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虹の戦記  作者: 綾野祐介
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第1章 虹 5 アドニスの邂逅

第1章 虹


5 アドニスの邂逅


 その一行は目的がよく判らない奇妙な一行

であった。普通旅をしている一行と云えばキ

ャラバン(商人)か吟遊詩人か興行一座ぐら

いで、後は精々太守などの庶民とはかけ離れ

た存在の行列、又は騎士団だけだった。庶民

が生まれた街を離れることは厳しく取り締ま

られていたので、生まれた街を一歩も出ない

まま一生を終える人々が圧倒的に多い。そん

な中で、その一行は服装を見れば庶民の服装

としか見えず、ただ物腰などには多少高貴な

ものが感じられそうなところがあって、只の

庶民とも見えない。


 実は一行の中の二人の娘のうち一人はガリ

ア州太守ガイア=イクスプロウド公爵の娘レ

イラであった。もう一人の娘は侍女のフロー

リア、そしてもう一人の青年はロック=レパ

ードであった。


 レイラは御前試合をセイクリッドまで見に

行きガリア州の州都ラースまで戻るとすぐに

今度は海が見たいと言い出したのだ。セイク

リッドに行ったことだけでも相当父親に叱ら

れたのだが、そんなことはお構いなしのお姫

様だった。もちろん、今回も許しを得て旅立

った訳も無く、勝手に飛び出したのだ。ガイ

ア公も困った娘だとは思いながらも望みを叶

えてやりたくて、丁度一緒にラースに来てい

たレイラの従兄弟のロック=レパードを追い

かけさせた。ロックの腕前は保証付であるし

行き先もアゼリア州ロスだと云うのでヴォル

フの元なら大丈夫だと考えたのだ。ロックに

もヴォルフに御前試合の報告をしなければな

らないだろうと納得をさせた。


 そんな訳でレイラとロックとフローリアの

三人は無事アゼリア州の州都アドニスまで旅

をしてきたのだった。


 一行が一休みしようと街中に入っていくと

何だか人だかりが出来ている。好奇心旺盛な

レイラは早速輪の中に入っていった。


「ねぇ、どうしたの?」


「あの若いのがからまれているんだ。からん

でいるのはこの辺りの大ボス、ラバトの手の

もの達だが、若い方は見かけない顔だな。」


 見ると丁度ロック達と同じ年くらいの青年

が十数人のガラの悪そうな男達に囲まれてい

た。


「ねぇ、ロック、助けてあげなさいよ。あの

子、やられちゃうわよ。」


 しかし、ロックは動こうとしなかった。


「黙ってみてなよ、直ぐにかたが着くさ。」


 乱闘が始まったが誰も青年を捕まえられな

い。大勢の人数と戦うときに捕まってしまえ

ばそれで終わりである。普通は如何に逃げる

かが勝負と云うより囲まれた方の決め手にな

る筈だが、この青年の場合は違っていた。大

勢の中を巧みにすり抜けながら一人、また一

人と確実に相手を倒して行く。あと三人にな

って流石に自分達の不利を悟ったのか、男達

は決り文句の捨て台詞を残して逃げ去った。


「凄いわあの子。あら、ロックは?」


 見回すとロックはレイピア(細剣)を抜い

て青年に近づいている。そして物も言わずに

打ちかかって行った。


「何をするんだ、今の奴らの仲間か?」


 青年はロックのレイピアをあっさりとかわ

して間合いを取った。


「いやあ、ごめんごめん。つい剣の使い手を

見ると腕を試したくなる性分でね。」


 そう云いながらロックは剣を収めた。


「危ない性分ですね、驚きましたよ。」


「何処で見に着けたんだい?、素晴らしい太

刀筋だなぁ、正式に立合ってくれないか?」


 ロックは他のことにはあまり興味が無かっ

たが、剣については特に関心をもっている。

シャロン公国全土の剣豪たちと手合わせして

もらいたいと望んでいるくらいだ。青年の腕

は確かなものだ。誰の手ほどきなのか、かな

りの有名な剣豪に違いなかった。


「あなた、変わった人ですねぇ。それだけの

腕なら何故助けてくれなかったのですか?」


「君が勝つと判ってたからさ。相手にならな

いとね。それはそうと誰に教わったんだ

い?」


「クロークという魔道師です。ラグに住んで

いますよ。それじゃ、僕はこれで、急ぎます

から。」


 青年は急ぎ足で街中へと向かった。


「君、名前は?」


 ロックが大声で叫んだ。


「判りません!」


 青年は意味不明の言葉を残して去って行っ

た。


「判らないってどんな名前なんだ!」


 青年は教えられたドーバの家の前で途方に

暮れていた。玄関の戸に張り紙がしてあった

のだ。


「暫らく留守にする。二年は戻らん。待てる

ものは待て、待てないものは去れ。」


 どうしようもなかった。この張り紙が貼ら

れたのが一体何時なのか。二年前ならもう直

ぐ戻ってくるはずだが、貼られたばかりなら

後二年は戻らないことになる。近所の人に聞

いてみるとほぼ二年前に出て行ったらしい。

しかし、二年と書いて二年で戻ってきたこと

もないらしい。青年は改めて途方に暮れてし

まった。


 諦めて宿でも探そうと背を向けたときだっ

た。誰もいない筈の家の中から何か物音が聞

こえてきた。ゴソゴソと動いているようだ。


「泥棒かな?」


 青年は閉じられた窓に耳を近づけてみた。

やはり誰かが居るようだ。どこか開いている

所がないかと探してみると裏口にあたるドア

が動いた。


「ここから入ってみよう。」


 辺りはもう薄暗くなりだしていた。家の中

はもう灯り無しでは歩けないほどだった。中

に入ってみると暗闇の中で人の気配がする。


「誰じゃ!」


 青年が今云おうとした台詞を相手に云われ

て驚いたその時、急に灯りが点いた。部屋の

中は特に荒らされた様子も無く整然としてい

る。そしてテーブルの上に老人が居た。正確

には座っているように見えた。実際には老人

はテーブルの上に浮いていたのだ。かなり小

柄なクロークと比べてもまだ小さい老人だっ

た。


「お主、変わった星を持っておるな。」


 落ち着いた様子から見てこの家の持ち主、

すなわち魔道師ドーバに違いなかった。


「あなたがドーバ老師ですか。僕はラグのク

ローク老師の所から来た者なのですが。」


「クロークじゃと、あの不肖の弟子はまだ生

きて居ったか。」


「ここに手紙があります。」


 ドーバは暫らくはクロークからの手紙に見

入っていた。


「よく判ったが、よく判らん。まあなんとか

するから暫らくはここに居ればよかろう。」


 こうして青年は再び魔道師の家に居候する

ことになった。

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