第6章 街道の要所エンセナーダ 暗躍③
「何かあったようだな。」
レイズの好奇心は感度が尋常では無かった。揉め事など直ぐに感知してしまう。ダークと執事が迎えに行くと開口一番そう言われた。
「馬車が逃げているのを誰かが追いかけていたようです。」
「それは事件だろう。詳細は?」
「いえ、公太子をお迎えに戻らな向ければいけませんでしたので。」
「馬鹿か。私など放っておいて、そっちが優先だろう。詳細を確かめに行くぞ。」
こうなったらレイズ公太子はもう止まらない。仕方なしにさっきすれ違ったあたりに戻ることにした。グロウス男爵家に戻る道でもあるので寄り道にはならない。
「先ほどはこの辺りですれ違ったのですが、このまま真っ直ぐ通りを進むと騎士団詰所に当たります。もしかしたら何か知っているかも知れません。一度グロウス様の御屋敷に行って男爵に問い合わせしていただくのはどうでしょう。」
ダークは提案してみた。グロウスが止めてくれることも計算に入れての話だ。
「判った、その方がいいだろう。直ぐにグロウスの所に向おう。」
案外公太子は直ぐに同意してくれた。上手く行けば厄介ごとに巻き込まれなくて済む。
「おい、あの馬車じゃないのか?」
公太子が見つけた馬車は確かに追いかけていた方の馬車だった。
「止めて事情を聴いて来い。」
仕方なかった。ダークは馬車を戻して先ほどの馬車を追いかけた。今回はあまり速度を上げてはいなかったので直ぐに追いつき、前に出て馬車を停めた。
「すいません、少し話をお聞きしたいのですが。」
ダークは声を掛けてみた。直ぐに御者と中から一人青年が降りて来た。二人とも若い。
「何か御用ですか?」
御者だった青年が逆に尋ねる。
「ええ、あなたたちは先ほどこの通りで馬車を追いかけていませんでしたか?」
二人は顔を見合わせた。
「そうですが、あなたたちは誰です?」
「失礼、私は聖都騎士団のものですが、私の主が事情をお聞きしたいと申しまして。」
レイズ公太子の身分を明かす訳には行かない。と同時に自らが聖都騎士団親衛隊副隊長であることも明かしてしまう訳には行かなかった。但し嘘偽りを言う訳にも行かなかったので聖都騎士団とだけ伝えたのだ。
「聖都騎士団の方がなぜエンセナーダいいらっしゃるのですか?聖都騎士団の方が主様と言うと身分の高い方のようですが、そんな方がなぜ私たちのような者に興味を持たれたのですか?」
疑問は当たり前だ。公太子に振り回される役はいつものことだったが。
「申し訳ありません、お忍びなので身分を明かす訳には行かないのですが、主がとても心配しておりまして。」
少し誇張したが、ほぼ嘘は無かった。心配しているのではなく、単なる好奇心なのだが。
「それではこちらも込み入った事情をお話しする訳にも行きません、ご了承ください。」
その時馬車をレイズ公太子が執事の静止を聞かずに降りてきてしまった。
「ロック=レパードではないか。」
「レイズ公太子、どうしてここに公太子が。」
ロックとレイズは同年齢で青年学校の同期だった。但しロックの父親は聖都騎士団副団長で大将軍職ではあったが貴族ではなかったのでレイズとは友人などではなかった。ただお互い顔は知っている程度の同期生だったのだ。
「ちょうどよかった、付いて来い。」
ロックたちは無理やりグロウス男爵家の客人となってしまった。




