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虹の戦記  作者: 綾野祐介
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第6章 街道の要所エンセナーダ 暗躍Ⅱ⑥

「で、どうするんですか?」


 グロウス男爵家に戻って作戦会議を、ということだったが、なかなかいい案は浮かばない。流石のグロウスも突然アクトレス伯爵家に乗り込むのが拙いことは判る。ただ、男女が何人も消えている、もしかしたら既に死んでいる、となれば放置する訳にも行かない。決定的な証拠が欲しかった。


「グロウス、お前が私を呼ぶとは珍しいこともあるものだな。」


 グロウスの兄であるカシル=クレイ伯爵だった。カシルはガーデニア州騎士団で将軍職を賜っている。騎士団の四分の一を束ねる身だった。


「兄上、お忙しい所、申し訳ありません。」


 グロウスは兄を尊敬していた。丁寧に話すのは兄の前だけだ。父親であるカール=クレイ公爵の前ですら傍若無人の振る舞いを抑えたりはしないのだが。


 居合わせた人たちでカシルに出来事の概要を説明した。


「ワーロン財務卿か。そんな大それた事を仕出かすような人物には見えなかったが。確実な証拠はないのだな。」


「そうです。ジェイというものがそう申しているだけで。」


 グロウスが指さした先には何もなかった。


「ジェイ、姿を。」


 するとジェイが姿を現した。


「わっ、ああ、使い魔というのはお前のことか。それで、ジェイとやら、お前の情報は確かなのだな。」


(別に信じなくともよいぞ。)


「こら、ジェイ、そんな言い方は辞めないか。」


 ジェイとしては自分を信用していない人のいう事にまともに答える気が無かったのだ。


「すいません、ひねくれ者で。でも情報は確かだと思います。」


「ルーク殿、あなたがそう仰るのであれば信用することにしましょう。」


 カシルも少し屈折したところがありそうだった。


「それで、どうします?」


 結局、そこだった。ジェイの情報は確かだろうが何かしらの物的証拠はない。踏み込んで中を見せてもらうまでの間に全て証拠を隠されてしまえば、言い逃れてしまう危険がある。攫われた男女の居る部屋を特定し、確実にそこにいるタイミングで強襲するしかなかった。何かの魔道で隠してしまわれないように注意する必要もある。ガーデニア州の魔道士団は正直当てにならなかった。アゼリアやガーデニアの様な南に位置する州にはあまり魔道を重宝する土台がなかったので高位の魔道士が育たないのだ。


「いずれにしても父上の承諾をいただかないとアクトレス家には到底踏み込むことはできない。今から直ぐに話をしてくるから少しだけ待っていてくれ。それと、公太子様、お忍びとはいえ全く知らせも無しのご訪問はご容赦いただけませんか。心臓によくありません。」


 レイズ公太子のことも含めてカシルは父に報告と決裁をもらわなければならない。大仕事だったが、それが出来る兄だとグロウスは信じている。


「すまぬ、カシル殿。他意はないのだ。ただグロウス先輩に会いたかっただけだ。この件が片付けばすぐにセイクリッドに帰るとしよう。」


「いえ、できれば黒鷹城にお越しいただき父に会っていただきたいものです。その辺りも私が戻ってからにいたしましょう、では直ぐに城に行ってまいります。」


 カシルは弟グロウスとは違い、生真面目な男だった。剣は強くはないが頭は悪くない。ただ真面目過ぎて裏交渉などとは無縁だった。父カールはもっとあくどいやり方も覚えてほしい、と思うのだが、生来の気質なので無理だとも思っていた。


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