第4章 厄災の街 港町ロス⑧
ロックが疫病で朦朧としている群衆の中を
誰にもぶつからずにすり抜けていく。それを
みたアークも続いた。
「やるなぁ。」
「そっちこそ。やはり御前試合に出ればよか
った。お前と決勝で当たりたかったぞ。」
「決勝は無理だな。シオンが居たから。」
「シオンとは誰だ。」
「シオン=イクスプロウド、レイラの兄貴だ
よ。」
「イクスプロウド。ガリア公の。」
「そう。公の嫡男だ。強いぞ。」
「でもお前が勝った。」
「まあ、それは時の運さ。それより急ごう、
ルークたちが待っている。」
二人は群れから離れている罹患者たちを避
けながら合流場所と向かうのだった。
「今のがロック=レパードとアーク=ライザー
だ。」
「聖都騎士団副団長とアストラッド騎士団長
の息子、ということですか。」
「そして、その連れがソニー=アレスとレイ
ラ=イクスプロウドとその侍女。」
「アストラッド侯とガリア公の。」
「そうだ。あと一人は、情報がない。」
「シェラック様にもお判りになられないこと
があるのですね、少し安心しました。」
「お前は私を何だと思っている?神だとでも
言うのか。」
「私にとっては神のごときお方だと。お父上
より若様のことをぐれぐれも頼む、と言い遣
っておりますゆえ。」
「お前、若いのに言い回しが年寄りくざぃぞ。
まあいい、遠目に跡を追う。あのメンバーが
こんな辺境の港町で揃ったのは偶然ではない
だろうし、タイミングもタイミングだ。」
「そうですね。ロスの街はどうなるのでしょ
うか。」
「街ごと、いっそ焼いてしまうか。」
「物騒なことを。」
「いや、案外本気だ。それしかこの疫病を終
結させる方法がないかもしれない。」
「そうなのですか。」
「判らん。ただ、あの中の誰かが行っていた
が、ネズミが病気を媒介している、というの
も強ち的外れではないかもな。」
「そんなことがあるのですか。」
「私にわかるわけがないだろう。お前も少し
は自分で考えろ。おい、見失うなよ。」
一人はシェラック=フィット。聖都セイク
リッドより北の位置するガリア州よりもさら
に北にあるグロシア州の騎士団参謀長を父に
持ち自らも参謀としてウラル=ダッシング侯
爵に仕えている。
もう一人はセヴィア=プレフェス。フィッ
ト家に代々仕える執事の家系で現執事長の息
子だった。
シャロン公国の北の果てのグロシア州の騎
士団員が、南の果てアゼリア州のさらに最南
端であるロスに居ること自体、本来はあり得
ないことだった。そして二人は身分を隠すよ
うに商人隊の恰好をしている。公務で訪れて
はいない、ということだった。
「よかった、ロック、無事だったんだね。」
「当り前さ。こいつもそこそこ強いしな。」
「そこそことは何だ。決着をここで付けても
いいんだぞ。」
「止めなよ、アーク。彼は君を煽って剣を交
えたいだけなんだから。今ここでどちらかが
怪我でもしたら、助かる可能性が低くなる。
ロック、君も自重してもらえるかな。」
「わかったよ。」
ロックはバツが悪そうに返事をした。確か
にアークの腕を確かめたかったのだ。
「相変わらずだね、ロック。彼は初めて会っ
た時、僕に無言で切り付けてきたんだよ。」
「それは酷いね。」
「それを言うなって。ルークはちゃんと避け
たじゃないか。」
「避けたからいい、ってもんじゃないよ。誰
彼構わず挑むのは止めないといつか痛い目に
会うよ。」
「痛い目かぁ、合ってみたいもんだなぁ。」
そこにいた全員(隠れて様子を伺っている
フィットたちも含めて)が呆れてしまったの
だった。




