宝珠に当たるかも知れないぞ!」

「はっ……! ま、待て、オルトロス!」


 火球が止まり、セバルトは宝珠を手にする。

 それは茶色い卵のようなもので、


「これ、開かずの箱の中に入ってたのと同じだね」

「ええ。やはり、これでブランカの記憶は戻りそうです」


 そしてセバルトはわざと大きな声で言った。


「メリエさん! ブランカを助けに行ってください!」

「ブランカの所へ!?」

「ええ。先に宝珠を持って、ブランカに渡しに行ってください! 僕は彼らをここで相手します」


 セバルトはメリエの目を見て言った。

 メリエは半分くらい理解して、あとの半分は信頼で宝珠を持って走り出した。


 スタンスはその様子を見て、一瞬口元に手を当て考えると、襲いかかろうとしていた黒狼オルトロスの動きを止めた。


 なぜか攻撃をやめたことに、部下が首を傾げ、小声で尋ねる。


「どうしてです? スタンスさん」

「あの白狐のところに行くつもりらしい。それなら、ファブニルがいます。あれにやらせればいい、お前達が追って、コントロールするんです」

「なるほど、そういうことですか」

「あの二人を分散させた方がいいでしょう。それに一対一でオルトロスが速やかに始末すれば、挟み撃ちの形もとれます。二人で力をあわせて逃げるということをされると厄介ですからね。鬱陶しい奴らを全滅させて、宝珠も手に入れるのに最適です」

「さすがスタンスさん、抜け目がない。いつも効率がいい」

「わかったら、あの女を追いかけろ。ファブニルの手綱を握るんです」

「了解!」


 部下達三人は、走るメリエの後を追って行った。

 広間に残ったのは、セバルトとスタンスと魔獣。


「ふっ、この前の勝利で調子に乗っているのでしょうが、この魔獣はあの三人組とは出来が違いますよ」

「そのようですね。かなりの力を感じます。――魔神の力を持っていますね」


 セバルトは、胸の辺りに見える、黒い塊を指さした。

 以前見た覚えのある、魔神の欠片が、今度は魔物に埋め込まれている。


「何? ……それを知っているとは、何者でしょうか」

「旅人ですよ。色々見聞きすることがあるので。あなた達、グエノ商会がそれを集めたり利用しているのですか」

「いいえ、違いますよ。これは、私の知人からいただいたものです。これを使って魔物を強化し操る実験に協力するという条件で」


 セバルトは短く頷いた。

 その知人、この前のエイリアでマナが異常を起こしたときに、男に力を与えたものと同一人物かもしれない。


「グエノ商会を大きくし、私が出世するために有効に使えるならば、使わない手はない。そうでしょう? 危険な力だとしても。もっとも、魔神とやらが何かまでは私は知りませんが」

「あなたと接触した知人とやらに話を聞きたいところですね――」

「それは無理だ。そろそろ無駄口はやめて、魔獣の餌になってもらいましょうか! やれ! オルトロス!」


 スタンスがオルトロスに命じて、セバルトに向かって火球を吐き出してきた。

 二つの口から交互に、複数の赤熱した火の玉が吐き出される。


 洞窟広間に、火球が炸裂し空気が揺れた。

 その震動が収まらないうちに、オルトロスの二本の首は、二本とも宙を舞っていた。


「え――?」


 スタンスが、何が起きたかわからないというように間の抜けた声を上げた。

 どさりどさりと、二つの首が地面に落ちて、スタンスの目がそれを追う。


「な、何が」


 声をかすらせながら、スタンスが顔を上げる。

 と同時に、紫の刀身を持つ剣が、スタンスの眼前に突きつけられた。

 いつの間にか、剣を持ったセバルトがスタンスの前まで来ていた。


「欠片程度の強化では、あまりにも遅すぎるみたいですよ。――さて、それじゃあゆっくりと話を聞きましょうか」


 これが呪縛から解かれたセバルトの速さだった。

 激突は、一振りで終了した。


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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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