第6章 街道の要所エンセナーダ 暗躍⑦
「ルシア、それで今は俺たちの味方、ということでいいんだな?」
ロックは確認せざるを得ない。ノルン老師をザトロス老師が抑えてくれているというのはルシアの出まかせかも知れない。シェラックと組んでロックたちを陥れようとしているかも知れないのだ。
「まあ、そう思っていただいて構わない。但し、事が終わったらすぐに私を捕まえる、というのは無しにしてもらおう、それが条件です。」
ロス黒死病の犯人を目の前にして捕まえられないことは忸怩たる思いはあるが背に腹は代えられない。ザトロス老師とノルン老師の二人を御し得るとは到底思えないのでザトロス老師の協力は大前提だった。
「さあ、入りましょう。」
ルシアは鍵を開けることもなく大きな扉を普通に開けた。何かの魔道や技術なのだろう。暗殺集団としては基本的な能力なのかも知れない。
屋敷に入ると薄暗かった。明かりは付いていない。玄関を入るとすぐに大きな吹き抜けのホールがあった。天井が高い。今のところ、人の気配はない。
ロックたちは1階と2階の二手に分かれて捜索を始めた。ロックとルーク、ダークは1階、ルシアたちは2階だ。
ロックがホールにある左手の扉を開けると長い廊下が続いていた。暫らくは部屋が無く廊下が続いている。廊下は右に曲がっていた。曲がると直ぐに部屋の扉があった。
中の様子を探りながらロックが扉を開けた。応接室のようなアンティークの調度品にあふれた部屋だった。中央にテーブルとソファがあるので、やはり応接室のようなものだろう。誰も居ないことを確認すると次の部屋に向かう。
次の部屋は壁一面に本棚が並んでいるような書斎だった。大きな机があるが、やはりここにも人はいなかった。
次の部屋も、その次の部屋にも人が居ない。廊下がまた右に曲がる。次の部屋は台所だった。使用した形跡がない。もしかして既に屋敷を後にしてしまったのだろうか。
いくつも部屋を確認したが、やはり誰も居ない。ロックたちは元の玄関ホールに戻ってきてしまった。
「ルシアたちの2階に居るんだろうか。」
するとルシア一行が階下に降りて来た。
「居ませんね。いた形跡もありませんでした。」
そもそも、この屋敷ではなかったのか。
「でも、多分ここで間違いないと思います。入ったことは確認してありますが出た形跡もありませんでしたから。」
「だとしたら、今でもこの何処かに居るんだな。こういう場合の定番は地下か。」
「でしょうね。地下へ降りる所は見つかりませんでしたか?多分そんな事だろうとあなたたちに譲ったのですが。」
なんだかルシアに見下されているような気がしてロックは少しむっとしたが見つけられなかったことには違いが無い。直ぐに思い直して地下へ降りられる場所探すことにした。
「定番は書斎の本棚の後ろ、あたりだよな。」
「そうですね、多分そのあたりでしょう。」
案の定、本棚の後ろに隠し扉があった。扉を開けると地下への階段があった。降りていくと地下の広い場所に出た。
「お待ちしていました。」
多分シェラック=フィットだ。
「おいでにならないのかと心配していましたよ。」
ルシアとは口調が似ている。共通して丁寧だが相手を少し小ばかにしたような物言いだった。
「おや、ロックさん、ルークさんの他にルシア=ミストまで。部下の失態を拭いに来ましたか。」
シェラックは正確にルシアの行動を見抜いていた。
「お前、顔を変えているのか?」
「さて、どうでしょう。」
しらばっくれてはいるがシェラックに間違いないだろう。
「なんでもいい、ミロを返してもらおうか。」
「だからミロさんと言う人は知りませんと言いませんでしたか?」
「ここに居る筈だ。どこに隠した?」
地下室は広いが他に扉は無かった。
「屋敷は全部探されたのでは?この部屋が最後の筈です。ここに居ないという事は、そういう事では在りませんが?」
シェラックは自信満々だった。やはりノルン老師が連れて行ってしまったのか。そうなれば最早追いかけることが出来ない。
「大丈夫ですよ、ロック=レパード、彼女は今ここに居ます。」
ルシアは自信ありげにそう言い放った。




