第6章 街道の要所エンセナーダ 暗躍⑥
「あっ、ルシア!」
「何だあなたたちでしたか。」
「あなたたちでしたかじゃないだろう。、どうしてここにいる?」
「それは多分あなたたちと同じ理由でしょう。ミロさんを返してもらいに来ました。」
「返してもらうならこっちだろう。お前たちは再度攫うだけだろうに。」
「そうともいいますね。」
ルシアは少し面白がっていた、ミロを三つの勢力が奪い合う状況を。
「元々はお前が攫うように指示したくせに。」
「いいえ、それは私の指示ではありませんよ。うちの者が勝手にやったことです。私はここエンセナーダで待っていただけですから。」
ルシア=ミストはロックたちに追い詰められた時、師匠である大地のザトロスに救われてどこかに連れて行かれたのだった。それがエンセナーダで、終焉の地の部下たちが来るのを待っていたのだ。
「いずれにしてもミロはこちっに返してもらいますよ。それはそうと、あいつらの正体は判っていますか?」
ミロを救い出してからのことは別として、今屋敷を襲う事は共通していたから情報は共用しておきたかった。あくまでルークは冷静だった。もしかしたら相手側には氷のノルンが居るかもしれない。用心してし過ぎることは無かった。
「彼らはシェラック=フィットとそのご一行様ですね。シェラック=フィットとはグロシア州騎士団参謀長ラング=フィットの嫡男で自分も参謀だったはずです。グロシアでは有数の貴族、フィット伯爵家の跡取りですね。」
「そうか、グロシア州の。」
グロウス男爵を連れて来なくてよかった、とロックは思った。公けになればガーデニア州とグロシア州の外交問題になりかねない。騎士団員ならまだ攫われたミロの捜索に来た、と言い逃れられるだろう。シェラックが自らの身分を明かすこともない筈だった。
「ザトロス老師はどうしておられます?」
「師匠は自らの塒に戻られた。不肖の弟子に構っている暇はない、と仰られて。」
ノルン老師が居たとしたらザトロス老師に対抗してもらう、という案は無理なようだ。
「相手側に氷のノルン老師が居る可能性があるのですが。」
「それは大丈夫だと思う。もしそうなら師匠は戻らなかっただろう。ただ今エンセナーダには数字持ち魔道士はノルン老師ではなくガルド老師が居るらしいから気を付けるように、と言われましたが。」
「ガルド老師?」
「そう。序列6位、影のガルド。この近くに住んでいて自分の塒から出て来たらしい。ソニー=アレスと一緒に。」
「ソニーと?」
「アーク=ライザーはアストラッド州に戻っているはずだ。ソニー=アレスだけがディアック山に行った後エンセナーダに戻った。ガルド老師はディアック山に住んでいるのかも知れないな。」
ルシア=ミストは様々な情報をくれた。それが本当の事なのか、何か目的があるのかは判らなかったが。
「どうしてそんなに親切に色々と教えてくれるんだ?何か騙そうとしていないか?」
「そんなつもりはない。そもそも終焉の地は闇ギルドだが依頼があって初めて動く組織だ。あなたたちを殺せとは言われていない。」
「殺せと言われていない?依頼はルークの暗殺じゃなかったのか。」
「これ以上は言えませんが、まあ、あなたたちを襲ったのはただの私怨です。師匠に緊く戒められましたから、もう敵対する気はありませんよ。部下の仕出かしたことの責任を取るためにここに来たのです。」
何か雲行きが変わって来た。意訳するとミロを救うために協力する、と言っているような聞こえる。
「時間がもったいない、早く中へ。」
なぜかミストを先頭に屋敷の中に入ることになったしまった。




