第49話 山へ
良い天気だ。木漏れ日が射す林でストレッチ中です。魔物はいないよね?とりあえず町でご飯食べよう。装備もどうにかしないとな。
ニンニンニンと口走りながら忍者走りで町まで戻る。これがちゃんとした忍者走りかは知らないが、今日は忍者の気分なのだ。いつか「自宅」とコラボして本物の忍者っぽい技を開発するのもいいな。
忍術スキルか。渋いな。主のいない孤独な忍者プレイ。やや渋か?煙玉みたいのがあればさらに倍シブだ。どっかに売ってないかな?バカ野郎キーン。なければ自分で作ればいいじゃないか!
ご飯を食べて武器・防具屋にいく。店のおばさんに山の装備について聞いてみると、とにかく防寒だということだった。お勧めは防水加工された毛皮のマント。
お値段驚きの銀貨12枚。お、お高い!
他のものも見せてもらったが、一度毛皮マントを見てしまうと他のものがしょぼく見えてしまう。山を越える期間しか使わないと思うが、最悪「自宅」に入れておけばまた使うときがくるはずだと考えて買ってしまった。
大人用のフリーサイズだから調整してもらいさっそく着用。やばいカッコいい。こいつにくるまっていればもうどこでも生きていける感が半端ない。さっそく山に行って、木々の間を走り回る俺を想像する。やだ・・・素敵!と思わず叫んでしまう女共の黄色い声が聞こえてくるようだぜ。
しかしちょっと暑いな。ここで着るのはちょっと早かったか。いままで通りのしょぼいマントに戻そう。こいつには随分お世話になってるな。返り血とかわけの分からないシミでなんともいえない色になってるけどね。
服の予備も欲しいけどここは我慢だ。お金は大事にしないと。今は文官学校時代の制服を着ている。校章などをとってしまえばいい感じの普段着になるのだ。お金を稼ぐまではこいつで頑張るしかない。
武器もずっと前に買ったナイフしかないが今はこれで十分だ。あとは雑貨屋でひょうたんみたいな安い水筒と木のコップ、携帯用のランタンと油を買って、銀貨2枚とお別れした。
あぁ、欲しいものがどんどん出てくる。お金は残り銀貨70枚ほど。それなりにはあるが、これが当面の生活費。我慢しろ!我慢だ!
というわけで武器屋に戻って戦闘にも使える大振り肉厚なナイフを買った。2本目のナイフだ。素晴らしい輝き。パーフェクトだぜ。銀貨4枚が去っていった。さらばだ!我慢できなかった俺を許してくれ!
ナイフを出し入れする練習をして、決めポーズを考えているとオヤリエさんが顔を見せた。
「キーンこんなところにいたか。何をしている」
「装備を新しく買ったので、使い心地を試してました」
「ナイフか。キミはそれで山に行くのか?止めたほうがいいと思うぞ?」
「様子を見ながら行ってみます。駄目そうならすぐ退きますよ」
「そうか。私はもう出発する。よかったら一緒にどうだ?案内するぞ」
ん?いきなりだな。子供好きな変態さんなのかな?ありがたいがお断りする。一応オヤリエさんの故郷の集落の場所だけ教えてもらって別れた。
さて俺も出発しよう。山まで道も整備されているのでゆっくり歩いていく。日差しが強いから暑いし汗かきそうで嫌だわ。2時間ほど歩いて山道に突入。
木の背が段々高くなってきて森のような不気味さになってきた。さらに傾斜があって視界が悪くなってくる。気の陰からいきなり魔物が飛び出してくるかもしれないぞ?しかも見慣れない植物とか木が多い。毒とかないよね?近づかないにしよう。
この辺でちょっと「自宅」の発動練習をしておく。練習といっても狙った場所にスムーズに発動するだけだ。魔物狩りを通じてそこそこの精度になってはいるけど、練習出来るうちに少しでも錬度を上げたい。緊急用に「自宅」を盾として使いたいからね。
今までは「自宅」を自分の緊急避難用に使ってきたが、人に見られた場合それでは言い訳し辛い。自分と敵の間に「自宅」を盾として発動して、敵を「自宅」に閉じ込めるなり、攻撃を吸収するよう使えば、「拘束系」の魔法だと言い訳がし易い。これってすごい進歩だと思う。
それでも怪しいことに変わりはないが、まだましだろう。急に敵を閉じ込めたら「自宅」に入れてある食料とかは全滅するだろうから、俺へのダメージはゼロじゃないけどさ。それでも「自宅」の盾の可能性は無限だ。あらゆる攻撃を無効化する勢いじゃないか?痺れるぜ、なぁ?
30分程度練習してそれなりに満足できるレベルになった。腰を下ろして練習してたから休憩にもなったし。そしてまた先を目指す。ひーひー言いながら2時間ほど登った。
体がだるい。子供の体力なんてこんなものだ。しかも俺は押しも押されぬもやしっ子。もうだめだ。足の裏がじんじんする。1回「自宅」に入って休もう。ちょっとだけだ、ちょっとだけ休もう。少し休んでまたすぐ出発だ。10分したら出発。これでいこう。
起きて外に出たらもう真っ暗。夜になっていた。ちょっとのつもりがぐっすり寝てしまった。熟睡ってやつだ。周囲は完全に闇に沈んでいて、1メートル先もよく分からない。これはやっちまった。
これじゃ移動は不可能だな。危な過ぎる。なんか無茶苦茶寒いし。「自宅」に戻ってまた寝ようと思ったがさっきまで寝てたから眠くない。
とりあえず「自宅」内でぼーっと座っていると、ミスリル化期待中の銀貨が目に入った。これももう4ヶ月近くは「自宅」に入っているはずだ。
なのに全然ミスリル化してくれない。ホントどうなってんの?何かミスリル化のための条件が他にあるってことか。途中で少し外に出したりしたからダメなのか?
答えは出ない。銀貨は放置して干し肉をパンに挟んでかじる。暇だ。時間を潰すものがないからどうしようもない。筋トレでもしようか。
これからは運動メインの生活になるから、少しずつでも鍛えた方がいいだろう。でも体が痛いっす。まだ傷が完治してないっす。やーめた!
そして詰んだ。地獄の時間の始まりだ。日が昇るまであと何時間くらいあるのか分からないが、まだまだ夜は長いだろう。
暇に殺されそうだ。耐え切れずに外に飛び出してしまうかもしれない。その時は魔物に殺されるだろう。暇に殺されないように逃げると魔物に殺される・・・。
いつの間にか行き止まりに誘い込まれちまったぜ。もう後戻りはできない。勝ち目の薄い、厳しい戦いになりそうだ。自分自身との戦い。中身おっさんの俺にとっては一番嫌な相手だ。自分の限界に挑戦とか・・・正直したくないんだわ。
はぁ、山登り初日だってのに何やってんだろう。失敗したわぁ。




