第4章 厄災の街 ナミヤ教グレデス教会⑤
「ブラインドの魔道を全員にかけるのは無理
だよ。」
「じゃあどうするんだ。」
「僕とソニーでレイラとフローリアの二人は
隠せるから、四人は正面から突破するしかな
いね。」
「ちょっと待って、僕も一緒に?細剣なんて
ただの飾りで持っているだけだよ?」
「仕方ないじゃなか。君の代わりにレイラか
フローリアに剣を持たせるつもり?」
ソニーは剣には自信がなかった。アークに
一度も勝てたことがない。同世代のアストラ
ッド騎士団訓練生の中でも最弱といってもい
いくらいだった。但し、彼らとの訓練の中で
痛いことが嫌いなソニーは避けることに関し
ては誰にも負けないようになった。勝てなか
ったが負けることもなくなったのだ。
「とりあえずロックとアークに道を切り開い
てもらって、僕は君と彼女たちを守ることに
専念するから、ブラインドの魔道の方は頼ん
だよ。」
「わかった。そっちは得意だから。」
結局ソニーは剣より魔道であることを認め
ざるを得なかった。
「じゃ、行くよ。」
「なんでルークが仕切ってるんだ?」
「いいじゃない、ロックは剣だけ振るってな
さい。」
「その言い方は酷い。」
「いいから、行くよ。」
六人(見た目には四人)は一斉に部屋を出
た。ドアは鍵が掛かっていたが誰も意に介し
ない。ぶち壊して出た。ドアの前には二人の
見張りが居たが、ドアが蹴破られる音に驚い
た瞬間にロックに倒されていた。
廊下を出口の方に進む。何かが起こってい
るのか、人が出払っていた。チャンスだ。人
に出くわさない方がいい。
「闇ギルドの奴らも居ないようだ。このまま
出るぞ。」
教会の中は誰も居なかったが外が妙に騒が
しい。六人は誰にも会わずに出口が見えると
ころまで来られた。
「どちらへお出かけですか。」
不意に出口の方から人影が現れた。ルーク
がさっき見た、サマム=シャイロックと話を
していた男だ。
「いつまでも、お邪魔しても悪いと思ってね。
お世話になった、ありがとう、では。」
「はいそうですか、と言うとでも?皆さんに
はここから出てもらっては困ります。大司教
が仰っていませんでしたか?街は疫病が蔓延
しているので危険なのです。お部屋に戻って
ください。」
「いや、疫病の件は十分注意するから、この
まま出させてもらうよ。」
「今は大司教もお出かけになっています。駄
目だと言っているでしょう。」
急に途中から声の質が変わった。丁寧に話
すことは諦めたようだ。
「たった一人で俺たちを引き留められるとで
も?」
「可能かどうか、試してみますか?」
ロックたちの素性はバレているはずだ。そ
れでもこの自信はどこから来るのだろう。何
か秘策でもあるのか。
結論は単純な人海戦術だった。教会の外に
は百人近い教徒たちが取り囲んでいる。彼ら
全員が人の壁だった。
「ある程度の剣の使い手や魔道を少し齧った
ものには効きませんが出来るだけ眠らせてみ
ましょう。ソニーもお願いします。」
ルークは詠唱を始めた。ソニーも続く。声
の届く範囲なら一般人には多少効果があった。
半数以下に減らすことには成功したが、まだ
まだ数が多い。全員を殺すわけにも行かない
のでどうしようかとルークたちは考えあぐね
ていた。
「自己紹介がまだでしたね、私はこの教会で
雑務を司っておりますルシア=ミストと申し
ます。お見知りおきを。」
「嘘だ。」
「嘘だ?何を仰っています?」
「終焉の地、だろ?」
ルークは正直に言いすぎる、とルーク以外
の全員が思ったが、もうどうしようもない。
「終焉の地?そうですか、ご存知でしたか。
それなら話は早い。そうです、私は闇ギルド
終焉の地の幹部を拝命しております。そして
あなたたちの中に私の目的の方がいらっしゃ
る、ということになります。私どもは目的の
ためには少し回り方を待ちこんだとしてもあ
まり気に掛けてはおれません。もうお判りで
すね。皆さまにはここで全員死んでいただき
ます。」
「誰が目的なのか、依頼主は誰なのか、と聞
いてもいいかい?」
「聞いていただくのはご自由ですが、答える
ことはありませんね。お判りだと思いますが。」
「では、お前を捕まえて身体に聞くしかない
ってことだな。」
心当たりがあるのか、アークが脅すように
言った。
「ご自由に。」
やはり自信は揺らいでいない。後ろの人数
が半数になっても同じだ。別の秘策があるの
か。そんな思惑は関係なしにロックはルシア
にいきなり切り付けたのだった。




