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第175話 王都のカーニバル

王が殺され、復讐に燃える王国兵が始めたキーンとの戦いは泥沼の様相を呈している。なぜか?理由は単純だ。キーンを殺すことが出来ないのだ。復讐が遂げられない。戦いは続く。いつ終わるとも知れない戦い。泥沼。


そして王国の誇る騎士やその従士、王都の治安を守る兵士や雇われた傭兵が戦いの中でその数を少しずつ減らしていく。


当初王国騎士はキーンという男を舐めていた。それも当然だろう。魔法は使えるようだが所詮はひとり。しかも奴隷の首輪をしたガキでしかない。逃げられたりしなければ何の問題もない。


王殺しの大罪人の処刑をもってこの未曾有の事件の幕を引く。あとは文官が素早く次の王を立てて王都の混乱を回復させるだろう。


ガキひとり処刑したところで王を殺された代償としては全く釣り合わないが、王位が空白なままガキひとりに構っている時間はないというのもまた事実。この事態をさっさと終わらせて切り替えよう。そう考えていた。


しかし数度の戦闘を経てキーンへの評価は一変した。攻撃、防御の技術に見るべきところはない。戦闘技術は素人に毛が生えたようなものでしかない。だがその魔法は格別。


歴戦の騎士達がキーンへ挑み虚しくその命を散らすことになった。相手は斬っても突いても叩いても撃ってもすぐに回復してしまいとどめを刺すに至らなかった。


致命傷と思われるダメージを一瞬でなかったことにする治癒の魔法。「身体強化」を使う騎士の動きに引けをとらない身体能力。衝撃を放つ技に、背中に目でもついているのかと疑うほどの視野の広さ。なにより攻撃を透過する魔法に、一瞬で別の場所に移動する魔法・・・。


これを格別といわずして何を格別というのか。王国で魔法の専門家と呼ばれるような人物をもってしてもキーンが繰る魔法が何なのか断言できなかった。一番に魔道具を使用している可能性が上がったがそれはすぐに否定された。


キーンがそれらしいものを何一つ身に着けていなかったこともあるが、魔道具の性能では考えられない能力をキーンが発揮していたからだ。


「聖域の”祈り”ではないのか?あるいはそれに似た・・・」


そんな声も上がった。キーンが複数の魔法を使っているのは明らかだったからだ。魔道具の使用以外で複数の魔法を扱うといえば聖域限定の魔法である「祈り」があった。もちろん王都に聖域はない。だから「祈り」に似た魔法があるのではないかと推測した。


「複数の魔法もそうだが・・・しかし!しかしアレは魔法を際限なく使うぞ!血反吐を吐きながら鍛えた騎士が連続5分!しかし!アレは!あの奴隷のガキはバケモノではないか!忌々しい王殺しの奴隷が!」


キーンの魔法に対抗するにはどうすればよいか?出した答えは”即死攻撃”。致命傷すら即座に治癒されてしまうなら治す暇も与えず一息に殺すしかない。





ひとりの騎士が「身体強化」を使って高速でキーンに接近し、手に馴染んだ長剣を振るった。狙いは頭。首を半分以上斬ったにも関わらず即座に治癒で復活された経験から、今や狙いは頭一点で統一されている。


そして騎士の剣はキーンの頭を確実に捉えた。決着だ。騎士は成功を確信すると同時に手ごたえがないことも感じた。躊躇いはほんの瞬きの間。騎士は剣を引き戻し追撃態勢に入るが・・・意識はそこで暗転。騎士の意識は闇に沈んだ。


”王殺しの奴隷”は足元に倒れて動かなくなった騎士をチラリと見て嗤った。


「騎士様よぉ。後ろから頭狙って殺ったと思ったか?ハハ!んなわけねーだろ。そんな見え見えの攻撃によぉー引っかかるわきゃねーんだよ!俺はあんたらのおかげで前よりずっと強くなれたんだぜ?ハハハハ。あんたらの動きはもう手に取るようによく分かよ。それこそ見飽きた演劇の一幕のようになぁ。さぁ次は誰かな?おいおいおいおい、随分暗い顔してるじゃないか。親でも死んだか?そうじゃないなら元気だせよ!明るく目いっぱい楽しもうぜ!こいつぁお前らが始めた祭りだろ?楽しまなきゃ損だろうが!ハハハハ!さぁ、早く来いよ!」


キーンがゴキゲンになっているところへ「ファイヤーボール」が放たれた。着弾と同時に大きな火柱が上がる。炎が消えるとそこにキーンの姿はなかった。騎士達の表情は暗い。キーンの笑い声が耳の奥から聞こえるようだった。





王都の一部は無法地帯と化した。キーンと騎士達は王都の内部でも戦闘をしたからだ。激しい魔法攻撃によって崩れた家屋や、瓦礫で塞がれた道。


もちろん被害のあった区域など巨大な王都からすればほんの一部分に過ぎない。しかし混乱のどさくさで商店は略奪にあい、家畜は殺されて食料にされ、家を失った人々が目をギラギラさせて夜の通りをじっと睨む姿が見られるようになった。


倒れた家屋の木材を使って火が焚かれ、人通りの少なくなった道に争いの声が大きく響く。いつまた魔法戦が始まるとも知れない不安な状況のなかで住民は家に閉じこもるようになり、外を歩く者は後ろを気にしながら小走りに駆ける。


被害の有無に関係なく王都の誰もがいつもとは違う不穏な空気を感じるようになった。


いま武官は”王殺しの奴隷”を殺すことに執着し文官は次の王を誰にするかの暗闘を続けている。その間に地方の貴族は中央の情報を集め、反乱の下地を固め始めた。他国はつけ入る隙を探し始め、商人は戦争の匂いを嗅ぎつけてそろばんをはじき始めた。


キーンが王を殺したのは偶然。いわば事故みたいなものだった。しかしその影響は様々な波紋を広げ、王国はここから衰退の一途をたどることになる。


そのきっかけとなった男はただただ嗤いながら戦闘を続け、満足するとどこへともなく去っていったという。


「ハハハ!こりゃあよ、あの街の再現だな。奴隷の俺達に燃やされたよぉ。あの街、あん時を思い出すぜ!確かにこんな空気、臭いだったわ。つまりこいつは何かの暗喩じゃないか?例えばあの時みたいに奴隷を解放しろ的な?よし!サービスだ!奴隷ども!解放してやる!好きに生きろ!復讐したいならすればいい!逃げたいなら逃げるんだ!しかしとりあえず燃やせ燃やせ!燃やせるものはじゃんじゃん燃やせ!これまでの恨みを焼いて目の前を真っ赤に塗りつぶすんだ!ほら、綺麗だろ?ハハハハハハ!」


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