第6章 街道の要所エンセナーダ 暗躍④
「何だ、ロック=レパードではないか、どうして公太子と一緒に来たのだ?」
「グロウス男爵、お久しぶりです。そこで公太子に捕まったのですよ。」
「この者たちが泊る場所がない、というのでな。」
それはレイズ公太子も一緒だろう、とは誰も突っ込まない。
「まあいい、全部面倒は見よう。それで公太子はなぜエンセナーダへ来られたのだ?」
グロウスは在学中は普通に後輩として接していたのだが立場が変わって公太子と男爵になってしまった。どう接したらいいのか、決めかねていた。
「グロウス先輩、前のままでいいですよ。レイズと呼んでください。その方が楽ですから。」
「そうか、それは助かる。で、レイズ、どうしてここへ?」
結局聞きたいのはそこだった。何かの休養があるとも思えなかったからだ。
「単なる気まぐれです。それとロック=レパードの所為でもあります。」
「えっ、俺の所為?何かしましたか?」
ロックには全く心当たりがなかった。特に親しい間柄でもなく接点はないのだ。
「そう、君の所為だ。君は御前試合で優勝して見せた。私が出場を止められたのにもかかわらずだ。」
そういうことか、とロックは納得がいった。公太子は御前試合に出る気満々だったのだ。それが公王の親心で止められてしまって、そこで優勝したロックが羨ましかったのだろう。
そして、そこで負の感情が勝らないのが公太子だった。レイズは仲の良かったグロウスを訪ねて気晴らしがしたかっただけなのだ。公王の命もなくガーデニア州をつも周りも連れずに訪れる、という我が儘をやってみたかった。
「なるほど、そういう事でしたか。でも、それは俺の所為ではないのでは?なんとか言ってくださいよ、グロウス先輩。」
グロウスはロックと面識があった。グロウスは御前試合の準決勝で敗れたほどの腕前だったのでロックとは学内で面識があった。ロックとは何度か手合わせしたが一度も勝てなかったので年下だが一目置いていたのだ。
「レイズのことは判った。気のすむまでここに居るといいさ。それでロック、お前はなんでここに?それと、そこの青年をそろそろ紹介してくれないか。」
ルークは3人の会話には入らないようにしていた。セイクリッド青年学校時代の話で盛り上がっていたからだ。ジェイとの念話を時々交わしながら、場の雰囲気は壊さないように、と思っていた。
「俺たちは仲間が攫われたのを追って来たんです。それが途中で追っていた馬車から消えてしまったんで、とりあえず今のところ打つ手がない、というところなんです。」
「攫われただと?それは騎士団の死事だな、詳しく話せ、力になるぞ。」
ロックは今までの経緯を掻い摘んで説明した。
「そうか、それは高位の魔道士が絡んでいることは間違いないな。俺はそっちの方きからっきしだからあまり力にはなりないかも知れんが人数をそろえて人海戦術で行くならいくらでも手を貸そう。」
グロウスの申し出はありがたかった。ロックとルークの二人では限界があるのだ。
「それで君がヴォルフ公の養子だと?」
「そういうことになっています。ルーク=ロジックと申します。お見知りおきください。」
「私の元には、その話は入ってきていませんね。」
レイズ公太子はダークの方を見たがダークも首を横に振った。
「俺も聞いてはいないが、ロックが言うのだ、間違いないだろう。ヴォルフ公も災難だったな。」
ロックは他州の揉め事なので詳しくは言えなかったがルークが養子になった経緯を少しだけ説明したのだった。
「それあえず、そのジェイとやらの報告を待って、直ぐに行動を起こすとしよう。」
ロックたちはエンセナーダで強力な助っ人を得たのだった。




