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第39話 学校に視察団が来たよ

キーンが届けたミスリル製銀貨は詰所の衛兵から詰所を管理する役所に届けられた。役所の責任者はさらにその役所を管理する役所へと運んだ。


そうしてついには宰相にまで伝わり、宰相は国王に報告をするまでに至る。宰相はそれと同時に国政に携わる主だった者たちの内、特に信頼できる者を集め密かに会議を開いた。


会議ではまずはじめにミスリル製銀貨の発見から現在に至るまでの経過が説明され、次にこの銀貨が何を目的に作られたのかの意見が求められた。


まだ何も背景が掴めていない状態で意見を出し合っても完全な推論にしかならいが、それでもいくつかの可能性を洗い出し、あらかじめ備える必要があるのは明らかであったからだ。


出された意見で説得力が高かったのは、ミスリル銀貨偽造の為の前段階として作られたものではないか?というもの。金貨100枚で白金貨、白金貨100枚でミスリル銀貨となる。ミスリル銀貨の価値は非常に高い。これが偽造されるとなると通貨の信用が一気に失われかねない。


そうなると目的は王国の経済を麻痺させるためということになる。麻痺どころか下手をすれば硬貨がただの金属片に変わり、経済が崩壊してしまうかもしれない。特に金貨、銀貨あたりは一気に市場から引き上げられ流通しなくなるだろう。


ミスリル銀貨を偽造し一斉に両替、それによって利益を得る。というものもかなり有力な説だった。目的は単純で要は金儲けのためだ。


他に挙げられた可能性としては美術品として作られたものではないか?というもの。ただし通貨偽造という重罪を犯してまで作るものではないだろうという結論になった。


宰相は経済麻痺または組織的な金儲けを目的にした通貨偽造の線で調査を開始することを決定した。誰が作ったのか?については調査の結果を待つこととなった。


犯罪者組織、豪商や貴族。国内のみならず他国からの攻撃の可能性だってある。現在集まっている情報だけでは判断ができない。


宰相は箝口令を敷き、このミスリル製銀貨を発見した者にまでさかのぼって情報の管理を徹底させるよう指示した。


ミスリル銀貨の偽造など悪夢でしかない。会議は宰相のみならず参加した者ら全てに言い知れぬ不安を植えつけて終了した。










学校に王宮のお偉いさんが視察にくることを知ったのは、キーンがミスリル製銀貨を届けてから3日後のことだった。


学校の掲示板に大きく張り出されたその知らせに何事だろうかと話合っている生徒の姿が多く見られ、事情が呑み込めてくるにつれ興奮が拡がっていった。


教師達は大忙しのようだった。出迎えの準備や視察のルートなどを考えていたのだろう。急な視察の決定に驚きながらも、自身の顔を売り込むチャンスだと張り切ってもいたはずだ。


そして今日は王宮から視察団が訪れる日。キーンは自分のクラスに入るといつも通りに授業の準備をしてから目を閉じ眠り始めた。普段より少しだけガヤガヤとしている教室内の雰囲気はそれほど邪魔にはならなかった。


1限目の教師が現れ授業が始まる。さすがに教師は浮かれた表情を面に出していない。その様子に生徒も気を引き締め直し、いつも通りの授業風景に落ち着く。


休み時間になるとまた視察団の話しで声が大きくなるものの、教師の登場とともにその声はすぐに消える。2限、3限と淡々と続き、昼食の時間。クラスメイトは一斉に教室から飛び出していった。


学校視察についての動向について情報収集にでも向かったのだろうか?普段ならもう少しゆっくりと散らばっていくのだが、今や教室に残っているのはキーンくらいのものだ。


キーンは昼食をとるために食堂に向かいながら、やはり視察団のことについて考えていた。彼等は何の目的でやってきたのだろうか?単純に学校の様子を見に来ただけなのか?それとも有望な生徒の青田買いに?


教師が何か汚職でも行い、その裏取りにという可能性だってある。そもそもまだ学校にいるのか?自分の教室には来ていない。ではもう帰ってしまったのか?だとしたら一体何を視察したのだろう?等々と考える。


食堂でキーンはいつも通り端の壁際の方で昼食を食べていた。すると食堂の入り口の方が騒がしくなる。学長が何人かの教師とともに見慣れない人達を連れて食堂に入ってくるのが見えた。どうやら視察団の方々を案内してきたらしい。


視察に来た人の数は4名。その4名がひとりずつ散らばって生徒達の話を聞きながら昼食をとるらしい。おそらく高位の貴族の子供あたりがその相手に選ばれるのだろう。先生方もかいがいしく動き回っている。


ふと気がつくとキーンの向かいの椅子の前に男が立っていた。視察団の補佐役の随行員か何かだろうか?いやこの体つきからして護衛の人間?キーンが考えている間にその男は椅子に座って食事を始めた。


その様子に周りの生徒達は少し興味を引かれたようだが、すぐにメインの視察団へ目を移している。


「キミは随分幼いようだが、ここの生徒かな?」


男がキーンに話しかける。


「はい。11歳になります。キーンと申します」


「そうか。キミは算術が得意か?」


「得意とは申せませんが、自信がないわけではありません」


「ならばこの問題を見てくれないか?私にはちょっとむずかしくてね」


そういって男は一枚の紙を差し出した。キーンはそれを受け取りゆっくりと読む。


「申し訳ありません。私にもむずかしかったようです」


キーンはそう言ってすぐに紙を男に返す。


「そうか。で、この問題の意図は分かったかな?」


「はい。その問題を作った方が何を望まれているかは理解したつもりです」


「それはつまりどういうことかな?」


「つまり私は何も分からいというお返事しかできないということです」


分かったと言って頷くと、男は立ち上がって去っていった。まだ食べかけの食器を残したまま。視察の方々は午後も授業を見て回ってから引き上げたようだ。


キーンは授業が全て終わると、いつも通り足早に教室を出て寮の自室に戻った。食堂で見せられた紙のことを思い出す。ミスリル化した銀貨については口外禁止とそれを破った場合の罰則についてなどが書かれていた。


キーンはベッドに腰掛けてふぅと大きく息を吐いた。まだ分からない。だが、一つ目の山場は越えたと思われた。あの程度の警告で済んでいるという事は事態はそれほど深刻ではないのだと思える。


「自宅」からミスリル化した銀貨を取り出して眺める。残りは4枚ある。新しく「自宅」に追加した普通の銀貨はまだミスリル化の兆候を見せない。


キーンはミスリル化した銀貨を「自宅」に戻すと、つまらなそうにベッドに横になった。


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