第6章 街道の要所エンセナーダ 暗躍⑤
ジェイは間もなく戻って来た。
(潜伏先は確認して来たぞ)
「それで、あいつらは一体何者だったんだ?」
(それは判らん。ただ、あの男のことをシェラック様と呼んでおった。)
「シェラック、確かシェラック=フィットか。」
その名は聞き覚えがあった。だが顔が違った。見覚えのある顔ではなかった。
「多分顔を変えていたのだろうね。僕にもジェイにも気づかれない魔道、シェラックの名前が本当なら氷のノルンの仕業ということになる。」
「氷のノルン?何者だ、それは。俺は魔道の方は~っきりだから全く知らんわ。」
「グロウス、魔道も少しは勉強した方がいいぞ。剣で戦うにしても魔道に対応できていないと一方的に負けてしまうこともある。」
「そういうものか。公太子の命なら少しは魔道も修練してみるか。」
グロウスの腕で魔道も使えるとなると、なかなか強敵になる、ロックは変なところで期待を膨らませていた。
「氷のノルンは公国に12人しかいない数字持ちの魔道士の一人だ。確か序列順位があったはずだか。」
「氷のノルンは第9位ですね。ただ、この順位がそのまま魔道士としての強さとも限らないようです。数字持ちになれば、隠密の魔道を使用しなくても他の魔道士から所在を感知されることがなくなるといいます。僕の最初の師匠は序列第12位、時のクロークという魔道士でした。」
「おおそうなのか、ではルークとやら、お前は魔道がかなり使えるのだな。たしかロックも魔道は全く使えなかったと記憶している。二人ならいい同行者になるのだろう。」
「ルークは剣の腕も相当なものですよ、俺が保証します。」
「それなら俺と立ち会え。結局ロック=レパードには一度も勝てなかったしな。」
「そんなことをしている場合ではありません、男爵。僕たちはミロを探しに行かないと。」
「そうであった。俺が行くと目立ちすぎる、うちの家のものを呼ぶから連れていけ。」
グロウスは父親であるカール=クレイ公爵付きの騎士団員を20人ほど呼び寄せた。男爵家にはグロウス本人の希望で騎士団員は誰も詰めていなかったからだ。
レイズ公太子も付いて行くと言い出したが、さすがにそういう訳には行かないので、グロウス家で一緒に待っていてもらうことにした。但し、ダーク=エルクは公太子の強い希望で同行することになった。詳細を報告させるためだ。ダークは公太子と離れる訳には行かなかったが、同行したい公太子を止めるには仕方なかったのだ。
「ではお前たち、このロックの指示に従って誘拐犯を捕まえてこい、抜かるなよ。」
一行はジェイの案内でシェラックたちの潜伏している屋敷に向かった。どうも空家になっていた元貴族の屋敷を買い取って使っているらしい。
「騎士団の皆さんはそれぞれ分かれて2箇所ある出入り口を抑えてください。俺とルークとダークさんで正面から普通に訪ねてみます。ルーク、相手の顔を変える魔道は見破れるか?」
「最初からそうと判っているなら、そう難しいことじゃないよ、任せて。」
「ジェイ、ミロの居場所はまだ判らないか?」
(無理じゃな。今はもうここには居ないのかも知れん。)
「そうか。賭けだが仕方ない、突入しよう。」
ロックたちが屋敷に突入しようとした時だった。同じように屋敷に入ろうとしている一行が居た。その中に見知った顔があった。それは終焉の地、ルシア=ミストだった。




