第6章 街道の要所エンセナーダ 陸路を行く⑨
「誰か女の人が攫われた先を見ていなかっただろうか。」
ロックたちは手分けして聞いて回ってみたが無駄だった。誰もあっけにとられて覚えていないのだ。それほどの早業だったらしい。終焉の地も一般的に見ればそれほど弱いわけではないはずなのだがそれ以上の手練れが揃っていたのだろうか。
ルークの探査魔道では人が多すぎてミロを見つけるのは難しかった。人が居る、居ないは判るのだがミロを特定できないのだ。ジェイと別れて地道に探すしかない。
ロックたちが街からエンセナーダ側へ向かう街道の出口に向かうと見たことがある馬車の一行が居た。途中で追い抜いた一行だった。
「ロック、あの馬車。」
「ああ、見たことあるな。俺たちより後に着いたはずなのにもうソノを出るなんて、よほど急いでいるか、」
「急いで出なければいけない理由が出来た、とか。」
「ジェイ、ジェイ!」
ロックはジェイを呼んだ。ジェイは街の逆方向に行っていたはずだ。しかし、ジェイは直ぐに現れた。
(なんじゃ、どうした、見つけたのか?)
「いや、今街を出て行った馬車、途中で追い抜いた馬車みたいなんだが、もしかしたら、と思うんだ、見て来てくれないか。」
自分たちの馬車は置いてきてしまっている。走って追いかける訳にも行かない。
(よし、まかせておけ)
とりあえずロックたちは馬車に戻って街の東出口に向かう。しばらくするとジェイが戻ってきてきた。
(何かの魔道がかけられておるようで中の様子は判らなんだが、逆に何かを隠している、ということになるまいか。)
「そうだね、どうするロック、追ってみる?」
「賭けだが確率は高そうだ、行こう。」
ロックたちは謎の馬車一行を追いかけることにした。
「シェラック様。」
「どうしました?」
「何者かがこの馬車を探っていたようです。」
セヴィア=プレフェスはグロシア州騎士団参謀であるシェラック=フィット付きの魔道士で参謀補佐という立場だった。シェラックはあまり魔道を使えないので、その意味での補佐だったのだ。
「ルークというロック=レパードの同行者でしょうか。」
「いえ、なんといいますか、人ではないと。」
「人ではない?」
「はい、多分使い魔の類かと。」
「なるほど、それでこの娘のことは相手に判ってしまったまですか?」
「いいえ、確かなことは魔道で隠していますので判らないとは思いますが、逆にそれが何かを隠している証になるのかもしれません。」
「魔道というものは使い方次第、ということでしょうか。よろしい、このまま馬車を走らせてとりあえずエンセナーダを目指しましょう。途中で追いつかれたらその時はその時です。それと、やはりノルン老師にはこちらに来ていただきましょう、何か嫌な予感がします。」
「連絡を入れておきます、エンセナーダで合流、ということでよろしいでしょうか。」
「そうですね。さっきの使い魔の件は引き続き注意しておいてください。」
「承知しました。使い魔とはいえ、なかなかの使い手の様でしたので注意しておきます。」
セヴィアはシェラックの父であるラング=フィット参謀長からくれぐれも息子を守るよう言い遣っていたのでシェラックを危険な目に遭わせるわけには行かなかったが本人は自らが危ない目に遭うことに頓着していないので困っていた。
フィット家は太守であるウラル公爵家に次ぐグロシア州でも名家中の名家であり子供のころからの食客という形で養っている者が大勢いる。シェラックに今従っている者たちは全てその一部でありシェラックの為には命を惜しまないのだった。




