第6章 街道の要所エンセナーダ 陸路を行く⑧
ソノの街にロックたちが着いた時には終焉の地一行も既に街に入っていた。当然ルークの探索魔道の範囲だ。
「見つけたよ、この先の宿屋に居る。」
「よし、強襲するぞ。」
ロックたちは終焉の地が入った宿屋に向かった。宿屋に近づくとなにやら騒ぎが起こっていた。
「何かあったのか?」
取り巻いている野次馬に訊いてみた。
「よくは知らないが戦闘があったらしいよ。それで女の子が一人連れ去られたみたいだ。」
倒れているうちの一人は見覚えのある男だった。終焉の地に間違いない。そうすると連れ去られたのはミロということになる。つくづく攫われる運命にある娘だ。
ロックは見覚えのある男に話しかけてみた。
「おい、どうした、何があった。」
「うっ、お前は確かロック=レパード。」
「覚えていてくれてありがとう、話が早い。で、何があった?」
「言う必要はない。」
「いいのか?ミロを攫われたんだろ?失態を重ねたお前を組織はどう扱うのだろうな。」
「いや、それは。しかしお前に話しても私の失態が帳消しになることはない。」
「それはそうだな。だがこのまま話さないと俺の不興を買うことになるがそれでもいいか?」
ロックの口調は穏やかだが、それが逆に怖かった。ナルミナスは色々と諦めてしまった。
「判った、話す。私たちはミロを攫ってここに着いたのだが誰だか判らない一行に突然襲われたんだ。心当たりはない。ただ私たちよりもこういったことに慣れているようだった。どちらかと言うと騎士団らしくはないが強さは騎士団並という感じだ。」
「騎士団らしくない騎士団、か。」
「あくまで私の感想だがな。だからミロの行方はしらない、これでいいか?」
終焉の地の粛正から逃れるために早く逃げ出さなくてはいけない。いつまでもここでロックの相手をしている訳にはいかなかった。
「あと一つ。どうしてミロを攫った?」
「それは。ルシア様の命令だ。理由は知らない。私は裏切り者には死を、と主張したのだが許されなかった。」
ロックとルークが睨む。
「それが我が組織の掟だったから当然だろう。なぜルシア様はミロを生きて攫わせたのかは判らないが一番の可能性はお前たちへの人質だろうな。」
「それ以外は考えられないね。」
「それでルシアは一緒じゃないのか。」
「ルシア様はザトロス老師が連れて行ってしまった。その後連絡が途絶えているので私たちは元の命令のままミロをエンセナーダまで連れて行くだけだったのだ。」
これ以上はミロについての情報も得られないとロックたちは終焉の地一味をロスでの黒死病を蔓延させた犯人としてソノ駐留のガーデニア騎士団に引き渡した。
その際ロックは名乗ったのだがルークはソノがガーデニア州なので変な軋轢の原因になっても困ると思い名乗らなかった。ガーデニア州のカール=クレイ公爵とアゼリア州のヴォルフ=ロジック公爵は犬猿の仲でもないが特に良好と言うわけでもなかったからだ。
元々年上のガーデニア州太守よりも年下のアゼリア州太守の名声が高いことが気に入らない、程度の話ではあった。剣の腕の評価は剣聖ヴォルフとは相当開きがあった。市政官としてのカール=クレイ公爵は暗愚ではなかったが特筆すべきこともなかった。
終焉の地一味の身柄はアゼリア州であるトレオンまでガーデニア騎士団が連行し、そこでアゼリア州騎士団に引き継ぐことになった。




