第47話 金貨
オオトリの連中に話しをして黒ずくめの男を放つことにした。ここで始末した方がいいとしつこく言われたが、諦めてもらった。俺を直接殺しにきたわけでもないし、どちらかと言えば俺を王都から逃がそうとした側の人間でもある。
もちろん俺の身を案じてしたことではないし、生かしておけば面倒事が列を作って押し寄せてくるかもしれない。けど殺人は・・・ちょっと・・・。俺の覚悟なんてその程度だよ。魔物狩りで少しは心身を鍛えたつもりだが、魔物と人では、ねぇ?
「自宅」から解放すると、黒ずくめの男は無言で走り去っていった。奴には「自宅」に関する情報も与えてしまったな。考えると自分自身にイライラしてくるからやめよう。もっとハッピーなことを考えないと!
ハッピーなことってなんだ?お金持ち?美食?世界旅行?田舎でのスローライフ?あぁ、どれも魅力的だ。オー、ハッピーデイ!オー、ハッピーデイ!なんて唄ってるうちに町が見えてきた。
やべぇな。ハッピーデイ云々の前に今の俺にはマネーがないっす。黒ずくめから金目のものをパクっておけばよかった。失敗したわー。
「ランカムさん。相談があるんですが」
「なんだ?」
「ちょっと買い取って欲しいものがあるんですが、これ見てもらえませんか」
「どれどれ・・・ってオイ!これは例の銀貨じゃないのか!」
「ええ。さっきポケットを確認したらなぜか1枚出てきました。不思議なこともあるもんですね。我ながらびっくりです。まぁそんなことは大した問題じゃないですよね?それで相談なんですが僕はいまお金をほとんど持っていないんですよ。町が見えて来たっていうのに無一文の子供がひとり。こっちは大問題じゃありませんか?そこでこれを買い取って欲しいんですよ」
「フ、ハハハハハハハッ!」
な、なんだこいつは?爆笑してるよ。笑いのツボがいっさいわからん。
「ハハハ・・・ハァ。ふてぶてしいにも程があるな、キーン。少しお前のことが分かった気がする」
「そうですか。確かに相手を理解するっていうのは大事ですよね?そんなランカムさんなら僕の窮状についてもご理解いただけると思いますが・・・買ってくれるんですよね?」
「いいだろう。買おう。俺には厄介なものでしかないが、話の種にはなりそうだ。アロンソ王国も抜けたことだし危険度は下がった。いくら欲しいんだ?」
値段か。純粋にミスリルだけの価値でいうと金貨1枚程度だったな。
「金貨3枚でどうですか?」
「バカか。そんな面倒なものをなんで金貨3枚も出して買う必要がある。銀貨3枚なら買うぞ」
「そうですか。ではこの話はなかったことにしましょう」
精霊野郎め、これから先みじめなストリートチルドレンとしてストリートでのデビューを控える11歳児相手になんて無情なことを言うんだ。浮け!浮いて土下座だ!空中浮遊土下座をせい!
「金がないんじゃなかったのか?銀貨3枚だってなかなかのものだぞ?」
「そうですね。いよいよとなったらオオトリとか言う冒険者パーティーの情報を売って稼ごうかなと思ってますよ。依頼の前金だけ受け取って、持ち逃げする素晴らしいパーティーだってね」
「ほう?俺達は構わないぞ。評判なんぞ関係のない仕事をすればいいだけだからな」
「ではその方向で」
よしよし。情報を売る許可は下りた。ミスリル化銀貨の件もこの連中にすりつけてしまえ。あれはこいつらが黒幕らしいってな。ハハハ、楽しくなってきたな。ハッピーだわ。
「キーン。お前何か悪いこと考えてないだろうな?」
ドミニクのおっさん、鋭いじゃないか。顔に出てたか?俺も修行が足りんな。
「僕も食べるもの食べないと死んでしまうなぁと困っていただけですよ」
「お前まだ11歳だもんな。わかった。それ俺が買おう。金貨1枚でどうだ?」
よし売った!金貨1枚で十分よ。おっさん、あんたのバランス感覚はいつも飛び抜けてるな。嘘情報をバラ撒くのは止めにするよ。まったくあんたには勝てそうにないぜ。いや最初から負けていたのか。
ドミニクのおっさんから金貨1枚を受け取って町に入った。できればさらに隣国へ逃げたい俺としてはこんなところでゆっくり狩りなんかしてお金稼ぎする時間はなかった。金貨1枚はかなり大きい。さて、旅に必要なものを買って次の町にいく準備をしなきゃな。
オオトリの連中にお礼を言ってお別れする。
「キーン。お前も俺達と一緒にこないか?」
おお!ランカムさん。俺を誘ってくれるなんて。出会った頃では考えられないセリフだ。つまりお互い利用しようってお誘いですね?お目当ては俺の魔法か。俺にとっても実に都合のいい提案だ。
「ありがとうございます。とても嬉しい話ですが、お断りします。どこまで一人でやれるか試してみたいので」
これは本音だ。理由の全てではないけどね。こうなってしまった以上俺はひとまずもっと遠くに逃げなければならない。国を一つ移動したとは言え安心できないからだ。黒ずくめをリリースしたから俺がここにいることはもうバレていると思っていいし。
じゃあなぜ誘いを断ったのか?俺はオオトリをやっぱり信用できないからだよ。深いところでは相変わらず疑っている。黒ずくめとのやりとりだってあらかじめ打ち合わせ済みの演技かもしれないじゃないか。
もちろんオオトリが完全に白という可能性はある。けど今の俺がこの状態である以上、ここで別れたほうがいいと考えた。疑いながら一緒に旅してストレスでハゲたりなんかしたらたまんないものな。
「そうか。短い付き合いだったが楽しかった。また会おう」
うん。またね精霊野郎。
「キーン。お前はもっと人を信じることをおぼえるんだな」
ドミニクさん。それは分かってるんだけど簡単じゃないよ。
「ガキ。借りができた」
パームさん。喋れるぐらいは回復したんだね。傷、お大事に。
「元気で」
お!ゴクノバさん、久しぶりに声を聞いたよ。あんたも元気でな。黒ずくめ男の仲間を始末してくれてありがとう。
オオトリの連中はこのまま南下して海を目指すそうだ。こうして別れてしまえば、なんだかんだ親切な連中だったと気持ちよく思える。さよならだ。
俺はどうしようかな?とりあえずアロンソと国境を接していない国まで急ぎたい。南東のハンブルンを目指すか。あそこも王国だったな。
ある程度進んだら途中で魔物を狩ってお金も稼ぎながら行くとしますか。すぐ追手がくるとかないよね?まだ体も痛むのにさ。
新しい冒険の始まりだ。そうだ新しい靴を買っちゃおう。お金も入ったことだしね。そいつで世界を歩いちゃうんだよ!




