第6章 街道の要所エンセナーダ 陸路を行く⑦
ロックたちの馬車はトレオンからエンセナーダに向かう陸内街道の街ギーブを超えてサイラスの手前を走っていた。キャラムから街道を外れた終焉の地を追いかけているのだがキャラムから真っ直ぐエンセナーダを目指すとしてもサイラスとその次のソノの間辺りには街道に戻るはずなのだ。いずれにしても街道を通って遠回りをするロックたちと道なき道を行く終焉の地の速度はそれほど差が出るとは思えなかった。
「サイラスには居ないようだね。」
「ジェイも見つけられないと言ってるし、サイラスは素通りして先に進むか。」
「いや、馬を休ませないとこの先進めないよ。焦る気持ちはわかるけど明日朝早くに立とう。」
「わかった。じゃあ宿は取らないで野営しよう。それにしても奴らはミロを攫ってどうしようと言うのだろう。それにもうルシアも居ないというのに誰が取り仕切っているのか。」
「正直判らない。ただルシアはザトロス老師が連れて行ったとはいえ、そのまま終焉の地の配下たちと合流していることもあり得るからね。」
「そうだな。ルシアが居るなら逆に俺たちへの人質にミロを、ということになるから判り易いし俺たちに会うまでは無事だと思うんだが、ルシアが居ない方が目的が判らない分、不気味だな。」
「ルシアならミロをもう一度洗脳して、という手もあるからね。まあ、あれこれ考えても手があるわけでもないし一刻も早く見つけるしかないと思うよ。」
「そうだな、ジェイ、大活躍するチャンスだぞ。」
(言われなくとも判っておる。次の街まで先行して探しておこう。)
「頼んだよ、ジェイ。」
「シェラック様。」
「どうでした?」
「奴らはまだサイラスです。終焉の地も発見していないようです。ただ我らも終焉の地を見つけるには至っておりません。」
「そうですか。わかりました、引き続きロックたちを見張ってください。それと終焉の地も。ノルン老師には連絡が取れますか?」
「ノルン老師は一旦ヨークにお戻りになられました。」
「そうでしたね。よろしい、では私たちも先を急ぐとしましょう。そろそろこの魔道のによる変装も解きたいものですが老師のお陰でロックたちにも正体を見破られなかったのは幸いでした。」
「私どもでもシェラック様とは判らないお姿です、奴らに判るはずがありません。」
「まあ私の力ではありませんから次の折には使えないかも知れません。場合によっては再度老師にこちらに来ていただく必要もあるでしょう。いつでも連絡が取れるようにしておいてください。」
ロックたちとは違いシェラック=フィット一行は普通に宿屋に泊まっている。シェラックたちの目的地はエンセナーダだった。本来ソニー=アレスの動向を探るのがシェラックの目的だったのだが、エンセナーダからシャロン公国全土に張り巡らされた情報網の整備を優先するようノルン老師に指示を受けたのだった。
ノルン老師の心の内は計り知れない。グロシア州に利する深慮遠謀の筈だが魔導士などは信用できるものではない、とシェラックは割り切っていた。ノルン老師とシェラックの関係は子弟ではない。お互いが相手を利用している、という刹那的な関係だった。
ロックたちとシェラック一行はそれぞれの思いを抱きサイラスからソノへと向かう。そして終焉の地一行もミロを連れソノに近づきつつあった。




