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虹の戦記  作者: 綾野祐介
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第6章 街道の要所エンセナーダ 暗躍Ⅱ⑩

 地下に降りると、もうそこには見張りなどは居なかった。鍵がかかっていたが、無理やりこじ開ける。中に拐された人々が居るのはジェイが確認済みだ。少しでジェイが言い淀んでいたのが気になってはいたが。


 ロックを先頭に部屋に入って一同は息を呑んだ。


「なっ、なんだこれは。」


 それは地獄のような風景だった。拐された男女とみられる存在がそこらこちらに。それらは最早普通の人間のようには見えなかった。


 大きなガラスのケースに番いで無造作に入れられたそれらは、血管から血という血を噴出させられている。その血を管を通して別の容器に入れられるようになっていた。


 そしてその番いたちは何らかの魔道の力なのかずっと性交を繰り返しているのだ。血を搾り取られながらの性交は普通のそれの数倍の快楽を与えているようで、狂ったように続けている。そして血を吸い取られ続けているのだ。


 その番いたちの異常な声を聴いているだけで気が狂いそうだった。そしていくつかのケースには既に全く動かなくなっている者たちもいる。


「す、直ぐに止めさせろ!」


 グロウスが思わず叫んだ。その場の誰もが一瞬動けずにいたのだ。


 部下たちを後始末のため部屋に残しグロウスたちはワーロンたちが居る本宅に向かうことにした。居た堪れなかったからだ。いくら言っても止めない者もいたこともある。もう狂っているのだろう。


 そこに騒がしい集団がやって来た。


「あなたたち、そこで何をしているの!」


 それはワーロン=アクトレス財務大臣の妻、ディアナだった。ワーロンの三倍はあるであろう巨体を揺らせて迫って来た。それは捕縛に行ったグロウスの部下たち数人を引き摺りながらだった。


「奥方様、お久しぶりです、グロウス=クレイでございます。」


「おお、グロウス殿、ご無沙汰をしておりましたね。先日のあなたのお兄様の誕生日パーティー以来だったかしら。それで、この仕打ちはなんでしょうか、私どもがいったい何をしたと仰るのですか?」


「奥方様、このお屋敷の地下に何人もの男女が囚われて血を抜かれておりました。すでに亡くなっている者もいるようです。逆におお聞きしますが、あれは何です?」


「あれはわたくしの若返りの薬を作っているだけですわ。それが何か?グロウス様はわたくしが老いたままでよいと仰いますの?」


 この老婦人もどこが狂っているとしか思えない。自分のしていることが悪いこととは全く思っていないのだ。


「奥方様にはいつまでもお若くいていただきたいと思っておりますが、この所業は罪を問われても仕方ありません。」


 ディアナは心の底から驚いていた。まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったからだ。


「わたくしは、わたくしは、ただ若くありたいと思っていただけですのに。それが罪になると仰るのですね。いいでしょう、夫に判断をしていただきます。グロウス様も夫のいう事なら聞かざるを得ないのではありませんか?」


 ディアナは自信満々に言い放った。ワーロンが全てを治めてくれるという絶対的な自信があるのだ。確かに今までは何か問題を起こしても揉み潰して来たのだろう。しかし、さすがに今回はそうも言っていられない筈だった。


「わかりました、ではお屋敷に戻ってワーロン殿の御採択を得ることにしましょう。」


 グロウスはそう言ったが、勿論夫婦ともに罪に問われることは間違いなかった。ワーロンも知らなかった、では済まされない。どこまで罪が及ぶのか、グロウスのは想像もつかなかった。ガーデニア州全体を揺るがす問題になりそうなのだ。


 ロックたちは二人のやり取りに割って入ることはしなかった。できなかった、というべきか。グロウスに任せるしかなかったのだ。

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