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虹の戦記  作者: 綾野祐介
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第1章 虹 4 時の都ラグ

第1章 虹


4 時の都ラグ



「漸く気づいたようだの。」


 青年は何処か体が痛いのかぎこちなく身を

起こした。目の前の椅子に座っているのはど

うも胡散臭そうな老人だ。後頭部が割れるよ

うに痛かった。触ってみると瘤ができていた。


「あのう、ここは?」


 青年は恐る恐る聞いてみた。何がなんだか

判らない。


「ここは時の都と呼ばれるラグの外れのあば

ら家じゃ。お主は街道から外れた岩場に捨て

られておったのよ。儂でなければ見逃してお

ったろうな。感謝してもらおうかの、あのま

までは死んでおったぞ、お主。」


「そうですか、あなたに助けていただたんで

すね。ありがとうございます。でも、私は何

故そんな所に倒れていたのでしょうか?」


「大方山賊にでも襲われたんじゃろうて。頭

を殴られたようじゃの。どうだ、痛むか?」


 確かに頭が痛い。それともっと重要なこと

に気づいた。


「山賊に?確かにそのようですね。ところで、

私は誰なのでしょうか?襲われたときのこと

も一向に思い出せないんです。」


「自分が誰じゃと。そう言えばそんなことを

聞いたことがあるのう。頭を打った拍子にそ

れまでの記憶がなくなってしまうことがある

とか。」


 青年は記憶を無くしてしまっていた。名前

さえも思い出せない。


「それと失礼ですけどあなたは?」


「儂か、儂の名はクロークじゃ。それ以上の

ものでも、それ以外のものでもないわ。」


「クロークさんですか。改めてありがとうご

ざいます。たすけていただいて申し訳ないん

ですが。」


「なんじゃ、なんでも云ってみるがいい。」


「実は腹が減って。」


 グウと鳴ったタイミングと同時に青年は云

った。クロークは思わず笑って、


「そうかそうか、腹が減っていると云うこと

は生きておる証拠じゃ、よいよい、遠慮する

な、お主の食い物ぐらい直ぐに用意してやろ

う。」


 そう云うとクロークは何か呪文のようなも

のを呟き手をテーブルの上に翳した。すると

どうだろう、そこには飲み物とパンが数種類

皿にのって現れた。


「これはいったい?」


 青年は驚いて聞いた。それはそうだろう、

何もなかったところに突然食べ物が現れたの

だから。


「これは手妻の類じゃな。驚ろかんでも良い

わ。安心して食うがいいわ。結構いける筈じ

ゃ。」


 青年はむしゃぶりつく様に食べ出した。


 青年が気づいてから数日、とくに何事もな

く順調に回復していた。相変わらず記憶だけ

は戻らないままに。


 クロークが魔道師であることに青年は非常

に興味をもって、その術を教えて欲しいと頼

んだ。クロークは特に今まで弟子を取ったこ

とは無かったが、青年の記憶が無いことに関

心を寄せていたので記憶が戻るまでの間、剣

と魔道を教えることにした。するとどうだろ

う、青年は元々魔道師であったかのようにや

すやすと呪文を覚えていった。普通なら5年

はかかるであろう下位ルーン語も簡単に覚え

てしまった。


「お主には驚かされることばかりじゃのう。

記憶を無くす前は相当高位の魔道師であった

かのようじゃて。それに剣の腕前ではとうに

儂を追い抜いておろう。儂に遠慮して隠して

いるようじゃが、儂には隠し事はできんと覚

えておくことじゃ。」


 魔道師としてはかなりの上位者であるクロ

ークなので、そちらで追いつかれることは当

分なさそうだが、剣の腕前では完全に師匠を

追い抜いてしまった。剣では元々かなりの腕

前だったらしく、自然と体が動いてしまう。

剣と魔道、各々の修練を続けるうち、早や半

年が経とうとしていた。


 ある日青年は思いつめた表情で老師の前に

立った。流石に自分の記憶が戻らないことを

心配し出したからだ。


「老師、まことに申し訳ございませんが、私

の相を観ていただけませんでしょうか。」


 青年は恐る恐る申し出た。相を観るとはそ

の人の運勢や未来を予言するようなもので、

最下級の魔道師が生業として主に占いなどを

やっている。クロークはかなりの上級魔道師

なので当然その程度の事はできる。


「わかったわい。やっと言い出しよったか。

何時言うかと思っておったが。よいよい、そ

こに座るがよい。」


 クロークは青年の額に手を当てて徐に呪文

のようなものを唱え出した。古代上位ルーン

語とか云うらしく、魔道師でもかなりの上位

者しか使うことができないらしい。クローク

は自慢気に話してくれた。これならかなり正

確な予言が出来るはずだ。


「自らを探し放浪するものよ、汝の運命を切

り開くにはヴォルフと会い、オーガを探せ。

さすれば運命は開けん。」


 それだけで神託は終わった。青年には何が

なんだか判らなかった。


「オーガじゃと、それにヴォルフとはあのヴ

ォルフ=ロジックのことか、お主いったい何

者だ。」


「僕に聞かれても困るんですけど。オーガと

かヴォルフって誰ですか?」


「それはそうじゃな。儂が知っているオーガ

とはこのシャロン公国建国時に武王マーク=

レークリッドと共に戦ったと云われている伝

説の魔道師じゃ。もう四百年以上も前のこと

になる。ただオーガは今でも生きていてシャ

ロン公国存亡の危機には必ず現れるであろう

と云われている。儂の魔道師仲間達でもその

存在は知ることが出来ないほどの偉大な魔道

師じゃ。我が師であるドーバ老師の師匠でも

ある。我が師はオーガの12番目の弟子とい

うことじゃった。それとヴォルフとは多分ア

ゼリア州太守のヴォルフ=ロジック公爵のこ

とじゃろう、それ以外には考えられんの。」


 伝説の魔道師、アゼリア公、いったい青年

は何者なのだろうか。


「僕はいったい何者なのでしょうか?」


「儂には判らんわ。それならちょうど良い、

儂の師匠であるドーバ老師がアゼリア州の州

都アドニスに居られるはずじゃ。お主が望む

ならアドニスに行き我が師ドーバを頼るがよ

い。ヴォルフ公に逢う算段とオーガを探す手

かがりが一度に得られるかもしれんて。儂が

手紙を書いてやるからそれを持って行けば悪

いようにはしないじゃ。多少個性的すぎると

ころがあるので、最初は戸惑うかもしれんが

の。」


「判りました、ぜひお願いします。」


 青年はクロークに旅の支度をしてもらって

直ぐにアドニスに向けて旅立ったのだった。

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