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第182話 小手調べ

部屋の扉が弾け飛んで水精が飛び込んできた・・・瞬間に消えた。「気配察知」で接近に気付いてからすかさずこの部屋を「転移」で囲ったのが間に合った。数百キロ彼方にバイバイ。それだって大した時間稼ぎにもならないだろうけどさ。




「キーン殿。これは一体いかなる事態ですかな?なぜ扉が破壊されて、そこに見える黒いものはまさか魔法?何かご存じであればお教え願えませんか?」




「ええ、もちろん。構いませんとも。しかし御老体、あなたほどのお方ならばもう予想はついているのではないですか?ええ、水精様のお出ましです。あなたの大切なひとり息子さんがお呼びになったでしょう?ハハハ。そしてそちらの破片は水精様が御蹴りになって砕けた扉の残骸です。随分お急ぎだったようですね。あぁ破片を集めて記念碑でも作ってみてはいかがですか?ドワーフの仕事ならさぞいいものが出来るでしょうね。きっと水精様にもその誠意が伝わるでしょう。ハハハ」




「そう・・・いえ本当に水精様が?ケーブ!お前らエルフ殿にいつ連絡をした!なに?聞こえん!はっきり喋らんか!2時間前?たったの2時間?本当なのか?しかし・・・警備は・・・いやなんと、なんという愚・・・こんな・・・頭がくらくらするわい。キーン殿、それで水精様はいまどちらに?」




「私の魔法でひとまず散歩にお連れしました。こちらも歓迎の準備に少し時間が必要ですからね。そうでしょう?ゆっくりと景色でも楽しんでいらっしゃると嬉しいんですが高貴な方は我慢をしませんからな。こちらの都合などお構いなしにすぐに戻ってくるかもしれませんね。そしてなんやかんやと己の満足がいくまで命令するのでしょうよ。え?えぇそうですよ、黒いのはもちろん私の魔法です。ご存じのくせにハハハ」




「オヤジオヤジ。水精様が来てくれたならよ、こうなりゃもう四の五の言えんだろう。小僧はもう終わりだ。そうだろ?オヤジも腹くくってくれや。なぁ小僧。この黒いのはお前の仕業なんだな?なんだか知らねぇがさっさと引っ込めろよ。水精様が来たんだぞ?もうお前の運命は決まったんだ。ジタバタすんのはみっともねぇぞ」




ハハハ。こういうバカは本当に面倒だよな。対策の立てようもないし。こういう展開になっちまった以上爺さんは息子に協力する方向にシフトするだろうな。警備のおっさんも水精を敵に回そうだなんて考えないはず。




つまりこの部屋のドワーフは全て俺の敵。それはドワーフの町全てが敵になったという意味でもある。やれやれ爺さんとは結構いい感じに話せていたのになぁ。勘弁してよ。




「キーン殿。誠に申し訳ございません。状況が変わりました。もし水精様がいらして、その目的がキーン殿ということであればワシ等はあちらに味方せざるを得ないのです。お怒りは重々承知しておりますが、キーン殿とてお分かりのはず。で、キーン殿は転移で一度身を躱されるおつもりですかの?」




「さぁ、どうしましょうか。なにかいい案ありませんか?一度退いてもいいんですが、それでは全くいいとこなしで終わってしまいますから。もう少し遊んでから帰ってもいいかと思ってるんですよ」




「その落ち着きはその魔法に対する自信ですかの?よくよくお気をつけなされよキーン殿。水精様はワシ等とは根本からして別の存在ですぞ。それこそ魔法などよりもおそらく」


「ご助言痛み入ります。それは私も同意見です。この転移の魔法による結界も水精様ならばたやすく突破するかもしれませんね。まぁそれでも私はあの偉そうな水の塊を地獄に落としたいんですよ。こうなったら当たって砕けるしかありませんかね?」




「キーン殿は本気でエルフ殿と戦うおつもりですかな?相手の戦力を満足に把握もしていない状態で?いや失礼、しかしここにはそのための武器を求めていらっしゃったということですかな?魔道具にそしてキーン殿の転移の魔法。加えて先ほどされた地下のお話。なるほど。いやはや正気ですかな?」




「さぁどうでしょうか。あなた方は私の情報をかなり集めているようですから評価はどうぞご自由に。しかし先ほどの嘘がバレてしまいましたね?参った参った。確かにあちこち見せて頂きましたよ。当然地下のアレも見ました。あれはなんです?」




「キーン殿。その話はいずれまた機を見て致しましょう。今はその時ではないようですからの。それよりも差し迫った問題を考えるべきでは?ワシ等は行きがかり上対立することになりそうですが、出来ればキーン殿とは争いたくありませんでの。水精様がおられても積極的には攻撃しないことを誓いますぞ。怪しまれない範囲でという注意書きが付きますがの。ただキーン殿にはどうかそのあたりのこと承知しておいて欲しいですな」




行きがかり上?水精を呼んだのはお前のクソ息子だよ?しかし”積極的には攻撃しない”か。曖昧な表現だがありがたいのは確かか。




「まさかそこまで仰っていただけるとは!御恩は決して忘れませんとも。ただ息子さんにはよく言い含めて下さると助かります。ご存じでしょうが私は結構気が短いんですよ。今は御老体の言う次の時に期待して我慢しますが」




「全く今回の不本意な展開には反省することばかりですな。ただくれぐれもおぼえておいて欲しいのはアレが禁足地だということです。キーン殿、ワシ等の心情を察してくれとは言いませんが・・・特別なことです。ただし次はありませんぞ?いくら・・・」




「ん?どうやら水の塊が戻ってきたようです。お喋りはまた次に・・・」




水精は物凄い勢いでやってきて部屋の手前でピタリと止まった。「転移」が映す闇のカーテンをじっと観察して警戒しているようだ。




「これは「転移」の魔法か。このような使い方は知らないが特徴は一致する。先ほどの現象からも間違いない。部屋をぐるりと囲っているな。一体誰の魔法か。殻に閉じこもった脆弱な者どもよ。聞こえているな?すぐにこの魔法を解くが良い。我は水精と呼ばれる者。この名を知らぬとは言わせぬ。選択の機会は今この時たった一度きり。選ぶが良い」




懐かしい声を聞いたな。自らが偉大な存在だと主張してやまないあの口調が記憶の底に押し込めていたものを雑にかき混ぜて泡立たせる。そしてもうとっくに薄くなってしまった復讐心やら怒り、憎しみなんていう黒い感情が機械的に心を熱く染めて”やれ!”と叫ぶ。折角たった一匹で来てくれたんだ。この機会は逃せないよな。




「水精様!俺が連絡したケーブです。水精様の探している小僧はここにいますぜ!いま小僧に魔法を解かせますので待っててくださいや!おい小僧!もうジタバタすんじゃねぇや。男がそれじゃ情けねぇぞ。俺に殴られる前にさっさとこの魔法を消すんだ!」




すかさずバカ息子がはしゃぎ出した。いや分かってるよ?ドワーフを敵に回してはダメだってね。でもこのバカは別枠でしょ?頭に血がのぼってる時にこれやられたらもう仕方ないよね?




右手を軽く握ってなぜか余裕の笑みを浮かべているバカ息子に腹パンする。ゲェと呻き声をあげて嘔吐しながら床に倒れ込んだ。いやマジでなんで笑ってたんだこいつ?あーあ汚ねぇな。さて頭を蹴って終わりにしようかな?




「キーン殿、どうか」




さっと爺さんがカットイン。歯の隙間から言葉をすりつぶすように短い懇願。眼が血走ってる。ちぇ、仕方ないか。これは貸しだぜ?




「水精様。お久しぶりです、キーンです。魔法は解きませんよ?当たり前でしょ?お偉い水精様にとってはなんら障害たりえないものかもしれませんが、先ほどもそれに一匹引っかかって消えていきましたからね。そう捨てたものでもないんですよ。扉を破壊しないと部屋に入ることもできない頭のおかしいヤツでしたから水精様もお気をつけ下さい。まだその辺をネズミみたいにウロチョロしているかもしれません。それで本日はどういったご用で?いま私とドワーフの方の間で大事な話をしているところなので、用がないならさっさと消えてくれませんか?いや本当に」




「我を侮るか。それも良かろう。己が選んだものを知れ」




お?「転移」の渦が干渉を受けている?魔法が書き換えられているとでも言おうか。俺の手元から「転移」の制御が失われようとしている。へぇこんなことが出来るのか。ちょっと魔族の野郎を彷彿とさせるな。




おっと「転移」が消されたな。けど既に2つ目が展開済みなんだよね。しかしすぐに消された。さっきより少し速いか?3つ目は3秒くらいで消され、4つ目は1秒。そこからはもう一瞬で消されるだけ。どういう能力だ?




「無駄だ」




「無駄?転移の壁は壊せても、突破出来なければただの言い訳ですよ水精様?転移を破るだけで必死じゃないですか?偉そうにしたいならもっと分かりやすく実力を示して下さらないとね」




さぁもっと色々教えてくれよ。何が出来てどれほど強いのか。どうせ俺をここで殺すつもりはないんだろ?クソエルフのところへ拉致するくらいでさ。だったらこんな楽な実戦はないな。




でももしかしたら殺すつもりあったりするのかもね。「気配察知」の強度を上げて僅かな動きも注意しときましょう。




それにしてもバカ息子には感謝しないといけないなぁ。こんなにいいお客さんを呼んでくれたんだから。さっきは殴って悪かったよ。次からはもう少し弱く殴るね。




「転移」は発動とほぼ同時に消されていく。俺はひたすら「転移」を張り、水精はしこしこそれを消す。いつまでこれやるの?って感じだけど打開する必要があるのはあちらさん。俺はずっとこのままでもいい。この状態で完全に足止め出来るって結果が得られるからね。




でもさすがにそう甘くはないか。水精が一歩進んだ。そしてまた一歩。チッ!発動が追いつかない。




「もうよかろう」




「あぁ、上で待ってるよ」




一旦仕切り直しだ。「転移」でドワーフの町の地上入り口あたりへ跳ぶ。あいつならすぐにこっちの位置をつかんで来るだろう。




うん。来てるな。それじゃあ「身体強化」と「気配察知」を同時発動して、接近戦のお時間だ。まずは波動拳で先制攻撃だ!ヒャッホー!死ね!

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― 新着の感想 ―
[良い点] キーンの行動が、良い目としてでるか、裏目にでるか、わからない。なので、一話読むたびに次が気になるし、楽しい。ワクワクする。 水精様とのバトル?逃走?、ドワーフとの関係性が、気になる。 [一…
[良い点] やったー更新だ(目が泳ぎながら)
[良い点] ドワーフの爺さんとのやり取りが楽しかったです。「馬鹿な子ほど可愛い」を地でいく爺さんがカワエエ♪wwwwww [一言] さて、久しぶりのガチマジバトルだ!!
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