表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/196

第181話 人の様々な情熱から

「オヤジ!こんな小僧ひとりでどれだけの条件が引き出せるか。笑いがとまらんとはこのことじゃねぇか!ガハハハハ!なぁ?」


部屋に乗り込んできた若いドワーフは3人。そして部屋の外に5人か。爺さんの息子らしきヤツがリーダーっぽいな。ガハハハと笑いながら語り出した。


「この客室は俺達が押さえたぜオヤジ。外もな!その小僧はこっちにもらうぜ。いい加減オヤジ達にはうんざりだ。俺達が何をしたってごちゃごちゃと能書きばっかりでよ。結局何も決まりやしねぇし進みもしねぇ。ちょっと話を聞いてりゃ今回もやっぱり同じでよぉ。いくらなんでもそりゃねぇだろ。なぁみんな?中立なんて言ったって無理な筋は通らねぇよ。損得なんて考えるまでもねぇ。小僧ひとりで大儲け出来るんだ!この機を逃すバカがいるもんかよ!いいよな、オヤジ?」


若者全員攻撃的な笑みを浮かべて爺さんを凝視している。強引に乗り込んできたくせに許可が欲しいようだ。びびってるくせに無理しちゃってるのかな。


でも爺さん激おこだよ?とても許可なんか出そうにないよ。しかも爺さんの顔色を窺うのに夢中で俺の方は気にも留めていない。最初に魔道具を向けられてそれだけだ。ハハハ、おめでたい連中だな。目の前に敵がいるのにお喋りに夢中ってか?さて・・・。


「キーン殿には心から謝罪させて下され」


爺さんは椅子から立ちあがるなり転がるように土下座した。息子ポカーン。俺は苦虫。やっぱり爺さんは手強いな。俺の殺る気を察知したな。


ドワーフ全体と事を構えるのはよろしくないが、こいつら程度ならボコっても大丈夫だろうと思ってたのに爺さんに先手を打たれたわ。


無礼な乱入者を最大限利用して魔剣とかゲットできるかもって甘い夢も見てたのにさ。爺さんの土下座なんて一銭にもならもんで収拾つけられたらたまらんぜ。


「キーン殿のお怒りは重々承知しておりますが、これはワシにとって大事なひとり息子。許して頂けるならば此度の恩は決して、決して!どうかお許し下され!キーン殿!どうかどうか!」


あーあー。土下座はやはり強力な武器だよな。立場が上の者がやるからこそ状況に意味が刻まれる。ほら、頭を下げられてるこっちの方が悪者みたいだろ?


もちろんあれやこれや無視して爺さんの頭を踏みつけ「許さない」と追撃をかけてもいいんだけどね。それやったら全面戦争で結果俺は死ぬだろう。大事なひとり息子ねぇ。そんなん知らねぇけど仕方ないかな。


「頭をお上げ下さい。私は何も気にしていませんよ。はい。全くこれっぽっちもね。実際何ほどのこともありませんよ。いきなりのことに少し驚いただけです。むしろそのようにされては私の小さい心臓など動きを止めてしまいますよ。ささっお立ちを、はい、どうか・・・はい、どうか」


爺さんの腕をとって立ち上がってもらう。営業スマイルも忘れずにね。こうなりゃこの件で少しでも爺さんに恩を売っておくに若くはなし。


「オヤジ!どうしたんだよ!そんなに腑抜けちまったのかよ!そんな人族の小僧にひれ伏すなんてよぉ!いつも偉そうに説教してたのは誰だよ!ドワーフの誇りはねぇのかって聞いてんだよぉ!」


息子さんは顔を真っ赤にして叫んでいらっしゃる。どうやら仲間達の手前、土下座までした自分の父親の姿を恥じているらしい。バカ息子丸出しじゃないですか?しかし爺さんは息子さんの魂の叫びをガン無視しております。目線のひとつさえくれてやりません。大事なひとり息子って話はどこいったんだろう?


「うるさくてご迷惑をおかけしますのぉ。こんな狭い穴倉のなかにいると陥りやすい問題でしてな。わが身の至らなさに羞恥の極みでございます。改めて謝罪を。キーン殿、どうかお怒りをお鎮め下さい。この者達はすぐに下がらせますので。さぁおかけ下さい。お茶をお注ぎしましょう。いえ、これは冷めてしまいましたかな?すぐに新しいものを用意させます。時間も時間ですのでお食事もいかがですかの?ゆっくりと話を詰めてまいりましょう。ホッホッホッ、いやはやしかしこれは参りましたわい」


ガチャガチャと金属の擦れあう音が耳に入ってきた。鎧を着た複数の兵士が短剣片手に近づいてくるのをとらえた。若者達も音に気づいたようでお互いの顔を見合わせている。


「オヤジ!警備を呼んだのか!なんでだよ!その小僧がそんなに大事なのか!意味が分かんねぇよ!なぁなんとか言ってくれよ!俺達を捕らえるのか?その小僧じゃなくて俺達を?オヤジ!無視すんなよ!なぁオヤジ!」


爺さんやはり完全無視でございます。息子さんは爺さんの親心が分かってないよね。俺みたいな狂人に目をつけられないように守ってくれてんのにさ。親の心子知らずってね。


「もう我慢出来ねぇ!俺達は俺達のやり方を通すぜ!こいつの魔法は封じてあるから警戒するほどじゃねぇんだ!オイ小僧!偉そうにふんぞり返って茶を飲んでんじゃねぇ!さっさと立て!早くしろ!チッ!」


部屋の外で揉める音が聞こえてすぐに落ち着いたと思ったら扉が開いて武装した兵士がふたり入ってきた。


「外は終わったぜい。あとはこいつらか?なんだ旦那の息子じゃねぇか。ハッ!ジハーの旦那も焼が回ったのか?おっとお前らは動くなよ?魔道具まで持ち出しやがってからに。まぁガキどもを通しちまった見てぇだからワシらもざまぁねぇがな」


若者ドワーフ達は抵抗しないようだ。直前まで結構な勢いだったのに、警備の姿を見たら一気に萎んじまったな。そんなもんか?まぁ警備さんは抜き身の得物ももってるしやばい怖いってのはその通りなんだけどさ。


これじゃ一体何しに来たのか分かんないよね?計画があまりにも杜撰過ぎる。何か裏があるのか?いや爺さん達には何のメリットもないしなぁ。


「じゃあガキどもはこっちで預かっとくってことでいいか?客人、迷惑かけてすまなかったな。オラ!余計な手間とらせるなよ?魔道具を渡せ。ダラッ!動け!図体ばっかりデカくなりやがってからに」


これで解決?どういう茶番なんだ?一応俺としては儲けた感はある。これで爺さんから詫びの品なり情報なりを要求出来そうだし・・・いや待った!連れて行かれようとしている息子さんを呼び止めないと。


「ちょっと待ってもらえますか?その乱入者達は部屋に入ってきた3人と外に5人ですよね?はいはい。それでお仲間は他にいませんか?8人で仲良しグループですか?他にはいませんか?」


「キーン殿、それは一体どういう・・・」


「私を拘束してエルフに売るつもりだったとして。結構な立ち回りが必要ですよね?いくら身内相手とはいえたった8人で出来ますか?ここには怖い父親がいるのを知っていたし、建物を出ればそこの警備さんみたいな人だっている。じゃあ私をエルフのところに連れて行くつもりだったんですか?それともあちらさんと連絡を取って引き取りに来てもらおうと考えてましたか?」


爺さんの眉間に皺が深く刻まれた。警備のおっさんもさっきまでの陽気な雰囲気を霧散させて若いドワーフ達を食い入るように睨めつけた。


「お前らまさか・・・外に連絡取ったりしてないよな?ケーブ!答えんか!ええい、出入り口にすぐ確認だ。それとエルフ殿専用の共鳴の魔道具も早く!なんということを。なんということを!」


爺さんや警備のおっさんはすぐに動き出した。共鳴の魔道具で各所に連絡取ってるらしい。しかし俺にはそんなもんに悠長に付き合ってる時間はないよ。


「お忙しい所失礼し・ま・す・が!もし例のエルフと共鳴で連絡が取れるならあちらさんはもうこっちに向かってるかもしれませんね。水精に会ったことは?あいつの移動スピードは非常識ですよ?もうすぐそこまで来てるかもしれませんね?これは一本取られましたね!」


「キーン殿!キーン殿!どうか!今すぐに確認を!もう今すぐ!」


「いやいやぁ。あなたも大した役者ですね。そうやって時間稼ぎしながら私を嘲笑してるんでしょう?上手いなぁ。息子さんの乱入なんてシナリオがどうして必要だったのか分かりませんが、”自分は無関係です”なんて演技が通ると思ってるんですか?」


「キーン殿!ワシらはキーン殿に敵対する意思はありませんぞ!この度のことは誠に申し訳なく!いかようにも詫びましょう!どうかどうか落ち着いて考えて下され!ワシらがこの者どもと共謀する理由はないのです!キーン殿!どうか!今すぐ確認が取れます!まだはっきりした訳でもなく!しばらくしばらく!どうかどうか!」


「あなたの息子の表情はなんて言ってますか?”バレた!”と顔に書いてありますよ?敵対する意思がないだなんて・・・バカにするにしてももう少しやり方に気を遣って欲しいんですけどね」


爺さんの相手をしつつ「気配察知」を限界まで広げる。これといった反応はなし。もう少しお喋りしても大丈夫か?いやなるべく早く退いた方がいいに決まってる。


「また後日伺いますよ。では」


さぁ撤退だ。「転移」を発動して・・・気配察知に反応あり。水精。すごいスピードでこっちに迫ってきている。一体だけで来たか・・・予定変更。


「はっきりしたな」


ボソッと漏らした言葉に爺さんの顔が引きつった。


5・4・3・2・1・・・部屋の扉が弾け飛んで水精が飛び込んできた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ